女にモテる私の唯一の友達が私の事好きみたいで泣きそうです
私は同性に告白されることが多い。
私のどこを気に入ってくれているのかわからなかったし、同性を恋愛対象とは見れなかったからすべてお断りしてきたこの数年間。
振ることに慣れてきた私だが唯一慣れないことがある。
それは―――
「まぁた、コクられたんだって?圭の全学年の女子生徒から告白されるっていう夢もそろそろ叶いそうだね」
「そんな夢持った覚えは一度もない!メグが勝手に言い出したことでしょーが!」
頭を狙って手を振りかざすもあっさり避けられる。
「おっと、危ないなぁ。何も叩こうとすることないのに」
「あんたが変なこというからでしょ!」
「あれ、そうだったけ?これは失敬。歳を取ると記憶が曖昧になっちゃうんだよね~」
「嘘つけ。同い年のくせに何言ってるのよ」
まったく……。
悪びれもしない笑顔を浮かべて私の前の席に座っているこいつは内藤恵。
小学校の頃はその名字を由来にナットーちゃんと呼ばれていた。
メグはそのあだ名をえらく気に入っていたらしい。
理由を聞けば納豆が好きだから、だそうだ。
頭が緩いと言うかなんというか。
よく言えば明るい。
悪く言えばバカ。
私とメグは小学校から今までずっと一緒。
なぜかクラスもずっと一緒だった。
腐れ縁の幼なじみというやつだ。
「高校上がってコクってくる人急に増えたよねー」
「女子にモテても嬉しくない!」
「こらこら、そんな大きな声で禁断の恋を否定しちゃ、圭のこと好きな女の子達が可哀想でしょ。実際嬉しくないの?可愛い子にコクられて揺らいだことくらいあるんじゃない?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるメグ。
私は呆れてため息をひとつ。
「そんな体験一度もないし」
「えー、うっそだぁ。かわいい女の子が顔赤くしてコクってくるんだよ?そんなのぐらんぐらんに揺らいじゃうでしょ」
「メグと一緒にしないでよ。私は女の子大好きなメグとは違うの」
「チッチッチ。私はかわいい女の子が好きなの。女の子はまず顔が良くなくちゃそそらないでしょ?」
「サイテー……!!」
「顔は大事だよ。その中でも自分を磨こうとしてる女の子は格別にいい。今の圭とかね」
「……はいはい」
ふふっとメグは頬づえをしながら目を細めて私を見つめて、薄く微笑んでくる。
これだ。
メグのこの顔が何度見ても慣れない。
いつからメグは私をこんな表情で見てきていたのか。
それはわからない。
気づいたのは数か月前だった。
好意を向けられることが多かったせいか自分に好意を抱いている人が普通の人より見分けられるようになった。
だから私のことをそういう目で見てくる女の子とはなるべく関わらないようにしている。
けどまさか。
(メグが私のこと好きだなんて思うわけないじゃん……!!!)
憶測でしかないけどたぶんメグは私のことが好きだと思う。
理由はなんとなくってだけだけど、私の勘はよく当たる。
だから困っている。
もし本当にメグが私のことを好きだとして、現状を維持して良いものだろうか。
離れるべきなのか、知らないふりをしていつもと変わらずにいればいいのか。
悩んでいる。
メグのことは嫌いじゃない。
小さい頃から知っているメグといるのは楽だし、落ち着く。
悪ふざけがすぎる所もあるけど基本的には良いやつでこのまま友達でいてほしいと思ってる。
でもメグがもし私に告白なんてしてしまったら友達のままではいられなくなる。
それは絶対に阻止したい。
「好きだなぁ」
「えっ」
「ほら、隣のクラスの沙藤さん。私あーゆう綺麗系も好きなんだよね」
「な、なんだ……」
そんなことか……。
「沙藤さんって笑ったらすっごい可愛くなるんだよ。綺麗系から可愛い系にチェンジすんの」
「ふーん」
「あんな子が恋人だったら毎日幸せだろうなぁ」
うっとりした顔で私に言われても困るんだけど。
こういうところがあるからメグが私のことを好きだなんて思えないんだよね……。
「そんなに沙藤さんのことが好きなら告白でもしてきたら?」
「むり。私は眺めてるだけで十分なんで」
「ヘタレなだけでしょ」
「違いまーす。私、沙藤さんの顔は好きだけど沙藤さん自身を好きな訳じゃないもん」
「メグってそういうとこ真面目だよね」
「でしょ~。私がコクる人は私が心から好きになった人だけだからね」
「ふーん」
私が知っているなかでメグが誰かに告白したことなんてなかった。
私はされることが多いけどメグと一緒で告白したことは一度もない。
人から好意を向けられることがうっとうしく感じていたから自分から誰かを好きになることは今までなかった。
好きってなんだろう。
恋ってなんだろう。
なんで皆私のことをそんな目で見るの。
なんで喧嘩するの。
私はそんなこと望んでない。
私はただ―――
「ねぇ、もうすぐクリスマスでしょ?どっか遊びにいかない?」
「女二人でクリスマス過ごすの?」
「クリぼっちで過ごすよりましでしょ。それとも一緒に過ごすような相手いるの?いつのまに彼女作ったの?」
「いないから!彼女なんて一生作るつもりないから!」
「えー、わかんないよぉ。いつか圭を虜にする女の子が現れるかもしれないじゃん」
「はぁ……なんで女子と付き合うことが前提なの」
「男と付き合ってる圭が想像できないから!」
堂々としすぎだ。
笑い事じゃないんだぞ。
でも、まぁ。
「で、どうする?」
こいつの悪ふざけは今に始まったことじゃない。
「……いく」
「よしっ。決まりだね!」
嬉しそうに笑うのはクリぼっちで過ごさなくていいから?
それとも私とクリスマスを過ごせるから?
―――そんなの、今はどうでもいい。
私が何もしなければこの関係は変わらない。
変わらないようにする。
絶対に。
◇
〈メグ〉
気付かれている。
圭は私の気持ちに気づいている。
上手く隠せていたと思ってたけど違っていたみたい。
いつかぼろがでるとは思っていたけどこんなに早くバレるなんて。
いや、頑張ったほうかな。
数年間隠してきたんだから。
圭と初め会ったのは小学一年生のとき。
顔を知っている程度で友達と言うわけではなかった。
タイプが違っていたから仲良くなることはないと思っていた。
圭はものすごく綺麗な子だった。
なにもしなくてもその場にいるだけで存在感があって視線を独り占めしてしまう。
本人は嫌がっているけど私は羨ましかった。
人に認めてもらえる圭が羨ましかったし憧れてた。
だってあの顔だよ?
憧れちゃうのは仕方ないと思う。
あーあ、私も圭みたいな顔に生まれたかったなぁ。
ってこれいったら睨まれちゃうんだけど。
圭と友達と呼べるような関係になったのは小学三年のときだ。
理由はわからないけど圭が帰り道で何人かといい争いをしててそれを止めに入ったんだ。
私が止めに入ったことで場がしらけたのか圭といい争ってた子達はどこかへ行ってしまったけど圭はその場から動かなかった。
放心状態でうつむいて顔は見えなかったけど肩を震わせていたから泣いてるんじゃないかって思って慌てた私はどうしたらいいのかわからなくてとりあえず抱き締めた。
女の子を抱き締めて慰めるなんて初めての経験だった。
妹でもいれば違っていたかもしれないけど、あいにく私に兄妹はいない。
それからしばらくして圭は私にお礼をいって帰っていった。
このことがきっかけで圭と仲良くなれたんだ。
もしこれがなかったら私は今でも圭を憧れの存在とでしか見えていなかったと思う。
だから結果オーライなんだけど。
(圭のこと好きになるとかあの頃は思いもしなかった)
初恋?
バカらしい。
そんな浮わついた感情でこの関係を壊したくなかった。
好きと自覚しても告白しなかったのは単にそれだけの理由じゃない。
こわかった。
自分のせいで圭を傷つけてしまうのが。
でも圭が気づいちゃったから。
私の気持ちに。
気づかれちゃったら告白するしかないでしょ。
圭が私から距離をおこうとする前に私の口から伝えるの。
伝えてこっぴどくフラれる。
圭が私をそういう目で見ているとは思えない。
だから告白したところでフラれることは間違いない。
それでも伝える。
伝えないで終わるより伝えて終わる方がずっといい。
いいに決まってる。
◇
<圭>
クリスマス。
それは一年のなかで特別な日。
恋人たちが愛を確かめあうそんな1日。
というのは嘘でリア充爆発しろっていう非リアな私たちの嘆きの1日。
少なくとも私はそう感じている。
「今年もメグと一緒にケーキを貪るのかぁ……」
「一人じゃないだけありがたく思ってほしいね、そこは」
「……どうせクリスマスを一緒に過ごすならチョコと過ごしたかったなぁ」
「おいこら。チョコって小学校の頃に死んだ私の愛犬の名前なんだけど。まさか圭のなかで私の価値って低い?」
「かわいかったなぁ、チョコ……」
「毎度のことながら私の話はことごとくスルーするね……!」
頬を引きつらせるメグ。
私はそんなの知らんって顔でチョコに思いをはせた。
あのつぶらな瞳にチョコレートのように茶色い毛。
私も一度でいいから犬を飼ってみたいなぁ。
「ま、いいや。そんで? 圭はどこにいきたい?」
「んー、服買いにいきたいかな。クリスマスだしセールやってると思うから」
「オッケー。じゃあ、その後カラオケにでも行く?」
「おー、いいね」
「決まりだね。じゃ、行こっか」
「おー」
………………
「ちょっと買いすぎじゃない?」
「いいのいいの。せっかくのクリスマスなんだしはね伸ばさないでどうするの?」
メグは楽しげに笑顔を浮かべてそう言った。
圭は呆れたが何も言わなかった。
自分も結構な量を買ってしまったからである。
クリスマスとは恐ろしいものだ。
気分が高揚して普段買わない、必要のないものまで買ってしまう。
「ねぇ、圭」
家への帰り道。
メグが緊張した面持ちで私を呼ぶ。
今日はいつも通りだった。
笑いまくった。
だからこの先に続く言葉を私は予想できなかった。
「私、圭が好き」
◇
<メグ>
周りに人はいない。
絶好のチャンス。
そう思って告白したはいいけどやっぱりやめておけば良かったって内心びくついている。
圭の告白の返事なんて分かりきっている。
それでも、と自分を奮い立たせる。
返事がいいものじゃなくても良いから。
はやく振って。
終わらせて。
私の初恋を。
「……なんで………………?」
「っ」
圭の声は震えていた。
俯いていた顔をあげ、圭を見る。
圭の頬には涙が流れていた。
その涙を見たらズキズキと胸の辺りに痛みが走った。
こうなることはなんとなく分かっていた。
圭が私の気持ちに気づいても何も言わずそばに居たのは私を失いたくなかったからなんだろう。
友達の私を。
なのに私は勝手に好きになって勝手に友達として見えなくなって。
ほんと、最低だ。
「ごめん」
「……謝るくらいなら最初から告白しないで」
「……ごめん」
「……嫌だよ。メグと友達やめるの。恋人にだってなりたくない」
はっきりとした拒絶の言葉に胸の痛みが強くなる。
これは代償だ。
圭への気持ちを隠し続けてそばにい続けた代償なんだ。
ほかの女の子達のようにすぐ告白して振られればよかったところを欲が出て、まだ圭の隣にいたいと思ったせいで。
圭をこんなにも傷つけてしまった。
『ねぇ、メグ。メグは私の事好きにならないよね?』
『ならないよ。私は圭と友達になれただけで嬉しいもん』
『じゃあ、約束だよ。絶対に私を好きにならないで。絶対の絶対に』
これはずっと前に交した約束。
自分が今より無知だった頃の約束。
この約束のせいで私は気持ちに蓋をするようになった。
圭が傷つかないよう頑張って好きじゃなくなろうとした。
でも、結局私は―――
「圭が好きなんだ」
「………………」
「なんとかしようとしたよ。私も圭とは友達でいたかったから。だけど結局行き着くところは変わらなかった」
圭が好き。
「今だってそう。突き放されても圭のこと好きなまま」
大好きだ。
「気づかれないようにしてたつもりなのに圭気づいちゃうんだもん」
一番大事な女の子。
告白せずにいたらそばにい続けることが出来たかもしれない。
でもそれは結局いつか終わる。
進路が違っていれば必然的に会う回数だって減る。
ずっとそばにい続けることなんてできない。
「…………ほんとごめんね。我慢できなくて」
◇
<圭>
メグは今にも泣きだしそうな顔をして必死に笑顔を作っていた。
すごく傷つけているのが分かる。
これ以上メグを傷つけたくない。
でも、言葉は止まってくれない。
「………そうだよ。なんで我慢できないの……?約束したのに……なんで好きになっちゃうの? 私は……私はメグと友達でいたかったのに!ずっと!友達でいたかったのに!」
恋愛なんてクソくらいだ。
他人に勝手な好意を抱かれて告白されて断ったら泣かれて。
話したことも無い人を好きになることなんてできるわけない。
それに、私にとってメグが一番優先するべき人だったから。
それ以外の人間なんて二の次だった。
初めてできた純粋な友達関係。
周りのみんなが私を変な目で見るなかメグだけは私を普通の人のように扱ってくれた。
真っ直ぐ私の目を見て笑って話しかけてきてくれた。
だからこの子なら―――メグなら私と一生友達でいてくれるんじゃないかって思ってたのに。
「……これでもさ、結構我慢したほうなんだよ」
メグがポツリと言う。
「きっと友達やめた方がいいんだと思う。このままじゃ私たちダメになると思うから」
息を飲む。
続きを聞きたくない。
聞いてはいけない。
聞いたら終わってしまう。
何もかも。
「だから―――」
やめて。
その先を口にしないで。
私にはメグしかいないのにっ。
心が悲鳴をあげている。
メグの一動作に怯えている。
「―――だけど私は圭と友達でいたい」
「え……」
「この告白もさ、そのためのものなの。キッパリ振られて私にはチャンスなんて無いんだって思うためにしたの。
圭を諦めるための第一段階みたいな感じ」
「……ほんと?」
「うん。すぐには無理かもしれないけどちゃんと友達として圭を見れるようにする。約束する」
「……信用出来ない。メグは約束破るじゃん」
「じゃあ、信用しなくていいから私を友達として圭の隣りにいさせて」
願ってもない事だった。
私だってメグと友達でいたい。
それをメグ本人から求められている。
私のことを友達として見れていないメグが。
「……メグはそれでいいの?」
「もちろん。圭が許してくれるなら今まで通りでいたい」
その言葉に嘘はなかった。
「………いいよ。そばにいても」
「ほんと!? よっしゃ! じゃあ、この話はおしまい!家帰ってケーキでも食べよ〜」
メグは急にいつもの感じに戻った。
切り替えの速さに私は気後れする。
「やっと前に進めるよ」
ニカッと笑ったメグの表情には悲しみや私に拒まれたことへの恨みは感じられなかった。
いつも通りに見えるメグ。
だけど私はいつも通りではいられなかった。
隣に立たず少し後ろを歩く。
メグに近づくのがほんの少しだけ怖くて、でも離れることも出来なかった。
短編書く時間あるなら連載中のもの書けって……
自分でもそう思ってしまうけどかきたいものが急にできちゃうんだから仕方ない。
連載中のものを完結させてる作者さんスゴすぎる。
めっちゃ尊敬!