絶望。希望。絶望②
夏緒は頭が半分寝たまま夢見心地で周りを見渡す。
どこまでも広がる空間には夏緒以外人っこ一人いない
夏緒は眠気も冷めきってない頭が処理しきれない状況を前につけつけられ、ボソッと一言発する。
「なにこれ?夢?」
夏緒はもう一度辺りを見渡して状況を確認する。
そして夢か現実か知るために自信のほっぺをつねったり、叩いたりするとしっかり痛みを感じた。
夢の中のような空間に誰もいなく、見渡す限り同じ景色が続く。
そして何より夢ではない。
その全ての条件を考慮した上で夏緒はある一つの結論に至る。
ここはあの世であるという結論に。
(あぁ、俺は死んだのか…)
しかし今、夏緒は病院で寝落ちたところまでしか記憶がなく、なにで夏緒自身が死んだのかは覚えていない。
「まぁ、どちらにせよあの状況だったらあのままショック死したって言われても全然信じられるしなぁ」
夏緒はそう納得した途端なんとも言えない負の感情に押しつぶされそうになる。
「そうだよなぁあの状態だと死んでもおかしくない…おかしくない………」
そう夏緒は自分に言い聞かせ、必死に正常を装うが、その声は自分でもわかるほどか細く震えている。
次の瞬間、夏緒の中で何かが崩れた。
「嘘だ…嘘だ!」
怖い、怖い、怖い
動悸が激しくなってくる。
気をしっかり保つ余裕がないほど自分が今置かれた状況が怖くて仕方ない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
いつしか視界は歪み、立っていられなくなり、その場にしゃがみ込む。
そこからどれだけ時間が経ったかはわからない。
一時間くらいずっとしゃがみ込んでた気もすればしゃがんでいたのはほんの数秒だったような気もする。
しかしそんな状態だった夏緒は謎の一声によって我に帰る。
『お!起きましたね!おはようございまーす!』
と、どこからともなく声が聞こえた。まるで全方向から同じ言葉を同じ大きさで言われているような気がするほどぼんやりとした声だった。
夏緒は咄嗟に立ち上がり、声を上げる。
「誰だっ!」
夏緒の体はまだ倦怠感はあるものの立てるくらいには少し落ち着いていた。
夏緒が声の出どころを見つけようと周りを見渡していると、またもやどこからもとなく声が聞こえる。
『はいはーい』
その声に呼応するように足元から煌びやかな光が溢れ出し、夏緒の目の前に集まっていく。
そしてその集まった光は手となり足となり人型を形成していく。
「なっ?」
俺はその光景を前にただただ驚くことしかできず、その場に立ち尽くした。
そしてその光によって作られた人型の何かは一度その場で強く光を放つ。
「うわっ!」
眩しさを遮るため閉じた目を再び開くとそこには
【神】
という一言以外では表せられないような翼の生えた女性が佇んでいた。
「やっと起きましたね。樋口夏緒君」
目の前に現れた女性は夏緒と目が合うとあいさつのようにそう語りかけてくる。
夏緒はハッとしたように、咄嗟に気になっていたことを尋ねる。
「何で俺の名前を知っている?それにお前は誰だよ!」
「それはどちらも同じ答えです。私は神様です。正確には時の神ですが。私は神様で、神様だからあなたの名前を知っている」
【神】死ぬ前は大して信じていなかったが、こうして前に来てそう言われると不思議とそうなんだと頭が納得してしまう。
「じゃあここはどこだよ!俺は死んだんだろ?ここから俺は何をすればいい?」
「うーん。気になることは山積みですねぇ。じゃあ順番に答えていきましょうか。
ここは神々の住まう天界です。本当は人間じゃ入れない徳の高い場所なんですよ?」
「そうなのか…」
やはり現世ではないことがわかり、自分は死んだのだと改めて確信する。
「そしてまず!あなたは一つ勘違いをしています」
「勘違い?」
「あなたは死んだわけではありません。そこは間違えないでください」
「なっ⁉︎死んでないのか?」
「はいっ!現実のあなたの体はまだ病院のあなたの姉上の病室の前で寝ているだけです」
「そっそうなのか………
よかったぁ…」
夏緒はもう一度ものすごい脱力感を覚え、地面に座り込む。しかしさっきのとは違い、悪い気分ではなかった。
「大丈夫ですかぁ?いきなり座り込んで」
「だっ大丈夫だ!」
そう言って夏緒はすぐ立ち上がる。そこで一つの疑問にたどり着く。
「それなのに何で俺はこんなところにいるんだ?」
「それはあなたからはこれ以上生きていても死ぬ未来しか見えなかったからです」
「…」
夏緒はこの回答を聞いて意外にも落ち着いていた。驚きよりも先に腑に落ちた感じがした。
少し落ち着いたので夏緒はずっと気になっていた最も大切なことを聞く。
「雪姉は?姉は無事なのか?」
「あなたの姉上である樋口雪さんは残念ながらあなたが意識を失ってすぐ息を引き取りました」
「っ!」
(これもわかっていたことなのに…)
夏緒は改めて雪姉の死を前にして後悔や申し訳なさでどうにかなってしまいそうになる。
そこに神から一声かけられる。
「あなた、姉を助けたいですか?」
「でっ、できるのか⁉︎」
「はい」
「頼む!俺は何でもするし、どうなってもいい!
姉を!雪姉を生き返らせてくれ!」
神は一瞬にやっと笑ったかと思うと、腕を大きく広げて叫ぶ。
「そういうと思っていました!
樋口夏緒君!君はこれから君の世界で言うところのデスゲームに異世界に転生して参加していただきたいのです!」
「………は?」
少しの静寂を置いてつい口から漏れた夏緒の間抜けな声が響く。
「どうかしましたか?」
神は少し不思議そうに俺の方を見つめる。
「い、いや!おかしいだろ!
異世界に行けとかなら俺も覚悟してたけど、普通神が異世界に人間を送る時ってその世界で暴れる魔王を倒して欲しいとかそう言う理由じゃないのか⁉︎デスゲームってどう言うことだよ!」
「うーん。それに応えるためにはあなたが今置かれた状況を詳しく説明する必要がありそうですね」
「話てくれ!」
「はいはい。わかりましたよ。
今あなたの魂は我々、つまり神様のものなんです」
「? みんなそうじゃないのか?」
「いいえ、普通の人は死んだら魂だけとなり、神々のところではなく、閻魔のところに行き、天国か地獄かに分けられる。そして然るべきことをしてから記憶を消してまた現世で新しい生命を持って生まれ変わる。
だから本当は今私たちがいる天界に来ることはまずないんです」
「じゃあ何で?」
夏緒はつい口から疑問が漏れるが神は気にせず続ける。
「しかし、あなたがたは特別です。あなたがたの魂は私たち神々が閻魔から買ったものです。
すべては死ぬ未来しか見えなかったあなたがたの魂を買取り、死ぬ前にこちらに呼び寄せ、異世界に飛ばし、デスゲームをさせるために。
おわかりいただけましたか?」
「意味わからないことだらけだっ!買収?俺の魂を?それに閻魔って…」
淡々と神は話していたが、夏緒の頭は理解不能なことばかり出てきて混乱状態だった。
「一気に色々聴かないでくださいちゃんと何を知りたいのかしっかり口にしてくれないと」
神はまたも淡々としている。
「聞きたいことなら山ほどあるが、一番気になってることから聞くとしよう。
さっきお前は『あなたがた』と言ったな。それにデスゲームとも言った。つまりこうやって神に連れてこられてデスゲームをさせられそうになっているのは俺だけじゃなくてもっと他にいるのか?」
「はい。そうですよ。あなたを含めて百名が今同じように他の神から同じように説明を受けてるはずです」
「そうか」
正直、色々驚きたいことは山々なのだが、今はそれよりも一刻も早く自分の置かれた状況を理解しなければならない。
「もう一つ聞く。さっきデスゲームをすると言ったな。もし俺がそのゲームの参加を断ったらどうする?」
「あなたさっき姉を助ける溜めなら何でもするって言ったじゃないですか?」
「もしもの話だ。もし今その言葉を取り消して参加を拒んだら?俺たちに拒否権はあるのか?」
「うーん…言いたいことはわかったんですけどなんか遠回りですね。はっきり聞きたいことを聞いたらどうですか?」
神は怖いほどニコニコとしたままそう返す。
「はぁ…わかったよ。はっきり言う。俺たちは今どんな立場にあるんだ?」
「そうですね。はっきり申し上げると豚か豚以下、ですかね。
さらに申し上げると今こうして話しているだけで私、今にも身が穢されているような気がしているのです」
そう言った神の顔はこれまでのニコニコな笑顔ではなく、笑ってるとも怒っているとも言えない真顔だった。
「!」
さっきまでとは打って変わった言葉や態度に夏緒は自分の中での神の認識を改め直す。
(こいつは危険だ)
そんな考えで夏緒の頭の中は埋め尽くされる。