補助線を永遠に引いた塾の先生の話
中学2年生の冬期講習から、私は塾に通い始めた。勉強は嫌いじゃなかったけれど、数学は苦手だった。
塾には色々な先生がいた。学校の先生と違って、みんな変な面白い先生ばかりだった。
数学の先生は、今思うと大学生のアルバイトだと思うんだけれど、お兄ちゃんっていう感じの、眼鏡をして茶髪のやさしい先生だった。
あるとき、幾何学の問題で補助線を使った解法の説明をしていたんだけれど、授業時間の1時間を全部使って、永遠に補助線を引き続けて解説し続けた。
私は途中でついていくのが難しくなってしまって、こんなの解けるわけがない……って思ったんだけど、先生が最後に「はい。実はここに、こういう考えで補助線を引けばすぐに解けます」って言って5分で解いた。
「なんでそんなことしたんだよ~」ってみんなが言う中で、先生は「一番原始的な解き方してみた。面白かったでしょ?」ってさらりと言った。
私は、面白くはなかったけれど、数学に原始的な解き方っていう考え方があるんだって驚いた。この言葉はとても印象的で、ずっと私の記憶に焼き付いている。
たぶん、これが数学の美学に触れて、ちょっと数学が好きになった日。