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夢におおきな爆笑を  作者: 使えない奴隷
16/18

反抗期

 たった数日とはいえ、あっという間に最終日になった。

 妹の声と目覚ましに起こされる。妹はどちらかというと止めに来たついでに起こしにきたようだが。


「ちゃんと起きてくれよ兄貴…。目覚ましがうるさい」

「…悪かった」

「いやホント夏休みぐらいゆっくり寝させてくれ…んじゃおやすみ兄貴」


 水を飲んだあと、自分の部屋に向かう彼女を横目にパンをトースターに入れる。 

 夏休みに入ってから漫画や小説、ノンフィクション作品を遅くまで読んでいるのか彼女は寝るのが遅い。

 典型的なダメ学生の夏休みを過ごしている。まあ、アイツは受験生じゃないし、別に攻めはしない。

 トースターからベルのような音がなったので取り出し、マーガリンをぬって食べる。

 一発抜いた後、シャワーや歯磨きを済まして家を出る。

 匡季(まさき)がいないため、電車内は一人だ。最終日といっても今日は個人面談のみらしく、整美(せいび)委員を含む俺たちはどうやら教室・体育館の掃除や片づけがメインになるらしい。

 目的地に到着し、改札に向かおうとするとベンチに霧ヶ峰(きりがみね)先輩が座っているのを見つけた。森田(もりた)先輩でも待っているのだろうか。


「…おはようございます先輩」

「おお椙田(すぎた)か。おはよう。珍しいな君から挨拶なんて」

「気まぐれですよ。学校行かないんですか?」

「少し夏バテ気味だったから座ってたんだ。時間には間に合わせるから先行っててくれ」


 水筒を片手にして座ったままの先輩の顔色は良いとか悪いとか俺にはわからなかった。

 このまま去ってもこの人なら別に大丈夫だと思ったが、俺も先輩の隣に座った。


「椙田も夏バテか?」

「このまま行ったら井上(いのうえ)先生に何言われるかわからいんで」

「ふふ…そうだな。私もチクってたかもしれん」


 冗談まじりな笑顔を見た俺は少しばかり安心した。集合時間まで移動距離を考えてもまだ時間はある。先輩のペースで行動しよう。



 ホームのベンチに座って二十分ばかりの時間がたった。余裕を持つためにもそろそろ向かいたい所だが…。


「なあ椙田。君は妹がいると聞いたがどんな子だ?」

「中二ですけど、あの年で(おれ)や母に反抗期がないやつで俺としては心配です」

「君はすごかったのか?」

「典型的なやつでした。母曰く随分丸くなったらしいですよ」


 妹を泣かせるまで至った俺の反抗期は自分自身も終わってた時期だと思う。思い返すとまくらをぶん投げる程度には。

 

「先輩は反抗期なかったんですか?」

「今が絶賛反抗期だ」


 前髪をくるくるさせながら先輩はため息を付いた。

 あまり他人の事情は詮索したくないが…訊くべきだろうか。どんな感じなのか。森田(もりた)先輩との約束もある。


「俺で良ければ聞きますよ。相談」

「それはみきの差し金か?」

「…ええ。森田先輩からの半ば強制的な差し金です」


 ニヒルな笑みでそう告げた俺に先輩が軽く俺の肩を押す。信頼している人間に心配されていることが嬉しいのだろう。その気持ちはよくわかる。


「んで、結局先輩の悩みとは?」

「結構グイグイ来るんだな…」

「まあ、学校に行く時間考えなきゃいけないんでそこはテンポ良くないと」

「…そう、だな。君の言う通りだ」


 先輩はそう言って手を組みながら前屈みになった。顔も下に向き、髪で顔が見えない。


「前に椙田は訊いたな。私がなぜ整美(あの)委員会に入っているのか。あの時ははぐらかしたが」


 ホームから停車、発車が繰り返されている中、先輩は自身のことを淡々と喋りだした。



 私の家は別に名誉ある一家とか、古き良き伝統のある一家。ということはない。ただ、田舎にある普通の一家だ。

 家には父、母、妹、母方の祖父母。別に特別な人間など誰もいない。

 ただ、母は私に特別な人間になってほしいのだと勝手に考えていた。幼い頃から、色々なことを習わされたからだ。書道や水泳、その他諸々。当然ながら塾も行かされた。

 別に特段嫌いな習い事はなかった。言われたことをやれば褒められるし、失敗しても他で補えた。

 母も私にやらせるだけあって、訊いたことは全部教えてくれたし実践もしてくれた。

 だから、疲れた。あまりにも自身の能力以上のことを母によってできるようににされるからだ。

 言い方を変えよう。できなければ、できるようになれるまでやらされる、のではない。たった数回の質疑応答だけでできるようになってし(・・・・・・・・・・)まう(・・)のだ。

 とても素晴らしい人間になっているように見えたのだろう。母は私が成長するにつれて暇さえあれば、更に多くのことをさせるようになった。私の両手にはもう持てるものは何もないのに。

 ならば無理矢理袋に入れて、手に持たせる。それでも無理なら腕にぶら下げる。その袋はまるで鉄で作られていて決して破けない。

 そんな私を父は褒め続けた。あの母と結婚しただけあって彼もまた高スペックな人間だった。そんな父に言葉がモチベーションになったのは精々小学校までだっただろう。

 妹とは話す機会がそもそもなかった。習い事で私が帰った時には寝ていたからだ。今でもお互いが話すことはない。ただ、母の扱いは私と比べて緩やかなものだった。私に費やしたのかせいなのかわからないが、妹への教育については知らない。これからも知ることはないだろう。

 話を戻そう。中学生になり、高校選びもほぼ母が決めた。私自身も別に行きたい所はなかったし、何より選択肢は膨大な量あった。ただ、通学時間は田舎住みだというこも含め、今の高校となった。入学と同時に習っていた習い事はほぼ完璧になり、辞めた。塾も自分の勉強方法が画一されてきたため、必要なくなった。

 高校に入ってからもどうせこれまでと同じ、辞めた分だけ新しいものが入ってくる。そんな私に一番最初の新しいものは"森田みき"という友人だった。

 委員会に入ったのも彼女の提案だ。行事がたくさんある高校という場において、整美委員会という仕事場は多く呼びだされることもあり、家にいることが少ないから楽なのではないか、と。

 一年生は生徒会に入れないという面からも私にとって最善の選択だった。

 私が培ってきた能力は、当然仕事において役に立った。パソコン作業も簡単にこなせた。頼られる分、家族との時間は次第に減っていった。解放された気分だった。だけど、それが自分にとって最良の選択なのか、果たして自分が本当にやりたいことなのか。わからない。


「ママ、ただいま」

「おかえり。お風呂まだ温かいうちに入っちゃいなさい。あと、今週末ボランティア入れといたから」

「うん」


 母との会話の内容に親子の要素はほぼない。マネージャーとタレントのような関係だ。勝手に考えた『特別な人間になる』という望みはある意味、関係からも成立していると言える。

 母も母で忙しいフリをしている私にはあまり多くのことを言わなくなった。

 だけど、それ以上はない。母に言われたことを淡々とやり続ける。行動の理由は母に依存している。

 こんな生活から抜け出したい。けれど、父すらもどうでも良く感じてきた私には、母以外に何を理由にしなければならないのか。

 いや、何か理由が必要な時点でもう駄目なのかもしれない。母は別に毒親ではない。これまでにも何度か断ったことがある。それでも母は決して怒りはしなかった。顔色を一切変えずに、「わかったわ」。それだけだ。

 本当は私に何を求めているのか。この被害妄想によって生まれた人間に対してどんな期待をかけているのか。

 考えてもわからない。



「最近になってこの悩みがより強くなってな。この時期は特に家にいない時間が多いんだ」

「そうですか。意外と大変っすね」


 親への関わり方か…。反抗期でバチバチになってた俺にはよくわからん。むしろこの問題は答えが出る方が良くない気がするが。

 まあ…才能に過剰に恵まれた人間が親とはいえ、他者を気遣うのは良いことだ。


「訊けばいいじゃないですか。先輩はどうなって欲しいのか」

「それができないから苦労してるんだ。話を聞いていたのか君は」

「でも、言わなきゃ喧嘩できないですよ。反抗期だろうがなんだろうが、自分をわかって欲しいなら会話をしないと」

「今は正論なんて聞きたくない」


 食い気味に反論し、再び前屈みになった先輩から駅の時計へ目線を移す。そろそろ行かないと本格的に不味い時間帯だ。


「…はあ。俺はそろそろ行きますけど先輩はどうしますか?」

「もうこんな時間か…。私も行こう」



「なんで霧ヶ峰先輩と一緒に来てたの?」

「たまたま改札で一緒になったんだよ」

「…そう。今日は特に作業スピードによって帰る時間が変わるらしいからさっさと準備して」

「あいよ」


 御越後(ごえちご)がその場から仕事場に戻るのを横目にバックを置く。彼女の方は人数が足りているっぽいので、あまり人手がいない方へ向かう。


「おはようございます。森田先輩」

「あー!おはよう!助かったよー!とりあえずこのコードをタイプごとにまとめて!私もやるから」


 まだ挨拶しかしてねえのに…。まあいいや。

 壇上に上がり、タコ足回線みたいになっているコードとゴムを受け取って俺も作業に入る。


「先輩、そっちのコードこっちでまとめます。代わりにこっち頼みます」

「おっけー!」


 コード自体が長いのもあって、絡まると厄介だ。こういう作業は割と好きな方だから特にストレスは溜まらないが。

 作業開始から十分もしないうちに俺達の作業は終わった。これらのコードは生徒会の棚に置いておくらしい。


「霧ヶ峰先輩からある程度の話は聞きました。…結論から言うと、俺にできることはないです」

「落ち込まないでよ。元々私が無理矢理頼んだことだし」


 生徒会室に入ると、そこには生徒会長の…誰だっけコイツ。


「あ、森田さんと…椙田、だっけ?おはよう」

「おはよー!」


 元気いっぱいの森田先輩に対して軽い会釈で済ませる。そして流石生徒会長。しっかりと生徒の名前を記憶している。

 生徒会室の中はパソコンが数台あって脚が折りたたみ出来るタイプの長机が壁に立てかけられていた。

 前回来たときはこうしてじっくり見なかったな。


「椙田くん。コードはこっちだよ」


 生徒会室を眺めていた俺に先輩が手招きをする。どうやらコードはデバイス類と一緒の棚に入れるらしい。


「椙田くんは生徒会室見るのは二回目か。前は訊かなかったけど、なんか気になるものあった?」

「いや特には。あまり特別感は感じませんけど」

「元々空き教室みたいな所だからねー。置いてあるものが少し特別なだけで。あ、そのコード頂戴」


 指定されたコードを渡す作業をすること数回。森田先輩はこう見えてしっかりとした人間だ。使う頻度が少ないものは奥に。それ以外を前に置くなどその後のこともちゃんと考えていた。

 

「椙田はどうして今回参加したんだい?」

「いや特には。ただの内申点稼ぎです」

「正直だな君は」


 でしょー?と背筋を伸ばす先輩が生徒会長に目線を送る。なんかエロい。


「椙田、生徒会に…」

「入りません」


 食い気味になって申し訳ないが断るところはしっかり言わなければ。俺はノーと言える日本人…ではないな。最近押し負けが酷い気がする。


「興味だけでも知りたかったんだが、そうか」


 真顔のままパソコンに向き合っている生徒会長に再び軽い会釈だけして森田先輩と生徒会室を出る。

 …結局生徒会長の名前思い出せなかったな。


小林(こばやし)君残念そうだったなー」

「あっ、小林だ。小林生徒会長だ」

「えっ、そこ!?」


 笑いながら振り向く先輩に肩をペシペシ叩かれながら、体育館までの通路を歩く。

 途中機材を運んでいる生徒会の腕章をつけた生徒たちとすれ違う中、段々と森川先輩は歩くスピードを緩めた。


「さっきの話に戻るけどさ、椙田くん。椿ちゃんのことだけど、さ」

「…ややこしくなる前にいいますけど、さっき言った通りです。本人にも同じことを伝えました」


 出来ること、成功することが前提で進まる話の結末は大抵バットエンドを迎える。

 見栄なんてものを張るのは、皮肉なことに自分を守れないバカだけだ。


「森田先輩は俺にたくさん話して欲しいって言いましたけど、結局地雷を踏むだけです」

「…優しいね、君は。実は、私は一回やってしまったことがあってね、やっぱり君に頼んで良かった」

「…てっきり幻滅されるかと」


 なんでー!とほっぺたをうりうりしてくる先輩は顔色一つ変わらない。本当に感謝をしているのだろうか。

 それにしても…マジぶっ飛ばしたくなるな。この"うりうり"。もう体育館着くぞ。

 冷たい目線を送っておく。


「ごめんてー!」


 そう言って体を回しながら体育館に入って行く先輩にため息を付きながら俺も中に入る。


「マジ次やってきたらビンタだな」

「それは私から貴方へという意味かしら?」


 ビクッとなった俺に彼女は…御越後はそっと肩を掴む力を強める。後ろを見ること、それは死を意味していた。


「…どこから見てた?」

葉津祈(はづき)が森田先輩にデレデレしてるところから」

「してねえよ」


 まあいいわ。と御越後は後ろから覗き込むように俺の顔を見てきた。

 可愛いなオイ。みんなが見惚れるのも頷ける。


「な、なによ」

「別に。何か頼みがあったから来たんじゃないのか?」

「人手が足りないの。こっち来て」


 生徒会室行くまで結構人がいた気がするんだが…。まあ暇なのは事実だ。手伝ってやろう。



 

 

 

  

 

 

受験勉強してました。無事に合格取れそうなのでボチボチ再開します。

すみませんでした。

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