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第四話 皆の申し出

「よりにもよってあんなのが来るなんて。うちもつくづくついてないわ」


 ファルト男爵が立ち去った後。

 お姉さまはグーッと背伸びをしながら、困ったようにつぶやいた。

 まったくその通りだ、あんなのが来るぐらいなら無法地帯にでもなった方がマシである。

 税を搾り取るだけ搾り取って、領地の管理なんてろくにしないだろうし。


「あとに残す民のことも不安だが、とりあえずは男爵の接待だな。

 料理はどうにかするとして、娘はどうする?」

「そうね、あの様子だと誰か用意しない限りは紙切れ一枚持ち出させないつもりよ」

「だがなぁ……」


 腕組みをして、渋い顔をするお父様。

 領主の権限があれば、娘を何人か手配することはできる。

 だけど、あんな強欲親父のために大切な領民を差し出すのなんてごめんだ。

 領民が大事というのもあるけれど、それ以上に私たちのプライドが傷つく。

 あんなエロ親父に、素直に従ってたまるもんですか!!


「……私にいい案があるわ」

「ほう?」

「お父様のペンと判子を借りていいかしら? 」

「構わん、少し待ってなさい」


 お父様は執務机から筆記具とハンコを取り出すと、すぐに私に手渡してくれた。

 私はさらさらっと一筆したためると、ポンッと判子をついてメイドに手渡す。

 とりあえずは、これで大丈夫だろう。


「これで明日には、街から人が来るはずだわ。

 今日は我慢してもらうとして、明日からはファルト男爵の望み通りの宴を開けるはずよ」

「そのような手配をして、金は大丈夫なのか? うちにはあまり余裕はないぞ」

「それに、あいつの言うとおりにするって言うのもねえ」

「心配しなくていいわ、ファルト男爵にはちゃんと痛い目見てもらうつもりだから」


 私がそう言うと、お姉さまがニヤニヤっとからかうような笑みを浮かべた。

 彼女は私にすり寄ると、ウリウリと胸元に肘を当ててくる。


「さすがリーファ、相変わらず悪知恵が働くみたいねえ」

「相変わらずって、私、そんなに意地悪じゃないわよ?」

「そうかしら? 王立学院じゃ、問題児として結構有名だったはずだけど」


 もう、昔のことを引っ張り出してからに……!

 昔と言っても、まだ卒業から一年も経っていないのだけどさ。

 ……まあ、これについては学院側が悪い。

 貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんを育成する前提だからか、規則が無駄に厳しいのよね。

 挨拶は「ごきげんよう」限定だとか、恥ずかしいだけで一体何の必要があるのだか。


「ま、気を取り直しましょ。あんなやつのこと、考えるだけ時間の無駄よ」

「そうだな。では、私は挨拶回りに出かけてくる」

「行ってらっしゃい、お父様」

「じゃー、私は最後の仕上げをしますか」

「お姉さま、まだ懲りてなかったの……?」


 昨日あれだけ失敗したのに、今日もまた実験するなんて……。

 やる気満々な姉さんに私が呆れていると、セバンがいささか申し訳なさそうに話しかけてくる。


「旦那様、お嬢様。少しお時間をよろしいでしょうか?」

「ああ、そういえば話の途中だったわね」


 互いに目配せをすると、セバンの方へと向き直る私たち三人。

 セバンはコホンと咳ばらいをすると、ゆっくりと話し始める。


「この度の事件を受けて、使用人一同で身の振り方を考えたのです。それで……」

「退職金でも欲しいのか? なら遠慮せずに言いなさい、できるだけ支払おう」

「いえいえ、滅相もない! 我々はただ、ご一家に同行したいと思いまして」

「それってつまり……フィールズ大樹海の開拓地まで、一緒に行くってこと?」


 私の問いかけに、セバンは深々と頷いた。

 彼はそのままひざを折って床に手をつく。

 そして――。


「どうか、私たちを連れて行ってください。我々はこのアランドロ男爵家に恩ある身、どうか何卒!」

「そう言われても……私たち貴族じゃなくなるのよ」

「そうだ。そなたたちへの給金を出すこともできなくなるのだぞ」


 お父様がそう告げると、今度は脇に控えていたメイドたちが前に出てきた。

 そしてセバンと一緒になって頭を下げる。


「構いません! お仕事ではなく、私たち自身の意志でついていきたいのです!」

「何だってそんなについて来たいの? あなたたちなら、他に就職先あるだろうに」

「それは、男爵家に恩返しがしたいからですよ!」


 なるほど、そういうことか。

 うちで雇っている使用人のほとんどが、戦災孤児など訳アリの人物である。

 お父様が戦場で行き場をなくしていた者たちを、屋敷に連れ帰ってきたのが始まりだ。

 うちとしては熱心に働く彼らに対して、むしろ申し訳なく思っていたのだけども……。

 みんなはまだ恩義を感じてくれていたらしい。


「そういうことなら連れて行きたいけれど、ううーーん……」

「長旅だし、その先に待っているのも開拓生活だからねえ。ちょーっと厳しいんじゃないかなぁ」

「ううむ、せっかく行きたいと言ってくれているのだ。リーファ、何か妙案はないか?」

「そうねえ……」


 お父様に促され、思案を始める私。

 だがここで、またしても部屋にメイドが駆け込んでくる。


「た、大変です!」

「今度は何? また誰か来たの?」

「は、はい! 外をご覧ください!」


 メイドに促されるまま、窓から外を見下ろした私たち。

 すると門の前に何やら人だかりができていたのだった――。


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