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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

フレデリカ・クラークの手記2

作者: きるきる


『この世界は理不尽で残酷だ』


 この台詞が吐ける人は幸せだ。

 どうせ充実した毎日を長期間過ごしているのだ。

 それがあたりまえになっている人達。

 だからって、調子がいい時期から少し落ちた出来事があったくらいで不幸ヅラしないでほしい。

 世の中には常に悪い状況が続いている人種というのがいる。

 その人たちからすると、その状況が普通なのだから。

 理不尽もクソもない。


 『理不尽』という言葉を使いたいなら、もっと絶望な状況に陥ればいい。




 私は家族を皆殺しにされた。

 家も家族も奪われ、天涯孤独の身となった。

 そして家族の復讐の為に軍人となった。


 そんな、何もないと思われていた私に親友ができた。

 嬉しかった。


 自分で言うのもなんだが、以前の私は典型的な温室育ちだ。

 学業は家庭教師。

 外出も一人では許されなかった。

 そんなだから友人の一人も作ることが出来ない。

 当時、魔法学院に通う事に強く憧れている時期があった。

 同い年の友人と魔法で競い合ったり、授業の後に市場に買い物に行ったり。あとは屋台で買い食いしたり。

 

 だから友人が出来た事は私の中で喜ばしい事だし、初めての経験だ。

 もしかしたら過去の嫌な出来事すら押しのけて、幸せで楽しい毎日が送れるのではないかと期待した。

 友人と毎日を過ごす中で、私の期待は現実のものとなる。


 その友人となった『彼女』は付き合いの途中で親友と呼べる人物へと昇華する。

 お互いの部屋に行き来し食事を振る舞った。

 休日の日は一緒に買い物に行き、お揃いのアクセサリーを買ったりもした。

 恋愛初心者の私だけど、恋の話もした。

 私にも初恋だと言える様な感情が芽生えたからだ。

 自分の恋話は恥ずかしいけどドキドキして楽しい。

 いままで生きてきた中で、世の中が一番輝いて見える時だった。感情が昂ぶり心拍数が上昇するのが自分でもわかる。

 そんな幸せな体験を親友と共感できるなんて私はなんて充実した毎日を送っているのだろう。

 きっと彼女とは、一生の付き合いになるんだろうと確信していた。


 そんな親友が殺された。


 彼女は真っ直ぐな心を利用され、騙され殺された。

 涙が止まらない。

 許さない。

 楽しい生活の中で忘れていた感情を思い出す。

 家族を奪われて時と同じ感情。

 怒り。悲しみ。

 いや違う。両親を殺された時より、怒りも悲しみも圧倒的に巨大だった。


 あれ?

 これが巷で言う『理不尽』と言うやつではないだろうか。

 そうか……

 『彼女』という親友と出会った事で私は、人生で絶好な期間に入っていたのだ。

 幸福を感じていた。

 理不尽なんて、弱者の戯言だと考えていたのに……

 こんな理不尽で残酷な事があっていいのだろうか。

 人は幸せになるほど、世界の理不尽さを強く感じる生き物なのだ。

 

 そうだ。

 そんな事よりも『彼女』を殺した犯人を見つけ出さないと。

 一日でも早く見つけてあげないと『彼女』は天国に旅立てない。


 

 そんな私の前に、不思議な能力を持つ賢者が現れる。

 賢者は口を開く。

 

『知りたい事を教えよう』


 手がかりのない私は、その賢者の力を借りる選択肢しか思い浮かばなかった。


 その賢者の力は偉大すぎた。

 過去の記憶を取り戻す事ができた。

 更には、両親を奪った惨劇の真実を知る事もできた。


 あぁ……

 まさか……

 そんな……


 全てを奪ったあの夜の惨劇と、私から親友を奪った人間が同じ人物だったなんて。

 許せない。

 どうやって罪を償わせようか。

 私から二度も大切なもの奪った。


 嫌だなぁ。殺したくないなぁ。

 楽しい毎日で、復讐という感情が薄れてきたのに。

 親友と新たな人生をリスタートさせようと考えていたのに。

 でも、こうなってしまった以上、殺さないと私の気持ちと感情が整理できない。

 



 見つけた。

 私の目の前に『その男』は立っていた。

 私の気持ちに気づいていないのだろうか。

 動く気配がない。

 このまま感情を出さずにいよう。

 そうすれば不意を突いて、全ての片をつけられる。

 目から涙が溢れそうになっている。

 我慢しなくちゃダメだ。

 涙を流したら、私の決意を鈍らせる原因にもなる。

 逆に、とびきりの笑顔を送ってあげよう。死にゆく彼への手向けとして。


 じゃあ行くよ。


 剣を構えて男へと突貫する。


 この世界はどうしてこんなにも理不尽で残酷なのだろう。


 私は愛する人の胸に剣を突き立てた。

 その人は、人生で初めて恋心を抱いた男性だった。



 

                        FIN

 

 


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