第一話
今日彼女に不審な動きがあった。授業中、折り鶴を弄っていた。高さが三センチくらいの小さな折り鶴。
この高校で最も彼女を観察している(と自負するところである)僕ですら、彼女が授業に関係のないものを手にしているのは見たことが無かった。
とても折り鶴を折りそうにはタイプには見えない。誰かから貰ったモノか? いや、誰かから折り鶴を貰いそうなタイプにはもっと見えない。
こりゃ詳しく調べる必要があるな……。
彼女はその日、計三十回も、折り鶴を机の中に入れては出してを繰り返した。その日というのは僕が彼女の折り鶴を発見してから後という話だ。だからその前から弄っていた可能性もある。しかしよく考えたら、僕は始業しょっぱなから彼女をずっと見ていたのだ。よってこの日は計三十回で間違いない。
そんなに様子が気になるとは、よほど大切折り鶴なのか?
僕は帰路につく彼女の後をつけた。
彼女は歩いている途中も鶴を手放さなかった。
彼女は駅に着くと、Suicaを通してホームで電車を待った。
もちろん僕は彼女の乗る電車も降りる駅も知っている。電車に乗らない僕はSuicaが無かったが、それでも躊躇なく、何も調べずに三八〇円の切符を購入し、ホームから離れた待合室で待機した。三八〇円のところにある□□駅で彼女は降り、そこから徒歩五分程の場所の家に帰るのだ。そこには『佐藤』というどこにでもありすぎる表札が掲げられているが、僕にとっては世界一特別な『佐藤』というわけだ。
彼女は僕の期待を裏切ったとも言えるし、裏切らなかったとも言える。彼女に裏切られるなら期待のほうも本望だろうが、兎に角、あまり予想しなかったことが起こった。
彼女はいつもより一つ手前の駅で降りた。まだ住宅街には届かない、飲み屋街や小さな商業施設等の並ぶ△△という地区だ。僕が記憶する限り、彼女が△△駅で降りたことは無かった。
彼女は歩いた。折り鶴は手に持ったままだ。もし僕が紙製の折り鶴を手にしたまま夏の暑い時期に歩いたら、手汗でびしょびしょになってしまうだろう。しかし、彼女はあまり汗をかかないタイプなのだ。これは他の女子との制汗スプレー使用頻度や制服の襟パタパタ頻度を比較して得られる推測に過ぎないのだが、佐藤さんのイメージにピッタリではある。清楚で清潔な佐藤さんは汗をかかない。
数分歩いたとき、僕の目に衝撃の光景が飛び込んだ。
佐藤さんが公衆トイレに入っていったのだ。そんな。佐藤さんが公衆トイレだなんて。
それだけではない。佐藤さんが入っていったのは……うん……そう……男子トイレだった!! なんてことだ!!