1-2.
車を走らすこと30分。
別荘のある山道の入り口に着いた。
金属製の門を開け、再度車に乗り込む。
ここからさらに安全運転で10分弱。別荘のある草地に着いた。
ぽっかり開いた草地に現れる一軒家。私の別荘だ。
堅牢な作りで、買ったその時に大きな台風に晒されたがびくともしなかった。
少し高かったが、資産を余らせても引き継ぐ人など誰もいないので、思い切って購入したのだ。
部屋に入って、雨戸と窓を開けて、シーリングファンのスイッチを入れる。
床は自動掃除機が定期的に回ってくれてるので、来るのは1週間ぶりだがホコリが積もってることもない。
便利な世の中になったものだ。
荷物を所定の位置に置いて、地下の部屋の様子を覗く為、階段を降りて二重扉を開く。
少し据えた匂いが鼻につくが、どうしても地下なので、それは仕方がないと思うことにする。
一旦溜まっているゴミを処分できたら、しっかりと掃除をしようと思うが、それには、早くかオーブンを完成させなければならない。
地下室は特に何か変わった様子はない。
以前に使い終わった時のまま、工具位置も同じ配置のままだ。
部屋の隅に、プラスチック製の水色の番重が重ねて置いてある。
地下室を出ると、家の裏手にある作りかけのオーブンのDIYに取り掛かることにする。
とはいえ、本体はもうほぼ完成している。
ネットや本を参考にしながら半年ほどかけて、少しずつ組み上げ、コンクリートを塗り、あとは煙突部分に煙を出にくくするフィルター装置を取り付けて、さらに煙を散らす為に、業務用の扇風機を配置すれば完成だ。
これで上手くいけば、溜まっているゴミを処分して、次のゴミ処理へと進むことができる。
体が効かなくなるまで、あと10年か20年か、それとも、その時が来るまで、できるだけ、せめて、自分の目の届く範囲は他人様の役に立つように生きて、後世の若者達に少しでも綺麗な世界を引き継ぎたい。
青臭いやりがいに年甲斐もなく浮き立つ気持ちのまま、作業を進める。
別に誰に言われたわけでもないし、それによってお金や名声を得るわけではない。だが、すでに妻も他界し、子供もおらず、妻も私も養護施設出身で、その施設ももうだいぶ前になくなってしまった。
紛れもなく天涯孤独な自分に自嘲してしまうが、今となっては、その方が都合がいい。何もしても、誰にも迷惑をかける事なく、誰にも褒められる事なく、そのまま消える事ができる。
取り付け作業はそう時間をかける事なく終わった。
あらかじめ買っておいた業務用の扇風機を煙突部分に向けてセットしようとしたが、角度がうまくいかない。
何か手頃な台になるものがないかと考えると、そういえば、余っているクーラーボックスがあったはずだと思いあたり、持ってきて、その上に扇風機を設置した。
あとは、微調整だけだ。
これで、完成だ。
多分、プロの業者なら数日でできるようなものなのだろうが、素人のDIYで約半年。
多少、粗もあるが、素人が作ったにしては十分満足できるコンクリートオーブンだ。
内壁を塗る時に酸欠になりかけたり、ブロックを足元に落としてあわや大怪我をしかけたり、苦労をした分感慨もひとしおだ。
さあ、試し焼きだ。
額から流れる汗もそのままに道具を片付けて、部屋に戻る。地下室の大型冷凍庫に保存していた業務用のスペアリブや、かたまり肉を数回に分けてオーブンの中に運ぶ。凍ってカチカチだ。
庫内にスペアリブや肉と、薪を配置して火をつける。加減がわからないので、少し多いかと思う量をセットして、頑強な扉を閉めた後、空気穴用に扉の下半分を開けた。
中を覗くと思ったより火の勢いが弱い気がしたので、少し離れた場所から、念のために用意していた小型の業務用扇風機でオーブンに風をゆっくり目に送り込んだ。
目に見えて火の勢いがまし、薪が燃える音が耳に届く。
口元がニヤけてきた。
ふと思い出して煙突を見ると、煙もあまり出てない。今度は、クーラーボックスの上に設置した業務用扇風機のスイッチを入れると勢いよくオレンジ色の羽が回り始めた。
完全に、とまではかなり煙を散らすこともできている。これなら、遠くから見た時に、もうもうと煙が立って、不審を覚えられることもないだろう。
あとは、どれくらいしっかり焼けきれるかだ。
すでに行動に入ってしまった為に、浮ついた気持ちも落ち着いた。
あとは、待つだけだ。
ふと自分の手や足を見ると、薪の木屑が付いている。
よし、一旦、シャワーを浴びて、着替えよう。
細工は流流仕上げをごらんじろ。だ。




