絶望。希望。絶望③
さっきから真顔で夏緒の方を見つめる神からは明らかに苛立ちを感じた。
夏緒はゆっくり深呼吸をして、最後の質問を投げかける。
「じゃあ最後の質問だ。一番最初にも聞いたがなぜデスゲームなんだ?」
「そういえば教え忘れていましたね。
はっきりいうと神達の暇つぶしです」
「はぁ?暇つぶし?」
もう少しちゃんとした答えが返ってくると期待していた夏緒は素っ頓狂な声が出てしまう。
「はい。暇つぶしです。
神々はねものすごい暇なんですよ。人間界を覗くぐらいはできるけどあまり干渉はできないし、食欲や性欲などの欲もほとんどないので趣味という趣味が無いのです。
しかし感情は人と同じようにあるので暇という感情はあるのです。
そこで思いついたのです!家畜以下である人間の魂を異世界に飛ばし、そこで殺し合わせれば面白いのではないかと」
「そうなのか…」
なんとか話を理解した夏緒は小さく頷く。
しかし理解はできても納得はできないもので夏緒の頭の中はより目の前の神に対する危険信号を強く鳴らした。
「ではそろそろデスゲームのルール説明をさせてもらいましょうか」
「あぁ教えてくれ」
とうとう本題に入るようで場の空気が少し変わった。
「まず先ほども言ったようにあなたがたには二度目の人生を剣アリ魔法ありの異世界でゼロから過ごしてもらいます。
また、異世界に行く前に参加者は各々担当の神たちから『ギフト』というその神によって違う特別な力を与えられます。
その力はどれもその世界では最強クラスで、それを駆使して最後の一人になった者が大切な人を生き返らせ、元の世界に戻ることができる。
以上がルールです」
「なるほど。二つほど質問していいか?」
そう聞くと神は隠す気のないめんどくさそうな顔をしてため息混じりに答える。
「はぁ、いいですよ」
(露骨に嫌がるようになってきたな。こいつ)
夏緒はそんなことを思いつつ質問を投げかける。
「異世界には他に人間がいるんだろ?どうやって参加者とそうでないかを見分けるんだよ」
「それは直感ですね」
即座に帰ってきた投げやりな答えに夏緒は混乱する。
「直感ってどういうことだよ?」
「簡単ですよ。同じ参加者を前にした。もしくはその名前を聞いたり、似顔絵を見ただけでも直感でわかるようになっています。ビビっと来るんですよ」
「ビビっと…」
なんとも雑な説明だが、これ以上聞いても無意味だと思った夏緒は二つ目の質問に移る。
「もしこれから行く世界で死んだらどうなるんだ?」
「それは簡単ですよ。
さっきも言ったでしょう。あなたたちの魂は私たち神々が買い取ったと。なので死んだ魂は神々の奴隷としてオークションかなんかに売られますね」
「なっ⁉︎帰れないのか?まだ死んでないんだろ⁉︎俺も他の参加者も!」
「どうせ自殺するんだからいいじゃないですか?それに人間ごときが絶対普遍の神の決め事にあれこれ言える立場だと思ってるんですか?」
「…」
明らかに敵意を隠す気のない言葉に夏緒はつい声を失う。
「では他に質問はないですか?」
「あ、あぁ」
『ピンポンパンポーン』
夏緒がそう言うと同時にまたもやどこからか音が聞こえる。
『まもなく転生が始まります』
そんな声がしたかと思うと夏緒の立っている場所が光り出す。
「うわっ!」
夏緒の体が宙に浮き、光に包まれていく。
そして足の指先から光に包まれて消えていく。
(そうか、俺、これから転生するんだ。
きっと大変なこともあるだろうけど『ギフト』なんてチート能力ももらえるらしいし、何としてでも生き残ってやる!)
そう決意した夏緒の頭にふと一つの疑問が浮かぶ。
「最後の最後だ!『ギフト』っていうのは転生したら手に入るんだよな?」
そういうと目の前の女神はものすごい笑顔を見せた。
しかし最初見せていた笑顔ではない。こっちを見下し、まるで復讐を遂げたような顔だった。
そして神はそんな顔で白々しく答える。
「あー!そうでした!この場で授けなければいけないんでしたね!」
「は?なら何してんだよ!早く『ギフト』を授けてくれよ!」
「はぁ、そんな一瞬で授けられると思ってるんですか?神の力ですよ」
「なっ?」
(は、はめたれたっ!)
夏緒がそう思った時にはもう胸のところまで消えていた。
「つまり俺だけ『ギフト』なしで戦えって言うのかよ!」
「そうに決まってるじゃないですか。まずそもそもなんで時の神ともあろう私が低俗な人間なんかに力を分け与えるわけないじゃないですか?」
「ふざけるな!」
そう言って手を上げようとするがもう既に首下は全て消えてしまっており、手の感覚がない。
(なんで…なんで俺だけ…)
そんなことを嘆いてるうちに夏緒の意識はそこで途絶えた。
「ちゃんと人間相手でも仕事した?時の神・クロノス」
そう言ってくるのは癒しの神・パナケア。
「なんで私が人間相手に力を与えなきゃいけないってのよ」
「え?まさか『ギフト』与えてないなんてことはない…よね?」
「与えてないけど?」
「もー!なんでそういうことするかな⁈」
「別にいいでしょ?あんな人間どうせ死ぬし」
「はぁ、もうルールは守ってよ…」
そう言ってパナケアはぶつぶつ言いながら他の神のところへワープしていった。
一人になったクロノスは自分が神になる前、つまり人間だった時のことを思い出す。
「人間なんて…」