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夢におおきな爆笑を  作者: 使えない奴隷
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たった一滴でも効果は絶大なのだろう

 四限が終わり、購買という激戦区に向かったジャパニーズ侍を横目に弁当を取り出す。匡季(まさき)を待っていたはずなのだが前に座ってきたのはまさかの御越後(ごえちご)だった。

 向かい会っている状態に唖然としている俺に構わず彼女は机に弁当を広げた。握手会はどうやら四限までの休み時間で終わらせていたらしい。俺と匡季は間食の為に購買にいたから知らんけど。


「……?女子と食わないの?」

「…私、邪魔?」

「いや」


 …コイツってこんな面相臭いやつだっけ?でも数回しか話していない仲だし、知らないのも当然だ。頭カラッポで話してたし。

 どう相手をすればいいかもわからないので俺も弁当を広げ黙々と弁当を食べる。四階最終階段の予定は騒ぎが静まったのでなしだ。


「はーちゃんって私の事興味ないでしょ?」

「うん」

「…………ホモ?」

「んなわけねえだろ」


 このご時世その発言危険だからやめてほしい。いやてか前に座るのやめてください。おっぱい見ちゃうんで。すごいな弁当もあるしリアルオカズじゃん。


「んで、何しにここに?変な噂が出る前に女子と食べたほうがいいんじゃないの?」

「はーちゃんは変な噂ないって女子が口を揃えていってたよ。信頼されているんだね」


 なんかそれはそれで…何とも言えない気持ちになるな。まあ信頼がないよりかはマシだけど。

 さて、匡季(アイツ)がいないときにこうして来るってことは、


「…マサのことで訊きたいことでも?言っとくがアイツ彼女いるぞ」


 悪魔だけど。 


「いや別に匡季君のことは何とも想ってはいないよ。感謝はしてるけどね」

「気づいていたんだな」


 あったり前じゃんと彼女はわざわざ確認するなという感じで言う。五分の粘り。それは彼女に負担をかけさせないためだ。廊下の列をみると後半から怪しいやつもいたしな。優先権?そんなものは知らん。

 でもあれだけの人数をここまでの休み時間で捌いたのはすごいな。お疲れ剥がし係。


「それで?いい加減本題を教えてクレメンス」

「それ古くない?」


 うっせ。


「私と友達になってよ。ついでにあだ名付けてほしい」

「………」


 んー。こいつやっぱ地雷だったかもしれん。俺にとって。マズいな距離感近いタイプだ。

 信じられないかもしれないが僕、七回くらいボディータッチされると勘違いしてしまうの。本当に気を付けなければ。いきなり『はーちゃん』呼びだしな。


「友達になるのはいいけどあだ名は勝手につくもんだろ。作るもんじゃねえよ」

「はーちゃんは?」

「俺のは親から浸透したの。てか男子の友達候補なら他にいっぱいいるだろ。ほら小野田(おのだ)とか」


 ホレアイツ、と視線を誘導させると御越後はコンマ数秒も満たないうちにこっちを向いた。

 そのまま少し除きこむように見ながら、


「…やっぱり、私邪魔?」

「邪魔じゃない…です」


 勝てる訳がなかった。さっきの発言もそうだがコイツ自分が可愛いの知ってるな…。



「それで、あだ名考えてくれた?」

「そんな一瞬で思いつかねえよ。マサ、お前なんか案だせ」

「私はーちゃんのオリジナリティじゃないと嫌だ」

「だってさはーちゃん」


 いや意味わからん。何だよオリジナリティって。こちとら五限の英語とかいう常に睡眠導入を聞かされている状況なんだぞ、思考が回る訳がない。おまけに朝してないせいでもう俺のオナリィティがオーマイガーってやかましいわ。

 しかし考えないと、このままだるい状況が続くのも事実。

 御越後茉結(まゆ)か。ふざけて『えっちー』なんて呼んだら俺はマジの亡霊になる気がするのでこれは却下だ。…疲れてますね俺。

 そもそもあまり聞かない苗字だからな。漢字も知らないし。そうなると名前から連想だな。まゆ…。ゆゆ…。


「…『まゆゆ』とか?」

「それがいい!」

「うるさ。んじゃそれで」


 軽く言ったつもりなんだが案外気に入ってもらったみたいだな。我ながらセンスは悪くないと思う。

 嵐のように過ぎ去った彼女を遠目に机に突っ伏す。


「マサ、因みにお前だったらどんなあだ名にする?」

「御越後茉結ねえ…。…えっちー」


 俺の第一案じゃねえか。



「御越後」

「違う。まゆゆ」

「……えっちー」

「殺すよ?」

「すみませんでした」


 こえー。頑なにまゆゆ呼びさせてくるじゃん。てか浸透させるの早すぎ。女子なんて大体がまゆゆとかまゆゆちゃん呼びだったぞ。何があったんだよ…。

 七限は幸いなことに自習。しかも監督が比較的駄弁ってても怒らない我らが担任の平井ちゃんだったのでみんな席は自由に移動するし寝るやつもでてくる。因みに俺は爆睡する部類、のはずなんだがどうも御越後がうるさく眠れない。……君今日転入してきたんだよね?俺と出会ってまだ数時間も経ってないよね?


「はーちゃん、名付け親なんだから言ってあげなよ」

「…悪かったな。まゆゆ…」

「………はーちゃん匡季君には素直だよね」


 否定はしない。他のクラスメイトと比べたら匡季に対しては素直な方だろう。

 てかマジで眠い…昨晩まともに寝れなかった代償が来てるな…。再び机に突っ伏す体制に入った瞬間、浅街と目が合った。咄嗟に目を逸らすがその行動が間違いだと気付いたのはその直後だった。なんでこっち見てんだよ…。

 少し目が覚めてしまったことだし、せっかくだ。御越後に他愛ない質問でもしますかね。


「そういえば御越…まゆゆはどこに住んでんの?」

「言わない」


 んじゃ寝ますかね。わざわざ無理に訊く必要ないし。

 突っ伏す体制に入ろうとする俺に対して御越後は髪を掴んで顔を上げさせた。あの…痛いんですけど、なにここ取調室?この時代こういうのは問題になるんですよ?

 この女暴力的すぎるだろ…するならその辺の男子にしてくれよ。ほら、女の子に触れられたい男子どもがこっち見てんぞ。女の視線は怖くないのかよ御越後(コイツ)…と思ったらみんな駄弁ってこっち見てないのね…。


「…仏谷(ふつたに)

「あっそ」


 言うのかよ。仏谷、隣町か。小学校卒業まではそこのスイミングスクールに通ってたっけ。懐かしい気持ちになるな。四泳法までマスターしたから中学時代までは無双できたのはなろう系主人公になった気分で良い思い出だ。

 

「あ、マサ。帰り本屋行くのに付き合ってくれよ」

「いいけど君、頭皮痛くないの?」

「痛い。御越後離して」

「…まゆゆ。てか教えてあげたのに反応薄くない?」

「離さないと一生御越後な。はい時間切れ」

「え、ちょっ」


 勝ち逃げ成功。頭痛てえ…。まじ母が美容師じゃなかったらこれは抜けてましたね。どうも、生まれてから一度も市販のシャンプーを使ったことない人間です。

 すまんな御越後。童貞の俺からしたら女子をあだ名呼びは千年早いんだ。

 

「…わかった。しばらく御越後でいい。友達に無理してほしくないし。その代わり…私も葉津祈(はづき)って呼ぶ」

「あいよ」


 意外と素直じゃん。俺の頭皮で無事解決なら安いもんだな。



 終礼のチャイムがなり監督が担任なのでそのまま帰りのホームルームに入る。やっと一日が終わるのか…。


「まゆゆちゃーん!帰えろー」

「うん」

「まゆゆ学校馴染めたー?」

「まだ、かな…。移動教室の場所とかよくわかってないし」

「御越後さん…!明日とか俺らと遊びに行きませんか!?」

「あーごめんね。家の引っ越しの手伝いとかしなきゃいけないからちょっと無理かも」


 ホント、ウチのクラスの女子はコミュ力高いな。現国の授業が嘘みたいだな。まあ緊張もあったからだと思うが。逆に男子、お前らは距離縮めようと必死すぎ。てかマジ御越後の人気すごいじゃん。普段積極的じゃないやつまで興味津々だし。視線おそらくバレてるぞ。七限の嫉妬もあわせて。

 

「マサ、行こうぜ」

「どこの本屋行くの?」

「駅」


 他愛のない会話をしながら玄関に向かう。マサ、お前白タイツ派だったのか…。

 靴を取り出すためにロッカーの取っ手を掴もうとした瞬間、誰かに手首を掴まれた。振り向くとそこにいたのは浅街だった。


「…ど、どうしたの?」

「…」


 無視が一番怖えよ。え、何?バカ気まずいんですけど。助けてマサって…アイツ先に行きやがった。やはり白タイツ派閥は信用できん。


「椙田君…あ、あのさ…ご、御越後さんとは…」

「御越後がどうかしたの?」


 …らしくない口調になってしまうのは許してほしい。まだ好きなのだ。丁寧に対応しようとしていること。それは引きずっていると思われたくないという心情と全く逆の行動だというのもわかっている。それでも…仕方ないという言い訳を自分に言い聞かた。


「あの、後ろがつっかえてるんだけど。どうかしたの?」


 周りにとっては一瞬でも俺にとってとても長い時間をぶった切ったのはやや心配そうにこちらを見ている御越後だった。その後ろには先ほど彼女と会話をしていた女子たちもいる。幸い細い通路型の下駄箱。壁際なのもあり、御越後の背中で俺らの状態は彼女以外に見えていなかった。


「い、いやなんでもないよ御越後。そうだよな?浅街」

「…」


 何で黙るの…。何かあるみたいじゃん。いや事実あったんだけれども。


「はーちゃーん。早く行こうよー」

「お、おう!今行く!」


 そう言った瞬間、浅街の手を剥がして急いで靴に履き替える。剥がし係を一瞬でも見た経験がここに生きるとは…。あっ、という彼女の声を無視して玄関を出た。 

 今はとにかく帰りたい。その思い一心でマサのもとに向かった。


「おいマサ走るぞ」

「新刊なの?」

「もうそれでいいから、新刊でもエロ本でもいいから。とにかく急ごう」

「了解ー」


 御越後が来たことによる人間関係の変化を薄く感じながらも走り逃げるという行為。本という非現実に向かっている俺には皮肉な状況だった。

表現って難しいですね、学びがあります。

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