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うろ覚えで始まる乙女ゲームと告白

作者: 川崎 春

メリー 金髪碧眼の美魔女

クリス 銀髪青眼のクールビューティー

マツ  ブルネットのエスニック美少女

※本編に一切関係ありません。

 友達に勧められた乙女ゲームをやっている最中から意識が無くなった。

 気づけば天蓋付きベッドの天井が見えた。暫く訳がわからなかったが、近くの磨き上げられた真鍮のベッド飾りに、金髪碧眼の女が歪んで映っていた。自分が動くと一緒に動くから、これは間違いなく自分の体であるらしい。

「も、もしかして異世界転生?!」

 テンションの上がった花は、次の瞬間落ち込む。

「死んじゃったのか……」

 花はその日、仕事で失敗して落ち込んでいた。これ以上は良くないと思い、ビールを飲みながら久々にゲーム機を立ち上げてコントローラーを握ったのだ。

「健康診断も問題なかったのになぁ」

 と、思っていたら、ドアがノックされた。

「どうぞ」

 声をかけると、ドアから何かが入って来た。

 服はメイド服を着ている何かは、顔がへのへのもへじだった。

「お嬢様、おはようございます。今日から学園ですね」

 そういいながら、へのこ(とっさに思いついたメイドの仇名)はカーテンを開ける。

「え、ええ……」

 凄く乙女ゲームな展開ではあるが、窓の外には学芸会で使用するようなカキワリの木に実家で飼っていた文鳥がとまっている。

 鏡の前に座ると、自分の姿が昨晩まで遊んでいた乙女ゲームのヒロインの姿だった事には安堵したが、着せられた服に絶句した。

 全身タイツのような服だったからだ。下着はなく、ブレザーシャツ、リボンの全てが全身タイツに描かれている状態だったのだ。そこに工事用コーンの様な硬いスカートを履かされたのだ。座る際にスカートが膝裏でベキっと音を立てる。立ち上がる際も、バシっと音を立てて元に戻る。

「とてもお似合いですよ」

 似合っていて欲しくなかったのだが、鏡の中の自分はそこそこ普通に見えた。トリックアートな全身タイツ。裁縫技能よりも描写力の問われる服飾店がこの世界のデフォルトなのだろう。

(設定ないからって乱暴じゃない?!)

 想像以上にスースーするが、既にブレザーを着ている為、これ以上着る物がない。腕をさすりつつ、へのこに先導されて食堂に行くと、顔に「父」「母」と書かれた人達が既に食卓に着いていた。

「「フローラ、おはよう」」

「おはようございます」

(へのこより酷い。……どうやってご飯食べるの?)

「学園に行くような年になってしまうなんて、何だか寂しいわ、あなた」

「本当になぁ、おまえ」

 乙女ゲームでは、この場面は馬車でさらっと思い出している程度。両親の顔は知らない。

 マナーも何も必要なさそうな、ホテルで出てきそうなバターロールにコーンスープ、スクランブルエッグとベーコン、そしてサラダと紅茶と言う組み合わせをひたすらにかきこんで、そそくさとその場を後にする。

 馬車は、どう見てもエンジンの無いワンボックスだった。ガラガラとスライドドアを開けてフットマンが乗せてくれる。中は如何にもファンタジーな馬車の内装。

 ワンボックスは馬に繋がれていて、二頭がそれを引く。

(そうか、ゲームで絵が無い部分は私の知識で補填されているのか……)

 ようやくフローラ(はな)は納得する。

「……私、まだチュートリアルの途中だった」

 この先が不安にしかならない。

 そして……学校に到着すると、同じ場所で八頭立ての馬で乗り込んできたデコトラから王子が降りて来た。顔は覚えているので分かる。しかしその表情は微笑のまま全く動かない。

(静止画で見た顔のままだ。私、どんだけ想像力ないのよ)

 そんな微笑で固まった王子様がフローラに向かって歩いて来る。

 顔を引きつらせて立ち尽くしていると、王子はフローラの前まで来て言った。

「主人公のお前がうろ覚えのせいで、俺までこの有様なんだが」

 微笑で固まった王子の口は動かない。そこでフローラはふっと気を失った。


 花ははっと目を覚まして天井が見慣れたワンルームのものである事に安堵する。

(死んだんじゃなくて夢か。良かったぁ)

 ビールの缶は五つ空になって転がっている。……酔って寝てしまった様だ。寝落ちしたから画面はチュートリアルの際中で微笑した王子がクラスまで一緒に行こうと誘ってくれている所で止まっていた。

 花はさっさとゲーム機の電源を落とした。再び王子を見る事はないだろう。

 時計を見れば午前九時半過ぎ。今日は休日だ。お腹が空いている。

「今日は近所の喫茶店でモーニングを食べよう!」

 夢の中でリアルだった朝食を思い出し、花は起き上がった。


 身支度を整えて外に出た瞬間、お隣さんも出て来た。

 パーカーにジーンズ姿の男。……同じ会社の同期である下山だ。このマンションは会社の所有物件で、新入社員から三年間は格安で住める独身寮になっている。

 ぺこりと頭を下げると下山は花を睨んで言った。

「お前のせいで魔力が空だ!」

「は?」

 何を言っているのか。花はぽかんとした。

「お前の好きな世界で俺が王子になれば告れると思ったのに、何だよあれ!」

 魂の叫びとでも言わんばかりの声に、一瞬の思考の後で花は固まった。

「まさか昨日の夢……」

 魔法と言う非科学的な話をする目の前の下山。信じたくないがそうとしか思えなかった。

 その後、下山の部屋に通されると信じられない広さに唖然とする。

「俺は異世界から来た魔法使いの血が入っている。だから魔法が使えるんだ」

 六畳のワンルームが十二畳くらいになっているのだから、信じない訳にはいかない。

(下山君……告白って言っていたよね)

 花は気まずい気分で俯く。自分から問う事はしたくなかった。

「その……やり方が悪かったのは……あまり……接点がなくてだなぁ……」

「うん」

「昨日、給湯室で泣いてたの見ちゃったから……元気にしたくて……その……来年の春には俺達、ここ出ないとダメだろう?だから……弱っている所に付け込む最低なやり方だと思ったんだが……ごめん」

 花も下山もこの寮に居られるのは今年度限りなのだ。

「私、物凄くがさつで仕事でもミスが多いし……ご飯よりもお酒が好きなんだよ?中身は枯れてる」

 花は見た目が小柄で可愛い系である為、フリルのエプロンをしてクッキーやケーキを焼いていそうな癒し系女子に見えると言う。……実際には部屋の掃除は最低限で、紅茶にクッキーよりもビールとスルメ派である。

「酒が好きなのは知ってる」

「え?」

 新歓の席で、下戸である下山が困っていた酒を花が飲んでくれた事がきっかけだったというのだ。以後もこっそりと酒の苦手な同僚や後輩の分を呑んでいるのを見かけたという。

「単に好きだから、好感度を落とさない様に飲めない人の分を奪ってただけだよ」

 人を庇って酒を飲む癒し系の可愛い女子。それが花の評価だ。

 酒の飲み方を部下に教えるのが上司の甲斐性だと思い込んでいる上役が少数派だが存在する。彼らの被害者を救う事で、周囲は花を悪く思わないし言わない。

「そういう所も俺は好き」

「ごめんなさい。友達からで」

「……はい」

「後、人の夢に勝手に侵入したんだから朝食おごって」

「は?はい!」

「喫茶店のモーニング」

「分かった!」

 トーストとコンソメスープのモーニングセットだったので花は不満だった。

 望むモーニングセット探しは続き、気づけば下山と花は休日の朝食を一緒に食べるのが習慣になっていた。

 寮を出る年度末、二人はルームシェアをする事にした。

 下山の課では下山が花を好きなのは周知の事実だったらしい。下山が告白できないまま寮を出るかどうかが賭になっていたとか。

 花は恋愛をすると気を遣って神経を擦り減らすタイプだ。見た目と違うと何度も振られた経験があるからだ。それもあって仕事の失敗も増やしたくないので避けていた。可愛いので花はモテる。告白は何度もされていたが全て断って来ていた。

 突拍子もない告白方法だった影響もあり、下山には気を遣わない。だからルームシェアする事にしたのだ。

(普通に告白されていたら断ってた。世の中不思議な事もあるのね)


 それから休日だけでなく毎日朝食を一緒に食べる暮らしが定着した頃……。

 プロポーズしようとしている気配を感じるのにしてこない下山。

 業を煮やして花は言った。

「プロポーズするなら、夢は嫌だよ」

 下山は真っ赤になって魔法でバラの花束を出すと、ずっと渡せなかった指輪を慌ててポケットから出した。しかし花束からは炊き立てのパンの匂いがしたので、二人共たまらず吹き出してしまったのだった。

3Dキャラの中身は空なんだよ。


誤字脱字等の修正はありますが、話は変わりません。

読んでいただきありがとうございました。

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