第一章 永遠と死のあいだで
第一章 永遠と死のあいだで
一
僕はいつまで子供なんだろう?いやこの質問は少し違っているな。本当の質問は「僕はいつまで生きるのか?」ということだろう。この答えを知っている人間は恐らくどこにもいないのだろうけど…
人生百年時代とも言われるようになり僕ら人類はかつてないほど長生きするようになった。でもただ単に長生きできるようになっただけでよりよく生きられるようになったとは言えないかもしれない。高齢者に対する虐待は後を絶たないし年老いた自分を悲観する人間もいる。長生きが意味を持つためには若い体のままでいなければならないのかもしれない。いくら長生きしても体が衰えてベッドで寝たきりだったそれこそ人生は謳歌できないだろう。若い肉体のまま長生きできるからこそ初めて長寿の恩恵を受けられるのだ。
でも歳をとらない人間なんているのだろうか?どんな人間にも平等に時というものは流れる。善人であっても悪人であっても今日という一日が終わると明日という一日が待っている。もちろん時間が流れる体感時間というものは個人差があるだろうけどどんな人間であっても歳をとりやがて死んでいく。それが人の宿命だし逃れられない魔の定めなのだ。
しかしそのあたり前の常識が通用しない人間がいる。それが僕だ。僕は今年三十四歳になる人間だ。でもその外見は十四歳の少年に他ならない。僕の時は二十年間止まっている。永遠に成長しない十四歳の外見のままの人間。それが僕だ。身長は一五五センチ体重は四五キロ。十四歳の平均身長と比べると幾分か低いけどどこにでもいる普通の十四歳に見える。でもそれは外見の話。実際の僕は三十四歳なのだから。
僕は永遠に子供のままの外見で二十年間生きている。この秘密を知っているのは家族と通っている病院の主治医をはじめとする医療関係者のみだ。
生物学的に言うと生物であれば「老化」というものがある。皆に等しくとは言えないまでも誰にでも必ず老化というものはあるはずのだ。しかし僕にはそれがない。僕は異常者なのか?
老化とは情報の喪失に他ならないと考えた学者がいる。これは非常にシンプルなセンテンスだ。そしてここでいう情報というのは遺伝子から読み出される情報のことをいう。さらにいうと情報の読み出され方がおかしくなる状態こそ「老化」と言えるのかもしれない。
これは僕が通っている大学病院の主治医の受け売りなのだけど彼が言うには細胞の状態というものは僕らの体にある二万個の遺伝子の情報がどう読み出されるかによって規定されるのだという。つまり加齢によって遺伝子情報の読み出され方がおかしくなると老化するのだ。となるとそのような間違えた遺伝子情報を若い頃と同じようにしてやることができれば老化は防げるのではなかろうか?と僕の主治医は言っている。
もちろん僕のような永遠の子供である人間は僕以外他に知らない。つまり実験しようにも被験者が少なすぎるため情報はほとんど判らない。でも主治医は僕の体を薄紙を一枚一枚丁寧に剥がすようにして調べ上げていきいくつかの仮説を導き出した。
ビールやパンを作る時に使われる酵母というものがある。酵母は単細胞なのだけどちゃんと核を持った真核細胞で人間とは大きな隔たりがあるのだけど生命現象の基本的な部分は近いところがあるらしい。
僕は永遠の子供だけどそれと近いというか逆をいく病気は確認されている。それが「ウェルナー症候群」という病気でこれは若年の頃から急速に老化が進む。原因はWRNへカリーゼというDNAに働きかける酵素の異常であることが判っている。そして酵母でもWRNヘリカーゼを働かないようにすると人からかけ離れた酵母であっても老化するのだ。
ウェルナー症候群に関する研究は今も進められていてその過程で発見されたのが老化のキーとなるサーチュインという物質だ。これは遺伝子から情報発現の制御に関与するタンパク質でありNDAというドラクエの復活の呪文みたいな名前を持つ小さな分子によって活性化される。ここで判ったのはサーチュインの働きが衰えると老齢に特有の病気を発症する大きな理由になるということだ。
僕の主治医はさらにこう結論づける。サーチュインという物質だけが重要なのではなく他にもAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)という酵素やTOR(ラパマイシン標準的タンパク質)の二種類が重要になる。このたった三つのグループのタンパク質を上手く制御できれば老化という疾患を予防でき健康な長寿が手に入る。
もちろんこれは理論上の仮説でありここまで紹介した三つのグループの酵素に対し適切な働き方をしてやるのは難しい。一応サプリメントなどで摂取は可能なのだけどそれでも百パーセント老化を制御できるわけではないのだ。
しかしながら僕は十四歳のある時にサーチュインとAMPKを上手く活性化させTORを抑制する機能が備わったため永遠の十四歳でいられるようになった…これが僕の主治医の導き出した老化しない僕の理由だ。
僕のような何十年も少年のままの人間は未だかつて例がないのかもしれない。したがって僕は秘密裏に大学病院で研究対象として研究されている。とはいっても戦時中の日本軍が行ったような人体実験のようなものはされない。あくまでも僕が研究されている理由はどうして僕だけがサーチュインとAMPKを上手く活性化させられTORを抑制する機能があるのかということだ。これが解明できれば人は老化しなくなるかもしれない。
でも老化しない人生が本当に幸せなのかどうかは判らない。確かに僕は永遠に少年のままかもしれない。僕は二十年ずっと十四歳の少年のまま生きているけどそれで何か得をしたことはない。むしろ逆で少年のままだと色々面倒なのだ。まずどうやって働くかなのだけど基本的に十四歳の容姿である僕に一般的な就労は困難だ。十四歳の労働は国際労働基準で認められていない。労働ができるのは義務教育を終えた十五歳以上になる。
とはいっても僕は外見は少年のままなのだけど心は大人だ。二十年前僕は中学生だったけどその時の同級生は皆普通に働いているし結婚し子供がいる人だっている。それにいくら少年のままだからといっても学校に通い続けることはできない。僕は外見は子供なのだけどマイナンバー上の生年月日は三十四歳の人間と同じだからいつまでも中学校に通っているわけにはいかないのだ。
だから僕はインターネットを使って仕事をしている。インターネット上の記事を書くWEBライターという仕事だ。これは基本的に仕事をくれるクライアントとの関係はあるのだけど一人で行うから気が楽だし実際にクライアントと顔を合わせるわけではなく全てネットで仕事が完結しているから外見が少年の僕でもできる。
とりあえず仕事はしている。それでもまだまだ不都合な面はある。例えば夜遅くに外に出られない。警察に補導されてしまうだろう。というよりも僕が警察に補導されると色々面倒なのだ。僕の背景を知っている人間は限られているからあまり僕の奇妙な背景を公にするわけにはいかない。したがって夜は外に出られないし居酒屋などにも行けないだろう。酒タバコなどの嗜好品は主治医から許されていない。僕は三十四歳なのだけど体は子供のままだからアルコールやタバコに対する耐性があるわけではないのだ。だから僕はタバコも吸わないし酒も飲まない。今の所飲みたいとも思わないし吸いたい気持ちにもならない。
結婚はおろか恋人だって作れないだろう。僕は少年のままだから元の年齢である三十四歳に近い人間と付き合えるわけではない。背景を説明できないから大人の女性からは相手にされないだろう。これは少し寂しいけど孤独が嫌いというわけではないから大丈夫だ。
両親は少年のままの僕を知っているけどそれで何かしてくれるわけではない。僕は高校を卒業するまでは実家がある新潟県新潟市で暮らしていたけどあまりに老化しない体を調べるために高校卒業後は上京し今は神奈川県の川崎市溝の口という場所に住んでいる。
溝の口はいい街だ。東京や横浜にも近いし車がなくても電車を使えばどこにでも行ける。それにスーパーや量販店なども豊富にあるし少し奥まったところに行けば自然溢れる公園なんかも多い。僕が通っている大学病院にも電車で行ける距離だしこの街が気にいっている。
ある日、僕は大学病院に通院し診察を終えた後時間が少しあったので病院内にあるコンビニに行きサンドイッチやミルクを買った後それを中庭のベンチで食べることにした。一応WEBライターとして働いているのでそれなりの収入がある。後は大学病院の研究対象である僕は協力費として毎回の診察でそれなりのお金がもらえる。
コンビニで買ったサンドイッチはレタスがシャキシャキしているのだけどチーズやハムがややべっとりとしていてそこまで美味しくはない。ペラペラのゴムを食べているような気分になる。自分で作った方が美味いだろうけどそれでも文句を言わずに食べる。僕は大学病院での診察を終えた後は大抵この中庭に行き小休止してから帰宅する。それが一種の儀式になっていた。
いつも何か買ってベンチに座り食べてから帰るのだけど今日は僕のところに入院しているのか通院なのかイマイチ判断できない女性が近寄ってきた。その女性は一見すると病人には見えない。若く綺麗な感じの人で現代のクレアパトラみたいなオーラがあった。
「よくここに来ますよね?」
と女性は言った。
僕はチラリと彼女を一瞥する。歳は二十代前半くらいだろう。三十四歳の僕よりは遥かに年下だけど外見上は僕の方が遥かに年下になる。美貌溢れる彼女はコンテストで軽やかに演奏するピアニストみたいな指先で僕を指差した。
「はい。通院してるんで」
と僕。
すると彼女は続けて
「病気なんですか?」
「まぁそんな感じです」
僕ははぐらかせて答える。そもそも僕の老化しない体は病気なのかさえ判らない。正常ではない異常な状態を病気というのであれば病気であると呼べるのだろうけど僕は老化しないことを除けば健常者と同じ健康体なのだから。
「そうなんですね。何度も見るから気になっていたんです」
「そうですか。入院されているんですか?」
「いえ。そういうわけじゃないんですけど、この病院とは関係が切れないでしょうね」
そう言う女性の表情はどこまでも平坦だ。病気で悲観しているようにも見えないし辛そうにも感じられない。
やる気がなさそうに見えるのだけど病人のように極端に痩せていないし顔色も悪くない。けどどこか達観しているというか何百年も生きてきた仙人のような不思議なオーラがある。
僕はなんと言っていいのか判らなかった。もしも彼女が死の淵にいるのだとしたら僕はそれを励ませない。そんな力はない。死にゆく人間にかけてやる言葉などこの世界に存在するのだろうか?何を言っても偽善に聞こえてしまうし彼女の心を溶かすことはできないだろう。
ここで話していても仕方ない。適当に答えて帰ろう。
「僕もこの病院からは出られないでしょうね。だから希望を持って頑張りましょう」
そう言い僕はベンチから立ち上がる。
すると女性は生まれたての子犬を抱き上げるようなにこやかな表情を浮かべ
「ならまた会えますね」
とだけ言った。
僕は「そうかもしれません」とだけ答えてその場を去る。
恐らくこの女性とはもう会わないだろうと考えていたけどそれは間違いで僕は数度この女性と会い続けることになる。この大学病院の小さな中庭で…
二
僕が大学病院に行く頻度は月に一度だ。これは一般的な治験の頻度とよく似ている。もちろん僕が受けているのも治験にも近い側面があるからこのような頻度になるのは仕方ないのかもしれない。毎回診察を受けて血液検査や心電図などを取る。少し専門的な検査を受ける時はCTスキャンなどの医療機器に入る時もあるけどそれはそこまで多くない。
基本的に自宅で仕事をして仕事が終わればスーパーに行き食材を買いそれを使って食事を作る。不幸中の幸いだったのは僕の容姿が辛うじて十四歳だったということだろう。これがもしも五歳とか六歳になってしまうと一人で買い物にも行くのも難しくなるだろうし一人暮らしだってできなくなるだろう。十四歳の容姿のままだけど少し変装すれば高校生に見えなくもないから僕はこうして溝の口の地で一人暮らしができるのだ。
安い鶏胸肉を大量に買いそれをフードプロセッサーで粉々にミンチにした後おからパウダーをつなぎにしてハンバーグのタネを作る。それからフライパンを熱して両面に焦げ目をつけた後ジップロックに一個ずつ入れて低温調理器で調理する。低温調理器のいいところは低温で調理するから肉がとても柔らかく仕上がるところだ。鶏胸肉は熱してしまうとパサパサになってしまいやすいけど低温調理器を使うとローストビーフのように柔らかく仕上がるから僕は鶏胸肉を安売りしている時に大量に買ってきて低温調理器で調理し冷凍しておく。後は食べたい時に冷蔵庫で解凍して食べるだけだ。
同じ食事が続いたとしても僕は文句を言わない。僕は今の所老化しないからもしかすると永遠に生き続けるかもしれない。でもそれは地獄だ。人は死ぬから尊いし死というゴールがはるか先にあるから人生を謳歌しようと思うのだろう。けれど老化しないとか永遠に生きるとかそうなってしまうとゴールがなくなってしまい何を目的に頑張ればいいのか判らなくなる。僕はどこかで死を求めているのかもしれない。もちろん台所にある包丁を使って三島由紀夫みたいに腹を裂けば理論的には死ねるだろう。けどそれはダメだ。自殺はできるのであればしたくない。この老化しない状況が後八十年とか続けば考えるかもしれないけど大元の僕はまだ三十四歳だから死んでいい年齢ではないのだ。
食事を終えYouTubeで子犬の動画を見た後シャワーを浴びてベッドに入る。明日は大学病院に行く日だから早めに起きなければならない。大学病院は午前中の診察が多いから必然的に朝は早くなる。僕は研究対象だから午後からでも問題ないのだろうけどあまり遅くまで病院にいたくないから僕は診察を午前中にしてもらっているのだ。
電気を消して闇の中で目を開ける。ここは完全な闇ではない。カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。極限まで研ぎ澄まされた闇とはどんなものだろう?その闇に浸かれば僕も普通の人と同じように老化する人間になれるだろうか?いやこんなことを考えても意味はない。今の所を僕は少年のまま進化しないのだからあれこれ考えても仕方ないのだ。やがて眠気がきて眠りの海へと落ちていく。
大学病院ではいつも通りの診察や検査が行われる。恐らくだけどこんな検査をしても老化しない原因は掴めないだろう。通常どんな人間であっても必ず老化するからその当たり前が通用しない僕は人間ではないのかもしれない。ガンダムシリーズにはニュータイプという概念が出てくるけど感覚的にはアレに近いかもしれない。無論ニュータイプのようにかっこいいものではないのだけど。
診察や検査を終えアップルウォッチで時間を確認すると昼の一時を少し回ったところだった。朝食を一応食べてきたけど食べ盛りである少年の体を持つ僕はとてもお腹が空いていた。いつもどおりコンビニへ行き適当に何か買って中庭で食べよう。この大学病院は数年前に全面改装されキレイになり中庭はよく手入れが行き届いている。だから僕はこの病院の中庭だけは好きなのだ。どうしても病院内は好きにはなれないけど中庭だけは違う。
コンビニへ行くとサンドイッチは売り切れだったから代わりにおにぎりを二個とサラダチキンを一個とペットボトルの緑茶を買って中庭に向かう。今日は天気がいいから中庭には燦々と陽射しが降り注いでいる。空中庭園に来たかのように気分になり、僕は空いていたベンチに座りおにぎりを食べる。鮭おにぎりだったけど味はまずまずだった。
おにぎりやサラダチキンを食べ終えしばらくベンチに座っているとそこに以前出会った女性がやってきた。もう直ぐ夏だというのに長袖長ズボンに大きめなブラウンのニット帽を被っている。やはり次元を超逸しているとか宇宙人みたいな独特なオーラがある人だ。
「また会いましたね」
と女性は言った。
できるのであればこの人とはあまり付き合っていたくない。その理由はこの女性かは放たれる負のオーラみたいなものがドラゴンクエストの凍てつく波動みたいに僕の全てを剥ぎ取ってしまうような気がしたからだ。
「そうですね」
と僕。
すると女性は化粧気のないまっさらな顔で
「ここが好きなんですか?」
「まぁそんな感じです」
「私もここは好きです。天国みたいな感じがするし」
「そうですね。天国というかバビロンの空中庭園みたいです。まぁこれは少し言い過ぎかもしれないんですけど」
「すごく大人っぽい話し方をされるんですね。中学生ですよね?」
困った質問だ。
僕は外見は中学生の少年だからここは中学生と答えるのがスタンダードだろう。どうせ詳しい学校名とかは聞かれないだろうし、聞かれたら適当に答えておけばいい。
「そうですね」
「病院には一人で来るんですか?」
「はい。そうです。両親は忙しいので」
「偉いですね。あなたは見た目健康そうですけどどこか悪いんですか?あ、もちろん答えたくなかったから答えなくてもいいんですけど」
「悪くはないんですけどちょっと色々あってここに通わないとならないんですよ」
「そうですか。中学生なのに大変ですね。でもいいなぁ。私も若い頃に戻りたい」
このまま会話を切り上げて早めに帰ろう。僕はそう考えて立ち上がる。
「僕は帰ります。あなたも病棟に戻ったほうがいいですよ」
そう言い僕はコンビニの袋を手に持って立ち去ろうとする。しかし彼女は何を思ったのか
「あなたはいいですよね。自由みたいで。でも聞いてください。私、もうすぐ死ぬから…」
死ぬ…
それはこの楽園のような中庭の雰囲気には不釣り合いな言葉。しかしその痛烈な言葉はすでに放たれている。彼女はもうすぐ死ぬらしい。僕とは正反対だ。僕は現段階では老化しない存在だから永遠に生き続けるかもしれない。死がすぐそこまで忍び寄ってる彼女と死が見えない僕という存在。それは相反する人間同士の奇妙な邂逅だった。
「諦めたらダメですよ。希望を持ってください」
とだけ僕は言う。
すると彼女はやや薄靄がかかり始めた青空を眺めながら
「もうダメなんです。多分ですけど。来月私はもうここにはいない。だからあなたと話せるのは多くて後数回でしょうね」
僕は月に一度しか通院しないから次に彼女に会えるのは来月ということになる。でも彼女は来月まで生きられないみたいだ。その理由は判らない。でも致命的な疾患を抱えているのだろう。
「僕はあなたに何もしてやれない。できるのはこうして話すくらいですよ」
「もう帰るんですか?」
「えぇ。そのつもりでした。というかどうしていいのか判らないというのが正直な感想です。あなたは僕に何をして欲しいんですか?死の淵にいることを告白したところで何も変わらないでしょう。同情はできますけどそれであなたの心は満足なんですか?」
「私、あなたに興味があるんです。その理由判りますか?」
「いえ、判らないです」
「すみません。いちいちまどろっこしい言葉をつらつら並べましたけど実は私あなたの背景を知っているんです」
「………」
「あなたはずっと少年のまま。つまり歳を取らない。それって永遠に生きるっていう意味ですよね。あなたは老いて死なない。それを知っているから私はあなたに興味があったんです」
さてどうするか?というよりもなぜ彼女は僕の背景を知っているのだろう?病院の個人情報は固く守られているから病院側が彼女に漏らしたという可能性は限りなく低いはずなのに。
「仮にその話が正しいとするとなぜあなたはそんな情報を知っているんです?」
すると彼女は人差し指を口元に当ててにっこりと微笑んだ。その笑みはこのスィーツ好きの女子がスイーツの食べ放題に行った時のような笑みだった。
「それは内緒です。でも知ってるんです」「冗談ですよ。僕はただの中学生だ。永遠に生きる人間じゃない」「隠しても無駄ですよ。私には判るんですから。私はもうすぐ死ぬ。これだけの情報をあなたに与えました。だからあなたも正直になってください」「あなたの目的は何なんですか?」「う〜ん何だろ?特に目的があるわけじゃないんだけど、私とあなたは同類なんだよ」「同類?」「そう同類。あなたは永遠に少年のままの人間が自分一人だと思ってるの?」この女は一体何者なのだろうか?同類ということは彼女もまた歳を取らないのか?僕が必死に思考していると人の不幸を喜ぶような醜悪な笑みを浮かべて彼女は続けた。「私も歳を取らないの。かれこれ八百年くらい。私の見た目は二十代前半って感じだけど中身はもう八百歳を超えた老婆なのよ。でも判らないでしょ?永遠に若さを保てるっていうのは純粋な若さがあるということ。喋り方だって若いままでしょ。まぁこれは時代の流れに合わせて色々変更してきたのだけど。それにね若さが永遠に続くからこそ保てるんだよ。でも君は永遠に少年のままなのに中身を大人にしようとしている。それって何故?永遠に少年でいいでしょ」「君は本当に八百歳なの?」「そう。私は永遠に生きる…はずだった。でもちょっと事情ができて死ななければならなくなったの。まぁ私の場合すでに還暦は優に過ぎているし八百年以上生きたからもう未練はないかな。おかしいと思わない?だって余命を宣告された人間がこんなに簡単に赤の他人に自分の背景をペラペラと説明するんだから」
女性は一気に語った。その言葉は真実なのかは判らないし僕には彼女の言葉が真実か嘘か見分ける手段がない。しかしながら彼女の言葉は真実を語っているように感じられる。嘘をつく人間特有の波の流れというか空気がない。仮に彼女の言葉が真実だとしたら僕以外にも歳を取らない人間がいたのだ。
「私は花蓮。名前は時代に合わせて色々変えてきたの。八千代って名前だった時もあったわ。歳を取らないから改名は必要よ。歳が若いままなのに名前だけが年寄りくさいとなんかチグハグでしょ。だから私はね、あなたに色々教えてあげようと思って。歳を取らない人間の生き方を…あなただって知りたいでしょ?永遠に生きる人間がどうやってここまで生きていたかを」
確かに興味はある。肉体が若いままだとしても病気で死ぬケースはあるだろう。その辺の体の仕組みは普通の人と差異があるわけではないはずだ。つまり少年のままの僕はいつか病気になって死ぬかもしれない。それに事故に遭うかもしれない。殺人事件に巻き込まれるかもしれない。突発的な死の可能性は限りなく低いのだとしても肉体が若いだけで体の機能は普通の人と変わらないのだからある日突然死ぬケースだってあるのだ。
しかしながら僕はそこまで死を恐れていない。無論死ぬのが辛くないと言えば嘘になるけど永遠に生きるよりも死というゴールがあったほうが人らしい。それこそ人の生き様であると言える。
「あなた、幸せにはなれないよ」
と花蓮さんは言った。
僕は砂漠で三日間水を飲まなかった時みたいに喉がカラカラに乾く。
「かもしれない」
「君、桐生誠くんだよね?」
「え?どうしてそれを?」
「ちょっと色々あってね…誠くん、人は何のために生きると思う?」
「判らないです」
「人の役に立つためだよ。仕事でもなんでもいいけど自分の生命の全てを持って人の役に立つ。それこそ人の生きる本当の意味だよ。永遠に少年のままの君がしなければいけないのは人の役に立つ何かをするってことさ」
「人の役に立つって言っても募金でもすればいいんですか?」
「それもいいかもね。でもね、教えてあげる。私たちのような人間は永遠に生きるの。それこそ病気になっても変わらない。例えば癌になったとしてもその癌を栄養として若い肉体を維持する。だから例え病気になっても死なない」
「でも事故で死ぬかもしれない。だって肉体はそのままでしょ?なら電車に飛び込めば死ねると思うけど」
「そうかもね。でも私たちのような人間に自殺という概念はないの。自殺しないように脳がコントロールされている。試してみるといいかもね。例えば死のうと思って電車に飛び込もうとしてもそれはできないの。急に体が動かなくなるというか自分でも制御できなくなって結果的に死ねないの」
「なら殺人事件や交通事故はどうなるんですか?自殺が不可能だとしても通り魔に刺されて死ぬかもしれないし自転車に乗っていて飲酒運転のトラックにはねられるかもしれない」
「それも無理。肉体が死の淵に近づくとそれを感知して回避するようにプログラムされている」
「でもあなたは死ぬんですよね」
「そう…死ぬよ。でもそれは病気や事故によって絶命するのではない。私はもうすぐ死ぬと言ったけど病気や事故で死ぬとは一言も言っていないからね」
「じゃあどうやって死ぬんですか?永遠に生きるんでしょ?」
「その前に質問、永遠に生きる人間を何て呼ぶか知ってる?」
「知らないです」
「タリタス…そしてタリタスが死ぬ条件はタリタスによって殺されること。つまり私を殺すのは誠くん、君ってことだよ」
大津波が来る前の静けさというか恐ろしいほど透明かつ滑らかな声で花蓮さんは言った。
僕が花蓮さんを殺す?Why??
「君はまだ知らないかもしれないけどこの世界には一定の割合でタリタスが存在する。もちろんそれは決して多くない。しかし確実に存在している。何百年と生きる人間がいるのもまた事実。タリタスは永遠に生きる存在だから。そしてタリタスを死に誘えるのはタリタスだけなの。あなたは私を殺す。それがあなたの役目だからね」
「そんなことしないですよ。僕は人殺しにはなりたくない」
「これは人殺しではない。そもそもタリタスは人なのかさえ判らない。人を超えた存在だよ。その存在を殺せるのがタリタスなのだから、君もその役目から逃げちゃダメだ」
碇シンジくんのようなセリフはゴメンだ。僕がもっとフランクだったら「あんたバカァ」と切り返せたけど僕はあまりの事実についていくのがやっとだった。花蓮さんは人生の意味を人の役に立つことだと考えた。そしてそれを僕に望んでいる。同時に少年のままの僕が人の役に立てる何かというのは僕の同類である花蓮さんを殺すことに繋がるのだという。
僕は殺せるのか?会ったばかりの花蓮さんを…
三
花蓮さんに会ったその日の帰り道僕はスマホを使ってタリタスについて調べてみる。しかし何の情報の載っていない。ただタス・タリタスという都市がアルゼンチンにあるみたいだけどそれ以外の情報は掴めなかった。しかしながら僕のように永遠に生きる人間のことをタリタスと呼ぶみたいだ。このタリタスという言葉は花蓮さんが考えたのだろうか?それとも遥か昔からこの世界に存在する言葉なのだろうか?いずれにしても全く情報がない。花蓮さんの話を聞いて判るのはタリタスを殺せるのはタリタスだけでタリタスである花蓮さんは自分の命を終焉させるために僕に殺されたがっている。
かと言っても僕は人を殺せない。仮に可憐さんが本当に永遠に生きるタリタスだとしても人なのだから僕が殺せば立派な殺人罪が成立する。もちろん僕のような人種が本当に人間かどうかというのは議論の余地が残るのだろうけど。
僕は永遠に生きる。病気になっても生きるし事故に遭っても生き続ける。死ぬ手段はタリタスに殺してもらうことでありそれ以外はないみたいだ。なら僕が死ぬためには新しいタリタスを見つける必要があるのだろう。しかしどうやってそれを見つけるのだろう?判らないのはタリタスという人種はこの世界でどれくらいの数が存在しているかということでそれが判らないとタリタスを見つける方法だって判然としないだろう。
不可解なのは花蓮さんが僕をタリタスだと見抜いたことだ。これには何かカラクリがあるのかもしれない。タリタス同士だから判るテレパシーだとか。でも、これだと僕にも花蓮さんがタリタスだと見抜けなければならない。現段階では僕は普通の人とタリタスを区別できない。
かつて僕は担当の主治医に老化しない人種がどのくらいいるのか聞いたことがあった。その時の答えは「判らない」だったのだけどもしかすると主治医は何か知っているのかもしれない。知っていながら隠している可能性は少なからずあるだろう。でも仮にそうだとすると僕に言わない理由が判らない。僕のような人間に対してもっと情報を集めれば人は老化するという呪縛から解き放たれるかもしれないのに。もちろん、老化しない現象が全て善というわけではないと思うけどこの世界にはアンチエイジングという言葉があるように一定の年齢を超えてから若さを保つためにサプリメントなどを使って栄養に気を配ったり適度に運動したり高価なスキンケア用品などを使ったりするのだ。だから人は若さを保ちたいのだろう。
僕は逆で僕は歳を取りたい。歳を取り衰えるというのは確かに恐怖ではあるのだけど本来歳を取りやがて死んでいくというのが人間の自然の流れだ。この自然の流れから逸脱している僕は一体どういう存在なのだろう?
花蓮さんの話では僕が彼女を殺すらしい。そしてそれは来月までの一ヶ月以内に起こるみたいだ。タリタスは死なない。タリタスはタリタスでないと殺せない。このロジックが正しいのだとすると彼女は一ヶ月以内に僕に殺されるということになる。でも僕は花蓮さんを殺すつもりはないからもしかすると他にもタリタスがいるのかもしれない。それは誰か?その人物に会えれば僕の秘密がもっと解き明かせるような気がした。
とりあえず主治医に話を聞こう。先生が何か隠しているならそれを知る権利が僕にはあるはずなのだから。
大学病院の医師は基本的に忙しい。そもそも大学病院が他の種類の病院と違うのは診療という役割だけではなく医師の教育や最新医療の研究をしているからだろう。それらの役目を担っている機関だから大学病院というところは忙しく時間が回っている。
僕の主治医は坂本という壮年の男性で老化に対する研究をしている。だから老化しない僕を研究対象として病院に招いているし僕も最新の医療を受けられるのだ。坂本先生は大学病院などで患者を診察し、それ以外の時間は研究や人材の育成などをしているから基本時間があまり取れない。しかし僕は無理を言って坂本医師に会う約束と取りつけタリタスの存在を知った三日後に再び大学病院に向かった。
結論から言うと僕は坂本医師には会えなかった。坂本先生に急用ができてしまい予定がキャンセルされたのだ。だから僕は病院で一人何の目的もなく彷徨う羽目になる。しかしそんな僕の心境を全て見抜いたかのようにその女は現れた。
もう一人のタリタスである花蓮さんだ。
「やっぱり来たね。誠くん。私に会いに来たのかな?」
花蓮さんはなんで病院にいるんだろう?何らかの病気を抱えている可能性はあるけどタリタスの特性を考えると死なないのだからこんな場所に来る意味などないはずなのに…
「あなたに会いに来たわけじゃないです。本当は坂本先生に会いに来たんですけど先生に急用ができてしまって会えなくなってしまったんです」
「そう。なら私とお話ししようか」
「話すことなんてないですよ」
「聞きたいこと色々あるんじゃないのかな?どうして私があなたをタリタスだと見抜いたのかとかね」
大人に潰した虫を見せてイタズラする子供みたいな蠱惑的な笑みだ。
しかし確かにその情報は気になる。タリタスを見分ける方法が判ればこの世界に他にもいるかもしれないタリタスと交流ができるかもしれないのだから。
「どうして判ったんですか?」
と僕。
すると花蓮さんは
「ここは病院の廊下だし。いつもの場所に行こうか」
「中庭ですか?空中庭園みたいな」
「そ」
「判りました」
僕らは患者で混雑している病院の廊下を抜け憩いの場所である中庭に向かう。そこは病院内の混雑が嘘のように空いていた。今日は気温もそんなに高くないしどんよりとした曇り空で陽射しも届かないからあまり人が寄り付かないのかもしれない。僕と花蓮さんはほとんど貸切状態になった中庭のベンチに座る。
「私が君の情報を知ったのはとても簡単な方法なんだよ」
「どうやったんですか?」
「ハッキング」
「は?」
「ハッキングくらい知ってるでしょ。病院のサーバーネットワークに侵入し個人情報を読み取ったってわけ。サーバーはネットワーク上で何らかのサービスを提供するものだって知ってるよね?そこには入り口があるんだけどこの入り口にも当然強固なセキュリティがかかっている。でも大きく分けて二つの抜け道がある」
「抜け道ですか?僕はハッキングについてはほとんど素人だからよく判りません」
「第一の方法は簡単。もっとも原始的な方法。ログインする人の背後からキータッチを覗くって方法。でもこれは病院の関係者じゃないと難しい。私はこの病院と深い関係にあるけど病院側のスタッフってわけじゃないからこの方法はできないわけね」
「なら第二の方法ってなんですか?」
「OSの欠陥を利用して本来ならできないはずのことをやってしまうという方法。これは自分で見つけられるんだよね。そして仮に脆弱性が発見されてもすぐに対象サーバーが修正されるっていうのは稀なの。そのタイムラグを利用してハッキングを仕掛けたってわけ。今は脆弱性は修正されてしまったけど私には有り余るほど時間があったから根気強く待って仕掛けて成功した。その結果この病院に私以外のタリタスがいると判ったの。それが君。誠くん」
「思いっきり犯罪じゃないですか」
「仕方ない犠牲ね。私はどうしてもタリタスを見つける必要があるから」
「それは自分が死ぬためですか?」
「そ。前も言ったけどタリタスはタリタスじゃないと殺せないから。ねぇ誠くん君はこの病院が昔からタリタスを研究しているって知ってるかな?というか君の前は私を研究していたのよ」
「そうなんですか。知らなかったです」
「この聖スサク大附属病院はね。老化研究に関しては日本でもトップクラスなの。その根底を支えているのが君や私みたいなタリタスの存在だよ」
「僕ら以外にもタリタスはいるんですか?」
「どうしてそう思うの?」
「あなたの話では来月にに死ぬということでした。でも僕の次の通院は一ヶ月以上先だからあなたには会えない。会えないのなら僕があなたを殺せるはずないから、あなたを殺せる他のタリタスがいるのではないかって思ったんです」
「なるほど。鋭いね。その理論で言えば他にもタリタスがいることになる。でも病院が管理している患者の中に私とあなた以外のタリタスはいなかった。だからね、私を殺せるのはあなただけなの」
「僕はあなたを殺しません。人殺しじゃないですか」
「いや。君は私を殺すよ。それがあなたの役目だし。少なくとも私たちが住む近辺でそれができるのはあなたしかいない」
「だとしても人殺はゴメンです。…あの一つ聞きたいんですけどタリタスってどのくらいの数がいるんですか?」
「この世界には難病というものがあるよね?そもそもね難病っていうのは何となく5万人以下の患者数っていう考え方があった。だけど今は違う。基本的に難病として定義されているのは人口の0.1%程度」
「だとしたらかなり多いですよね。日本の人口が一億二千万人くらいだから人口の0.1%ってなると12万人はいるってことになる。そんなにタリタスがいたらこの世界はおかしくなるでしょう」
「そうだね。第一タリタスは難病かどうかさえ曖昧だし。でも世界中で秘密裏に確認されているタリタスの数は七人。その内の二人が日本にいてヨーロッパに二人南米に一人アメリカ大陸に一人そしてアフリカに一人。あくまでも私が昔に聞いた話だから今はどうなってるかは詳しく知らない。でもねただ一つ言えるのはタリタスは決して多くない。そしてそれぞれの地域に住むタリタスが今も永遠に生き続けている」
「そしてそんなタリタスがなんて呼ばれるか知ってる?」
「知らないです」
「この世界の言葉では『神』」
四
僕が神。
そんなわけない。僕は老化せず永遠に生きるという特性を除けば普通の人間と変わらない。聖書の天地創造のように言葉だけで物質を作り出せるわけではないのだ。もちろん永遠に生きるというのは世間一般でいう普通という特性からはかなりかけ離れていると思うのだけど。
タリタスが神。この世界で七人しかいないと言われている。その内の二人が日本にいるというのはなんという因果だろうか。おそらく各大陸に一人か二人とかそのくらいの割合なんだろう。でも僕や花蓮さん以外にもタリタスという存在はあるらしい。まぁ会いたいわけではないのだけど。
花蓮さんが死を預言したのは一ヶ月後。僕が彼女を殺すという話だったけど多分それはない。超能力でもない限り僕を操って自分を殺させるというのは不可能だろう。しかし催眠で人を殺すというのは理論的には可能らしい。
1883年にオランダで行われた人体実験がある。これはブアメードという国事犯を使った人体実験なのだけど、このブアメードという死刑囚に人体からどれだけ血液を抜いたら人は死亡するのか?と持ちかけ、定説である血液量が三分の一になったら死ぬと告げ、それを証明するために協力してほしいと言ったのだ。
それでその実験というのは、まずブアメードをベッドに寝かせ目隠しをして血液を抜き取るために指先を軽く切った。そして足元に血液を溜める容器を置き、室内はポタポタと血液が滴り落ちる音だけが聞こえたのだそうだ。さらに一時間おきに出血量を告げる。併せてブアメードに聞こえるように血液を三分の一失うと人は死ぬだとか体重の8%を出血するとあなたは死ぬなどと告げた。そして実験開始から五時間経った時に研究者が総出血量が体重の三割を超え窒死量のラインを越えたと告げる。するとそれを聞いたブアメードは死んでしまったのだそうだ。
しかしこの実験は本当に血液を抜いたわけではなく、血液の代わりにただの水を滴らせただけなのだ。なのにブアメードは死んでしまった。これは血液が抜かれ血液がなくなり出血量が致死量を超えると自分は死んでしまうという思い込みによって死んでしまったという証明だ。そしてこれを『ブアメードの水滴実験」と呼ぶ。
つまり何が言いたいのかというと人は催眠状態になると人を殺す可能性があるということだ。
もしかすると花蓮さんはなんらかの催眠術を使って僕をマインドコントロールして自分を殺させようとしているのではないか?と僕は推理する。もちろんこれは机上の推論かもしれない。催眠術で人を殺すためにはそれこそ用意周到に作戦を練らなければならないだろうし催眠術師の技量も必要になってくるだろう。花蓮さんは八百年生きてきたと言っていた。それが正しいのだとすると彼女が催眠術を学んでいても不思議ではない。なにしろ日本人の平均寿命の十倍以上を生きているのだから学ぶ時間は山のようにある。ナイアガラの滝の水がなくならないように。時間はたっぷりとあるのだから。
ならこれ以上花蓮さんに会わなければいいのではないか?催眠は相手が催眠にかかりたいと思っていないとならない。その上で暗示を開きたいと思っているという根底条件がある。また心を解放しポジティブで催眠をかける人間との間に信頼関係がなければならない。催眠中に自分にとってマイナスになるような安全を脅かす暗示が入ってきてもその瞬間に潜在意識が100%戻ってきて対処する。だから仮に催眠で人を殺すことが可能なのらそれは催眠ではなく「洗脳」つまりマインドコントロールだ。花蓮さんはどうやってか僕をマインドコントロールしようとしているのだろうか?もちろん僕はハナから催眠されるつもりも洗脳されるつもりもない。仮に永遠に生きるのだとしても人を殺すような非人道的なことはしたくない。断固拒否する。