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まずは、完全に冷凍されている二人分の脚と、胴体をお湯でさらしながら解凍していく。
熱湯だと火が通ってしまうので、ぬるま湯だ。
口の中にはまだ、さっき食べたグラタンの名残が幸福感を持続させる。
二人分を一気に食べたので、おなかがいっぱいだ。
子供のころ、イチゴやスイカなどのフルーツを一人でおなか一杯食べるのが夢だった。
施設の食事では、ほんの一口か二口分しか出なかったからだ。
施設を出てから、イチゴを1パックを一人で全部食べたり、ケーキをホールで食べたりと、小さな夢は叶えたが、一回すると二度とすることはなかった。
大体の夢は満足すると終わる。
だが、グラタンに限っては別だ。
あんなに美味しい食べ物が、あんなに手軽に作れるなんて、食品メーカーに感謝しなければならない。
今日みたいにエビを入れたグラタンが一番好きだが、下ごしらえが面倒くさいので、ソーセージをぶつ切りにしたものを入れたり、鶏肉を入れたりと、何を入れても合う。
ホワイトソースを粉から作ってみたこともあったが、やはり、グラタンの素で作るのが一番美味しい。
脚や胴体の表面があらかた解凍できると、次は細かくする作業に入っていく。
先端が鉄製の鋤を当て、勢いよく体重をかけることで、脚や胴体に切り目を入れていく。
刃の先端は、自分でしっかり研いだので切れ味は抜群だ。
ある程度、切り目がついて、プラプラと中途半端につながっているところを、手斧で切り分けていった。
全てを切り分けるのに結構な時間がかかった。
特に鋤で体重をかけるのが、結構な重労働だった。
押し込む際に体重を乗せる為に、鋤の持ち手を当てていた胸やアバラ付近が少し痛い。
次にゴミ回収をするまでに、手作業ではなく、自動で骨ごと解体できるようなものを買うかDIYで作った方がよさそうだ。
電動の丸のこのようなものでもいいが、飛び散りそうだし、結局手作業の延長になる。
そうだ、ギロチンを作ろう。
重しを付けて、刃を落とすだけで、骨ごと断ち切れるようなやつだ。
首を落とすわけではないから、罪人の首を入れる穴の部分を作る必要はなく、上から刃を落とせば、力を必要とせずに、切断できるのではないだろうか。
やることがまだまだありそうだ。
そもそもモノづくりは好きな方なので、面倒くささは感じない。楽しみでもあるし、作業する時間もある。
投資で、働かなくていいくらいのお金を手に入れたからできることだ。
もし、まだ働いていたとしたら、こんなことはできなかっただろうし、この別荘も買っていない。
お金があると、嫌なことをしなくて済むし、時間もある程度は買える。
あの時、投資のアドバイスをくれた当時の会社の同僚は、まだあの会社で働いているのだろうか。
会社を辞める前に、アドバイスしてくれた御礼代わりにいい焼き肉を奢ったが、あの羨ましそうな顔は覚えている。
人の顔と名前をすぐに忘れる私にしては、よく覚えている。
まあ、きっかけをくれたのは彼だが、リスクを取って実行したのは、自分だ。
世の中、行動しないと成功も失敗もしないのだ。
すこし懐かしい気持ちに浸りながら、先ほど買ったミキサーをセッティングし、ミンチを入れるバケツや番重を用意する。
番重に一旦溜めて、運ぶときにバケツに移していけばいいだろう。番重は一つで足りるだろうか。
これくらいなら足りそうな気もするが、まあ、とにかくやってみるか。
やってみてから、必要があれば修正すればいい。




