Mao 9. まおちゃんはこれから...
「えっ、えっ、今の何?今、起こったことは現実なの?!」
ゆみちゃんは混乱しているようだ。
「...その状態は『混乱』!!まだ、術が残っていたか!!」
身構えるまおちゃん。
「ちっが~~~~~う!!さっきまでの戦闘は本当?そしてまおちゃんはゲームとかに出てくる魔王?」
そう言って、ゆみちゃんはスカートの上から下腹部を触ってみる。
「!!」
そして何かを確かめると真っ赤になってしまう。
「だから最初からそう言っておるであろう。全く。今までなんだと思っておったのじゃ...」
そんなゆみちゃんの様子などお構いなく、まおちゃんは呆れ顔になる。
「だとしたら...ど、どうしよう...そうだ!理事長は!!」
ゆみちゃんは倒れている理事長を見つけると、そっと抱き起こす。すると...
「うっ!」
理事長が意識を取り戻したようだった。
「理事長!!」
「大丈夫じゃ。取り憑いていたものが倒された今、すぐに元通りになるであろう」
まおちゃんの言葉通り、ソファに座らせ、水を飲ませると、すぐに意識がしっかりしてきた。
体にもなんの異常もないようだ。
「あら、わたくし、どうしたのかしら?確か、常春さんが話があるとかで待っていたら急に意識が朦朧としてきて...」
理事長は状況が飲み込めていないようだった。
「あ、あの...ノックしても返事がないので、失礼ですが無断で入らせていただきました。そしたら理事長が倒れていて...」
ゆみちゃんは咄嗟に誤魔化す。
(『霊体の魔物に取り憑かれてました』って言っても、信じられないよね...)
「そうでしたか。どうやら突発的な低血圧のようですね。心配をかけました」
「いえ、ご無事でなりよりです。それより勝手にお部屋に入ってしまい、申し訳ありません」
「いいえ。いい判断です。さすが我が校、始まって以来の成績優良児。褒めこそすれ、叱責することはありません!」
どうやら、ゆみちゃんの評価は学内では高いようだった。
「ありがとうございます」
ゆみちゃんは礼を言う。
「それではお話というのを聞きましょうか。あら?このお菓子は...」
見ると、皿にお菓子の欠片が残っていた。残りかすだけであとは全部、まおちゃんが食べてしまっていたようだった。
「申し訳ありません。この子が手持ち無沙汰だったので、用意してあったお菓子に手を出してしまいました」
ゆみちゃんが謝る。
「それはいいのですが、こんなもの用意したかしら...少し、記憶が飛んでいるようですね」
理事長が不思議そうな顔をする。
「もし、お疲れならば、明日にでも出直しますが...」
ゆみちゃんはそう言うと、心の中で諸手を挙げて喜んでいた。
(よし!今日はもう戻ろう!まおちゃんの正体が分かった以上、相談はできないし、それに私、今...あれ、つけてないし...気づかれないとは思うけど...)
ゆみちゃんは無意識に足をギュッと閉じる。
しかし、ゆみちゃんの期待はあっさりと裏切られた。
「いいえ。急ぎなのでしょう。今は意識もしっかりとしていますし、疲れもありません。すぐに聞きましょう...それで相談というのは...」
「そ、それでしたら...」
(ど、どうしよう!何を話そう!『まおちゃんが魔王で勇者に狙われてるから匿ってほしい』??そんなこと言ったら、私が病院に連れていかれる!)
ゆみちゃんは焦って、代わりの相談内容を考える。そして咄嗟に出た言葉が...
「この子を、まおちゃんをこの学校に編入させてもらえませんでしょうか!!」
(ええぇぇぇぇ~~~~~~!!!)
このセリフに一番驚いたのはゆみちゃんだった。
それからゆみちゃんは一生懸命、説明した。
まおちゃんが自分の遠い親戚であること。
両親が事故に遭い、亡くなってしまって、行く当てがないこと。
まおちゃんはまだ子供だが、頭の良い子で、外国で飛び級を重ね、高校一年くらいの学力があること。
自分には他に頼れるものがおらず、理事長が最後の頼みの綱であると、涙ながらに訴えた...演技であるが...
まおちゃんはゆみちゃんに事前に言われていたためか、大人しくしており、何か聞かれた時には、ゆみちゃんの話に同調してくれていた。
「そうですか...確かに外国では14、5才で大学に入学という話も聞いております。その子も生まれ持った才能があるのでしょう...」
「では...」
ゆみちゃんが期待に目を輝かせる。
「しかし、規定通り、編入試験を受けてもらわなければなりません。それはよろしいですね?」
ゆみちゃんは自分の勉強中に、まおちゃんが難しい問題を苦もなく解いていた事を思い出す。
「もちろんです。そうすればこの子の実力も分かってもらえると思います」
「...特別ですよ。何やら訳ありのようですし...」
理事長のその言葉に、ゆみちゃんの肩がビクッと動く。
「まあ、話せる時が来たら話してください」
「ありがとうございます...」
理事長の言葉にゆみちゃんは深く感謝する。今度は演技ではない涙が出た。
「それで、学費ですが...」
理事長の言葉に再び、ゆみちゃんの肩がビクッとなる。
「成績次第では免除対象となります。それでよろしいですね」
ゆみちゃんの顔が輝く。
「あ、ありがとうございます!本当に...ありがとうございます...」
また、ゆみちゃんの目から涙がこぼれた。
「まあ、あくまで試験に合格したらの話です。そこは公正に行いますのでそれは覚えておいてくださいね!」
理事長がふっと息を吐き、優しげな顔になる。
「はい!お願いします!まおちゃん!頑張ってね!!」
「任せておけ!!」
まおちゃんはやる気満々だ。
「では、早速、試験の準備をしましょう。それまで二人は教室に戻って授業を受けていなさい」
「はい!!」
こうしてまおちゃんは私立大和撫子女学院の編入試験を受けることになった。
そして、教室までの廊下を行きと同じように二人、手を繋いで帰る。
(ふふ。まさか、また一緒にいられることになるなんてね!)
ゆみちゃんが笑っていると、
「いいのか?」
「えっ?」
まおちゃんが問いかけてきた。
「妾と一緒にいると、また、戦闘に巻き込まれるかもしれん。いくら『シミ付き下着』を持っているとはいえ...」
「キャ~~~!!それは口にしないで~~!」
「なぜじゃ?まさかゆみがそのようなレアアイテムを持っておるとは...皆に自慢して回りたいくらいじゃ!」
「絶対にやめて!!」
ゆみちゃんが強い口調で言う。
「ふむ。不思議なヤツよのぉ...それで...本当にいいのじゃな?」
まおちゃんが再度、確認する。
「うん!だって、まおちゃんと一緒にいると楽しいんだもの!」
「それは妾も同じじゃ!それと前にも言ったと思うが、ゆみが死ぬまで一緒にいるが...」
「もちろん!私から離れちゃダメだよ!」
「やれやれ...分かっておるのかのぉ」
呆れ気味にそう言ったまおちゃんの頬が緩んだ気がした。
しばらく歩いていると、ふとまおちゃんの視線を感じる。
気がつくと、ゆみちゃんの胸を凝視していた。
「えっ!えっ!」
ゆみちゃんが赤くなり胸を隠すと、今度はスカートの裾を眺めた。
「キャッ!ちょっと」
ゆみちゃんはスカートの前を片手で隠す。
「やはり、下着があった方が綺麗じゃのう...あまり、下着をつけずに出歩くものではないぞ!」
「私だって、好きでこうなった訳じゃないのよ~~~~!!」
ゆみちゃんの声が学校中に響き渡った...