優しい人の一票をもらった話
私は中学校では結構大人しかった。
根暗ではない。清楚なだけだ。
とにかく、中心にいるような明るく華やいだ存在ではなく、片隅に咲く可憐な徒花だったわけだけれど、そんな私に少しだけスポットライトが当たった瞬間があった。
学校って夏は暑くて冬は寒いという自然を感じられる良いところなんだけれど、さすがに冬はコートがかさ張るので、廊下にハンガー掛けを大量に並べてコートを掛けていく、というのが私の中学校の冬の風物詩だった。
中学生らしく、ハンガーにちゃんと掛けられないのか、コートがよく廊下に落ちていたんだけれど、私はそういうコートを見つけてはハンガーにかけ直してあげていた。誰に見られるわけでもなく、褒められるわけでもなく、なんとなく。
3年生の終わりだったかな。卒業アルバムに載せる企画として、投票コーナーを設けることになった。最初に結婚しそうな人とか、仕事人間になりそうな人とか、そういう質問にクラスのみんなで投票し合うやつ。その中で、クラスの優しい人というのがあった。
もちろん、クラスの人気者に投票が集中するのだけれど、なぜか私にも一票投票されていた。後で聞いた話によると、クラスの人気者のあの人が私に投票してくれたとのことだった。
それから5年後、私が大学に入学して地元の服屋でアルバイトを始めた頃、その人が現れた。
何をするわけでもなく、話をするわけでもなく、ただキャメル色のカーディガンを買っていっただけなんだけれど、私はとても顔が赤くなってレジ処理がドギマギしていたと思う。
「ありがとうございました」
「またのご来店をお待ちしております」は言うことができなかった。なぜ声を掛けられなかったんだろう。もしかしたら私に会いに来てくれたのかなって、そんな思い出。
この記憶があるから、私は誰にも評価されないことでもコツコツと続けることができるのかもしれない。私の素直さに一票をくれた人がいたから。