転生。希望。絶望④
遠くからだと【獄水滅竜】しか見えなかったが、森に近づくにつれてどんどん他の音も聞こえてくる。しかしどれも音の大きさからして上級魔法であることがわかる。
平原をぬけ、森に差し掛かってすぐ、ベルクは視界の端に何人かの人が倒れているのが見えた。
(今はメアリーのところに…いや…でも…)
正直、今、自分がメアリーのところへ行っても意味がないであろうことは最初っからわかっていた。
いつのまにかベルクの足は止まっていた。
【もし今、怪我人がいて、助けられるとしたら私は助けなければならないと思うのです】
そう言ったメアリーの言葉がベルクの頭によぎる。
(そうだ!今僕にできることは…)
「大丈夫ですか?何があったんですか?」
そう言いながらベルクは倒れている人のうちの一人に話しかける。それと同時にその男の着ている鎧の胸のマークが目に入る。
(これは…やっぱりゾルバード王国の騎士の紋章…)
「ぅうう…」
転がっている兵士たちはまだかろうじて息はあるようだった。
「」
ベルクはその兵士に回復魔法をかける。
(正直、回復魔法はまだ初級しか扱えないから気休めにしかならないけど…)
しばらく回復魔法をかけ続けているとその兵士が意識を取り戻す。
「き、君は?」
「何が起きたんですか⁈」
ベルクが急に大声を出したことに兵士は少し驚く。
しかし、ベルクの耳には回復魔法をかけている間ずっとメアリーが戦っているであろう戦闘音が聞こえていて心配や不安でいっぱいになっていた。
何かを感じ取ったのか兵士は寝そべったまま今の状況をベルクに話しだす。
「我々はゾルバード王国軍から派遣されてきた。片腕のバイドが来るという情報が入ってその討伐に。
しかしやつはこちらの想定など軽く超えてくるくらい化物染みていた。たまたま近くにいた賢者様が駆けつけてくれなければ我々の全員、とっくに死んでるだろうな。我ながら悪運の強いやつだよ」
(メアリーが危険だ!)
兵士から現状を聞いてベルクは居ても立っても居られず、すぐさま立ち上がり大きな魔法での戦闘音のする方へ走り出そうとする。
しかしそれは助けた兵士が無理をして立ち上がり、ベルクの腕を掴むことによって阻止される。
「な、なんですか?!」
引き止められると思ってなかったベルクは驚き半分焦り半分で返事をする。
ゾルバード王国軍といえば強いことと同じくらいに平民への扱いが酷い貴族が多いことは有名を通り越してもはや常識だった。
「僕は平民ですよ?助けずに見過ごせば良いじゃないですか?」
「俺は元々平民だったんだ。けど子供の頃で父親が勲章をもらって貴族になった。けど平民だったこそ、他の奴らみたいに平民を見過ごしてたりはできない。とくに君のような子供には」
「で、でも!」
ベルクはメアリーが戦っているであろう方向を見る。
「言ったら悪いかもしれないが君のような子供があそこへ行っても足手まといになるだけだ。それに賢者様は強いから賢者様なんだ君も知ってるだろう?だから今はグッと堪えてここで賢者様の帰りを待ちなさい」
(メアリーが強いことなら誰よりも知ってる!…でも)
ベルクは納得できない心をなんとか押さえつけ、アレンの方へ振り向く。
「なっなんだ?」
ベルクはこれまでとは比べ物にならないほどの爆音に咄嗟に森の方へ向き直す。
視線の先にはさっきより大きい水龍が背後の森から現れる。
ベルクは目の前の光景に驚きを隠せなかった。
「凄いなあ あんな魔法を撃てる人が負けるわけないじゃないか。だから君も安心して待っていられるだろう?」
(いや違う!消費魔力量が激しいから連発できないってあれほど言っていた獄水滅竜を二発目撃つなんて…それはつまり…つまり…)
「それだけ追い詰められてるってことじゃねえか…」
ベルクはそう思うと同時に音のした方へ走り出していた。
後ろからアレンが何か言っているのが聞こえた気がしたがそんなのどうでもよかった。
ベルクは密集して生えている木々の間を無我夢中で走った。
どんどん水竜が近くなっていく。
(もうすぐだ!)
ベルクは戦ったことによってできだであろう平地に飛び込む。
「え?」
そしてベルクの目に真っ先に入ってきたのは出血したまま地面に倒れ込むメアリーの姿だった。