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夢におおきな爆笑を  作者: 使えない奴隷
14/18

業務スタート

「暑い…今日気温エグいぞコレ」


 デカめの水筒持ってきて正解だったな。一々自販機向かうのも大変だし…。

 玄関で靴を履き替え、集合場所である体育館に入るとさっそく少数人で既に準備が始まっていた。

 別に遅刻したわけではないため霧ヶ峰(きりがみね)先輩を見つけることに専念する。


「おはようございます。早いんですね」

「おお、椙田(すぎた)か。おはよう。…焦ったか?」

「まあ、多少は」


 そう答えると先輩は悪戯が成功した子供のような笑い顔をした。

 この人意外とこういう一面あるよな。

 てか、冷房で室内は涼しいとはいえ今日も先輩は長袖なのか。一々女性の格好に質問をするのも今日(こんにち)ではセクハラ扱いになるので、あえて訊かない。


「とりあえず椅子を運ぼう。場所は私が指示する。荷物は端の方に置いとくいい」


 荷物を置いた後先輩の指示を受けながら椅子を運んでは設置する。

 体育館にクーラーがなかったら死を覚悟しそうだ。

 十分後に来た御越後(ごえちご)は俺と同じように焦った顔をしていた。


「焦っただろ?」

「うるさいわね。貴方の水筒の中身ぶちまけるわよ」

「やめて俺が悪かったから」


 段々と人は集まり、集合時間前には最初の段階が終わるという状況になった。ここにいる人間絶対ブラック適正あるだろ。

 時間になり井上(いのうえ)先生が体育館に入ってきた。俺らの社畜度に若干引いていたがそのまま朝礼に進んだ。

 管轄は思った通り既に決まっていたらしい。俺らは霧ヶ峰先輩に着いて行くだけだが。


「私たちはどこの担当なんですか?」

「教室掃除とその近くの案内、そして機材運びだ」


 プロジェクターの他にスピーカや扇風機。その他諸々か。

 井上先生の話が終わるといかにも好青年らしき生徒が俺たちの目の前に立った。

 腕の腕章には『生徒会』の文字が刻んである。


「おはようございます。生徒会、会長の小林颯太(こばやしそうた)です。これからの学校の為にも、今日は一緒に頑張りましょう!」


 拍手が起き上がり会長は一礼してその場を去る。

 その後は扇風機を倉庫から持って来る作業だ。

 

「そういえば霧ヶ峰先輩ってどうしてこの委員会選んだんですか?」

「私か?…まあ色々だよ。そういう君はどうしてこの仕事を受け入れてくれたんだ?」


 逸らしたな…。まあ詮索することでもない。

 もしかしたら内申点を稼ぐ目的だったとしても、人に言いたくないだろうし。

 

「俺は内申点稼ぎですよ」

「正直者だな君は」


 先輩と話せるから、もあるがあえて言わない。

 倉庫から扇風機を取り出し、全八か所配置する。


「ねえ君。もしかして椙田君?」


 肩をタップされ、後ろを振り向くとほっぺに人差し指が当てられた。


「…ぶっ飛ばしますよ」

「あはは!その気迫、間違いない!椙田君でしょ!」


 爆笑する女子生徒にイライラしつつ、無視して去る。


「あ、ごっめーんって!ほら、この通り!」

「って誰ですか?」


 両手を合わせて頭を下げてくる彼女。ワイシャツの袖には生徒会の紋章がついていた。

 ってことは先輩か、マズいな暴言吐いちまった。


「あれ?椿(つばき)ちゃんから話とか…聞いてる訳ないか。どうも!椿ちゃんの友達の森田(もりた)みきだよ」


 イエーイ!とピースをしてきた。霧ヶ峰先輩の同級生なのか。

 しかしピースウザいな。何回もしてくんじゃん。


「おい、私のツレにちょっかいをかけるな」

「ごめんごめん。田島(たじま)をどうにかする男子と一回話してみたくて」


 ああ…それでか。確か、先輩の学年だと俺は一時期有名人になったんだっけな。

 楽しそうに話す二人に水を差すのもなんだという理名目のもと、その場を再び去ろうとすると襟を掴まれた。

 …この人たちの学年、野蛮な人間多いだろ絶対。


「どこに行くんだ椙田」

「いや、邪魔者は立ち去るべきかなと…」

「みきが話たがっているのにか?」


 目を向けるとキラキラさせている視線を送ってきている。ええ…絶対やなんですけど。

 

「…えっと何すか?」

「椙田君。生徒会に入らない?」

「嫌です」

「椙田は内申点ほしいんじゃなかったのか?」

「いや別に今回のも小遣い稼ぎ程度にしか思ってませんよ」


 残念そうにする森田先輩。多少申し訳なさを感じるが、生徒会とか絶対面倒くさい。

 森田先輩に抱き着かれ、困っている霧ヶ峰先輩の表情はどこか安心している感じだった。


「それで、俺らの担当教室はどこなんですか?」

「二階だ」

「私もいるよ!」

「みきはここで生徒会の仕事じゃないのか?」

「時間までゆっくりさせてよー」



「その隣にいるのは誰かしら?」

「なんで若干キレぎみなんだよ御越後(おまえ)


 三人で御越後を呼びに向かうと彼女から冷めた目で見られた。

 紹介しようとした瞬間、森田先輩は御越後に飛び込んだ。


「こんにちは!森田みきです!よろしくね!」

「よ、よろしくお願いします」


 おお…コイツあっという間に攻略されたぞ。この人簡単にA.◯フィールドの破りやがった。

 

「ああいった性格の人間は多いが、みきほど嫌われない人間はいないと思う」


 腕を組みながらそう話す先輩はどこか誇らしげだった。…貴方も攻略されてた身ですか。

 二階に上がり、掃除を開始する。今頃体育館に人が集まっている感じだろう。生徒会や教師陣が出迎えているはずだ。森田先輩も今さっき向かったところである。

 掃除といっても既に大掃除で大分綺麗になっている状態だ。

 他の教室でも徐々に始まっている感じだが大体が一階を使うので二階の人数は案外少ない。

 

「とりあえずこんなもんでいいだろう。しばらく私たちはここで待機だ。案内が終わり次第、空き教室に移動する」


 その後は小一時間ほど待機する。融通を利かせてくれた先輩がトランプを持ってきてくれたおかげでいい暇潰しになった。

 時間になり、クソ暑い廊下で待機していると徐々に親子が現れてきた。

 先輩から渡されたコピーを照らし合わせ、ボールペンでチェックを入れながら席に案内する。

 時間になり、担当の先生がやってきた。

 欠席などの確認も必要な為、全員の名簿を確認する必要がある。のだが、先輩は親子の方を見ていて上の空だった。

 

「霧ヶ峰先輩。確認お願いします」

「…あ、ああ。とりあえず空き教室に行こう」


 夏バテ、それとも熱中症だろうか。どちらもマズいが後者は特にだ。

 人で不足の中で自分が抜けることの意味を理解した上で無理をしているのならすぐにでも休んで明日に繋げるべきだ。森田先輩でもよこしてもらえればこっちでも何とか出来る。


「御越後、先輩に体調は平気か訊いてきてもらえるか?」

「わかったわ」


 数歩先に行く霧ヶ峰先輩に御越後が向かった。先輩は笑顔で対応している。

 無理をしているように見えるし、していないようにも見える曖昧な表情。


「なんだって?」

「少し考え事をしてただけで、体調は大丈夫だって」

「そうか。ありがとう」

「…気になるの?霧ヶ峰先輩のこと」

「体調管理は重要だろ」

「そうだけど…」


 スポドリでも奢るか。先輩には奢ってもらったことあるし。

 因みに俺はスポドリ飲むと吐く。アレ不味すぎ。


「先輩。俺ちょっと自販機行ってきます」

「ああ…わかった。空き教室の場所はわかるか?」

「大丈夫っす」


 スポドリとお茶を買い空き教室に入る。うわめっちゃ涼しい。


「先輩、スポドリ飲めます?」

「飲めるぞ。すまない、今財布をだす」

「前に奢ってもらった代わりだと思ってください。あと先輩少し休んで」


 スマホをいじっている御越後の方へ向かいお茶を手渡す。


「…いいの?」

「おう。水筒の詰め替えにでも使え」

「ありがとっ」


 俺も自分の水筒にお茶を詰め替える。

 時間はあっという間に過ぎ去り、体験授業が終わる頃になった。

 教室にむかっている途中で男子たちが御越後や霧ヶ峰先輩をチラ見していた。緊張がとけて周りが見れるようになったからだろうか、さっきはそんな様子は見受けられなかった。

 恋した人間は少なくなさそうだな。


「俺も来年は先輩か…」

「どうした椙田、先輩になるのが怖いのか?」

「って思ってましたけど、よく考えたら俺に後輩できるきっかけないんすよね」


 部活とか委員会に所属してないし。これからもする気ないし。


「後輩はいいぞ。少なくとも私は君たち二人という良い後輩をもった」

「そりゃどうも」

 

 そこまで凛々しく発言されるとこっちも照れる。

 廊下をそのまま歩いていると、親子に話しかけられた。どうやら次の面談の場所がわからないらしい。

 俺と御越後は先に掃除に向かい、詳しい先輩に案内を任せた。


「すいません。任せちゃって」

「構わん。…ありがとなやってくれて」


 またあの顔色。正午になり更に気温が熱くなった影響だろうか。さっきまであんなに嬉しそうにしていた表情は酷く暗かった。

 黒板などを消し、昼食に入る。あの、弁当の中身盗まないで御越後。

 午後の作業は機材の片づけと明日の準備か。ケツポケットから取り出したプリントを見返すと、午後の作業と最終日の片付けはスピードによって帰宅時間が変わるらしい。

 なにはともあれ、作業を早く終わらせることに越したことはない。


「森田先輩、これも生徒会室ですか?」

「うん!それ後で作業するのに必要なの。私もこれ持って行くから一緒に行こう」


 生徒会はこの後も仕事があるのか…。


「椙田君はさ、椿ちゃんのことどう思ってる?」

「かっこいい女性です」

「確かに。かっこいいよね椿ちゃん。…ねえ椙田君」

「なんですか?」


 荷物を置き、振り向くとそこには俺の知っているいつも通りの森田先輩がいた。


「椿ちゃんといっぱい話してあげてね」

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