2-7.
もう何往復したかわからなくなった。
ネコ台車を持つ手も、疲れで握力がなくなっている。
ゴム軍手があるから、ギリで引っかかっているが、気を抜くと落としそうだ。
普段からトレーニングはしているつもりだが、いかんせん、やはり一人ではできることの限界があるなと思う。
結局、大量のミンチを入れるのに番重が足りず、最後にバケツを使うほどだった。まだ、あと数往復分はあるが、とりあえずこれを埋めたら、今日はもうやめだ。
残りは冷凍庫に入れておこう。
目的の場所あたりに付いて、一息入れる。
タバコを吸っていた頃なら、一服してから、となるところだが、妻が病気になった時にやめてしまった。
今更、吸う気にはなれない。
一息を3回ほど繰り返してから、腰につけていた折り畳みショベルを手に取る。
ミンチの穴掘りの為に買ったこれは、握りの太さ、重さ、サイズ、色味、折り畳みのギミック。
全てがちょうどいいお気に入りだ。大穴を掘る時には使わないが、ミンチを捨てる穴を掘る時には大活躍している。
メンテナンス専用の油まで買ってしまったくらいだ。
その相棒を駆使して、今日最後の仕事に取り掛かる。
朝から作業して、もう夕方だ。
サラリーマンの時は、適度にサボれる環境だったので、下手したら会社を辞めた後の方が、休まずに作業をしている気がする。
もちろん、稼働日は少ないが。
お金があると、やりたくない事をやらなくて済むので、ありがたいが、人間はやらないといけない事がある方が人生は充実すると言われている。
まさに、それが今だと感じる。
ある意味、充実しているのだろう。
人間の欲望は限りないと言うが、そんなことはない。少なくとも私はそうだ。
現状に満足してしまって、する事、したい事がなければ、終わってしまえばいい、とすら思っている。
実際、妻がいなくなった後、この世界から退場しようとしたくらいだ。だがあの時に、この世界には必要がない人間がいる事に気がついて、そして、それを掃除できる環境にいることに気がついたから、今がある。
よく、クソみたいにポジティブなスピリチュアル本に『全てに感謝』みたいな事が書いてあるが、まさに今、それかもしれない。
やるべき事ができている事に感謝だ。
ありがとう、ゴミがゴミでいてくれて。
しばらく掘り進めると、ちょうどいい穴がいくつかできた。
ネコ台車を目の前に持って行き、持ち手を上げてミンチを落とす。落としきれないものは、ショベルを使ってこそいで行く。
触覚と聴覚で金属同士が擦れるのを感じる。
ここだけがどうしても慣れない。すごく不快だ。
頭蓋骨の蓋を開けてる方が、まだマシだ。
肉をあらかた落とし、ミンチでいっぱいになった穴の上に土を被せる。
ミンチが入った分、こんもりと土が山になるが、構わない。
臭くなければいい。
そのうち分解されるだろう。
よし。これで、今日はこれで終わりにしよう。
明日、残りのミンチを片付ければいい。
そしてきっと、明後日くらいから筋肉痛か始まるだろう。プロテインを飲んで、ゆっくり風呂に入って乗り切ろう。
まだまだ、やらないといけないことがある。無理はしないよう、できる範囲でやればいいのだ。




