転生。希望。絶望②
前回の内容を少し変更したのでそちらを読んでから読んでください
ベルクは昼食を取った後はメアリーと何度か模擬戦をしたが、ベルクが中級魔法ありでメアリーは初心者向けの初級魔法のみと言う縛りでもベルクはメアリーに一度も攻撃を与えることができなかった。
正直、メアリーは参加者ともいい勝負できるだろうし、それどころか勝てるほどの力を持っているとベルクは思った。
いつも通り魔法の稽古を終え、帰ると毎日玄関に置かれている新聞をとり、すぐに自室に戻る。
自室といえどそう思っているのはベルクだけで、本来は物置部屋に数冊本や新聞を置いていただけなのだが、他の参加者を探すために新聞や、戦った時に勝てるよう魔法書やその他のこの世界に関する知識を詰め込めためにいろんな本を買いまくった結果、足場が決められた場所にしかないほど本だらけになってしまっていた。
また、与えられた自室があるのに基本そこにいるので自室だと思っているが、メイドのメアリーはいつも片付けてほしいだの、本当の自室は別にあるのだからそっちに本を持って行って読んでほしいだのお小言をこぼしている。
部屋に入るとすぐベルクは届いた新聞の隅々に目を通す。
今のところベルクが見つけた参加者は46人。しかし、その約半分の22人が今までに殺されたと報じられている。つまり半分以上が何かしらの形で隠れていて、目立ってしまい早めに気付かれた参加者の半分は既に死んでしまっていると言うことになる。
(けど暇つぶしでデスゲームやら奴らだから参加者でもないやつに簡単にやられるような弱い『ギフト』を与えるとも思えないんだよな)
そんなことを思いながらベルクは読み進めていくが、やはりビビッとはなかなか来ない。
というのも前までは比較的平和だったため少しでも大きな手柄を立てたらすぐ新聞になっていたので、かなりの頻度で見つけられていた。
しかし最近、ゾルバード王国の隣国であり敵対国であるギルドーラ王国が軍を動かしたとかなんとかでそれに関する記事ばかりなので前の46人目を見つけたのは1年と二ヶ月ちょい前で、それから一人も見つけられていない。
ベルクはページをめくる。ビビッときた。
「やっと見つけた!47人目!」
久しぶりの感覚にベルクはつい声を上げてしまう。
ベルクは急いでその名前のある記事を読む。
ーギルドーラ王国、国内最強の冒険者、片腕のバイドを軍部に取り入れる。
ギルドーラ王国で最強と謳われる冒険者のバイドを軍部に入れ、こちらのゾルバードへの侵略への戦力にしていることがわかった。
片腕のバイドは片腕ながら、魔法と剣、どちらにおいても最強と言われ、どちらも超級レベルだと言われている。もしこの話が本当なら、この国の脅威になりかねない。ー
(片腕のバイド…参加者で片腕と言うことは昔に他の参加者とやり合ったことがある可能性が高いな)
そんなことを考えているとベルクはいきなり後ろから大声で叫ばれる。
「まーた新聞をこんなに散らかして!」
「わっ!」
つい驚いて大声で声を上げてしまう。
「いきなり話しかけるのはやめてよメアリー。ほんとにびっくりするんだから…」
「それはすみませんでしたが、怒らせることをしているベルク様もベルク様です!」
そう言いながらメアリーは床に散らばった新聞をまとめ始める。
「まったく!前あれほど綺麗にして欲しいと言いましたよね!」
「わ、悪かったよ!」
悪いのは全てベルクなので素直に謝るしかできない。
「はぁ、次からは気をつけてくださいね」
「ところで、なんの記事を読んでいたのですか?すごく真剣に読んでいたようですが」
「あぁこれだよ」
そう言ってベルクはメアリーに片腕のバイドの記事を見せる。
「戦争。冒険者。また物騒なことが起きそうですね」
「あぁそうなんだ。俺が生まれて物心ついた時から比較的平和だったから初めての戦争になるかもしれなくて少し怖くてね」
戦争が怖い。というのはあながち嘘ではなかった。他の参加者がチートともいうべき『ギフト』を持っているのに対し、ベルクは何もなしで戦わなければならない。これまではうまくいっているがいつこの平和が崩れるとも限らない。そんな不安があるのは本心だった。
そんなことを言うと、メアリーはゆっくりとそして力強くベルクを抱きしめた。
「ちょ⁈」「私が守ります!何があっても!」「っ…」
ベルクに抱きついたメアリーの腕は気のせいか少し震えていた。
本人曰くメアリー自身がまだ生まれて一桁の時に戦争を体験していて、その時に両親を失っているという。
そのあと、いろんなところを転々と移動し、グランツ家にメイドとしてやってきて今は落ち着いていると言う。
抱きつかれていることには変わらないのだが、昼とは違い、不思議と変な感じはしなかった。それどころかベルクはむしろ何か暖かい感じがした。
(こんなに自分が大切にされていると感じたのは前世で姉が愛情いっぱいに抱きしめてくれた時以来だな)
母親も生まれてすぐ死に、父親とは立場上会えない。そんな中ずっと一緒にいてくれたメアリーはベルクにとってこの世界で母であり、姉でもあり、かけがえのない一人の家族と思える人だ。
そんなことを改めて感じていると、ベルクはメアリーの一方的な抱擁に応えるようにして抱きついていた。