1-1.
今日はいい日だ。
カラッと晴れて、気持ちのいい青空で、風も適度に吹いている。
溜まっていた洗濯や、用事をするのにちょうどいい。
軽く朝食を食べると、すぐに洗い物をする。
男の一人暮らしだと、シンクに洗い物が溜まったり、脱ぎ捨てた靴下が散らばってそうなイメージだが、実際、結婚する前まではそうだった。妻と一緒になって、少しづつ変わっていき、変えてもらい、
今ではきっと妻より、いや、妻よりは言い過ぎか、妻と同じくらいには綺麗好きになった自覚がある。
妻が亡くなってから大分経つが、部屋を綺麗に保ち続けている。妻はもう帰ってこない。帰ってはこないが、綺麗に保たれた部屋を見渡すと、ソファの端っこに体育座りでテレビを観ながら私の帰りを待つ、妻の姿が、あの頃のまま目に浮かぶ。
私は、ソファから目を逸らし、洗濯機を回しに行く。そこに妻はいないから。
今週は少し汚れることが多かったので、風呂場で汚れた服を下洗いをして、浴室乾燥にかけていた分と、1週間分をバスケットにまとめていた分を合わせて洗濯機に突っ込んで、スイッチを入れた。
洗濯が終わるまで約40分。
今日の午後の予定を頭の中で立てながら、部屋に掃除機をかける。
昼ごはんは何を食べようか。朝はフレークとプロテインだから、昼はちょっとがっつりいきたい。
駅裏の定食屋の日替わりランチにしようか。中華屋さんの餃子と焼き飯のセットもいいな。たまにはフライドチキンをむさぼってみようか。ああ、やってしまった。あのフライドチキンを想像してしまったら、食べたくなってしまった。昼は米が良かったけど、もうフライドチキンしか選択肢がなくなる。まあ、いい。
食べたいものを食べたい時に食べる贅沢を堪能させてもらおう。
先ほど朝食をとったところなのに、すでに昼食の事を考えてしまう自分の健康な胃袋に、おかしいやら、誇らしいやらがないまぜになっているうちに、掃除機をかけ終わってしまった。
普段から、綺麗に、モノを床に置かないようにしているので、日々の雑事がはかどる。
習慣の賜物だ。
時計を見ると、洗濯が終わるまでまだ20分ほどある。
何か他にする事がないか考えてみるが、荷物の準備も昨晩のうちにしているので、特にない。
先ほどまで妻がいたソファに座り、タブレットPCを手に取る。
前々から、ちゃんとした粉砕機が欲しいと思っていてメーカーのサイトをいくつかブックマークをしている。
値段は大した事ないが、いざ買ったとして思ったように使えなかったら、必要がない無駄なモノを置いとかなければならなくなるのが嫌だ。
なので、新しいモノを買う時には慎重になってしまう。
いくつか粉砕機の仕様を見ていると、洗濯を終える音が聞こえた。
念の為、タブレットPCで天気を確認すると、週末まで雨予報はなさそうだ。晩までには帰ってくるつもりだが、作業が捗らずに向こうに泊まる可能性もある。
この予報なら、もしも泊まることになっても、大丈夫そうだから、外に干すことにした。
洗濯物を干し終わり、電気の消し忘れを確認してから家を出る。
別荘に向かう途中にあるフライドチキンの店に立ち寄り、店内飲食でチキン2ピースのセットを頼んだ。サイドメニューのポテトはビスケットにして、ドリンクはお茶だ。
ただ、値段が1000円以上することに驚いた。
自分がまだ学生の頃は確か5、600円だった気がするが、それから比べるとほぼ倍だ。
近頃、闇バイトだかなんだかで若者がお金欲しさに無茶な犯罪に走るが、ここ何十年だかで働く人の所得があがらず、こんな感じで物価は上がる。
そして、経済が悪化すると、犯罪率が上がる。
お金の為に犯罪を行う気持ちがわからないでもないが、ただ、それだけだ。
犯罪者に同情も忖度も必要ない。
とりとめもなく考えていると、いつの間にか1ピースを食べ終わっていた。
指を紙ナプキンで拭いてから、二つ目をむさぼる。
二つで十分だな。
若い頃は四つくらい食べないと満足できなかったが、流石に二つで十分だ。
口の中の旨い油を流し込むようにお茶をストローから吸い込み、最後にビスケットにソースをかけて食べる。
このハニーメイプルというソースは絶品だ。
多分、パンに塗っても美味いんだろうが、このビスケットにこそマリアージュするように作られている。
私は食に詳しくなどないが、美味いものは美味い。
フライドチキンのセットを食べ終わり満足感と共に店を出る。
さて、腹も膨れたし、別荘のゴミ片付けや、オーブンのDIYに励むとしよう。




