【第一話】始まり
人にはそれぞれ物語がある。大小さまざまな物語。その影響力は計り知れない。
神話ともなればなおさら
春の日、ピンポーンというベルの音が聞こえる。父と母が死んで九年。一人暮らしも慣れたものだ。
「ユウキィ~~寝坊か。コノヤロー」
いつものように人の家にズカズカと入ってくる。
「あ、起きてた。おはよ」
「おはよ」
「ほら行くぞー。遅刻する!」
「まて朝飯は食わせろ!」
「ったく、ほんとしょうがないんだから急いで食べてよね」
「わかってるよ莉子」
朝食は白米に限る。この習慣は日本に生まれた身として十五年間守っている。
「かったぁ」
「人ん家のソファにケチつけるな」
まるで我が家のように朝からくつろぎだす。
「お前も遅刻すんぞ」
「いーのよ今日は」
寂しげな顔を浮かべる莉子を横目に、少し焦げた目玉焼きと白米をかきこむ。
「この近くでポータル」
莉子がつぶやく。
連日のニュース。異界の切れ目による災害。よく漫画やアニメで見聞きするポータル災害である。
食事を終え、ユウキもソファに腰掛ける。
「さ、ユウキ学校行こ」
「まだ座ったばっか」
急いで歯を磨いて莉子を追う。
「今日で九年ね」
「ああ」
父と母が亡くなって九年。あっという間だった。死の真相はいまだわからない。
「ポータルが関係してるのよね」
「らしいな」
莉子がうつむく。
「まあ、俺は知れなくてもいいよ。」
「なに諦めてんのよ」
「だって」
「意気地なし。やると決めたらやる男が好きだよ私は。昔言ってたじゃん。俺が必ずお父さんとお母さんの死を突き止めるって。」
「俺には無理だよ」
この世界の空気には魔素と呼ばれる未知の物質も含まれている。人は本来生まれたとき刻まれる魔力の種類と魔素感応度によって能力を得る。
だが、ユウキは魔素感応障害。あの日以来魔素が分からなくなってしまっていた。
「ね、ユウキできるよ大丈夫」
「うるさい」
遮るように怒鳴ってしまう。
「俺、一人で行く。」
「ユウキ...」
幼馴染に背を向け一人歩く。
俺に何ができるんだ。なんで俺には魔素が分からないんだ。と考える。
いつもとは違う裏道を通る。
「莉子のやつ能力使えるんだもんな。」
昔は魔素を過敏に感じていたため自分の能力の把握できていない。一方、莉子は植物を軽く操る力を持っていた。生み出すことはできないので環境に左右されやすい。
と、考えながら歩くといつの間にか学校近くのいつもの通りに出ていた。
何か人だかりがある。
「に、にげろおおお」
「ポータルだああ」
「ポータル!?」
確か朝のニュースで付近にポータルがあったと言っていた。ポータル付近は他のポータルも出現しやすい。
「まさか」
分かれてそう時間はたっていないので裏道に来ていない莉子はユウキより早く通りに出ているはずであった。
人ごみをかき分ける。
もう魔物がでてきている。何人か負傷している。
「対異はまだか」
みなが声を上げる
「は!?」
奥を見ると莉子が倒れている。
何にも考えず足が動く。弱く脆い人の拳で殴る。
「がああ」
敵うわけなどない。
強そうな魔物がたくさん出てくる。
血でかすんだ目に映る莉子は魔物につぶされた。こみ上げる怒りと莉子との思い出が浮かぶ。
「人って想いがあるから強いんだよ勇気。」
ユウキは気絶した。
次回は目覚めた後から