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彼らと同じ

作者: 十八谷 瑠南

朝、瞼を開けるだけでも。

顔を洗うだけでも。

服を着るだけでも。

歩き出すだけでも。

そのドアを押し開けるだけでも。


この先に待ち受ける数々の試練にいつも私は怖気づく。

困惑し、恐ろしい想像をして逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて・・・・・・

そしてそのうち立ちすくんで動けなくなる。


そんな時、私はその場に座り込んで寝そべってそしてだらだらとそばにある娯楽に手を伸ばす。

ほんの少しの時間の中でひとり、時には数人の人生を垣間見ることできる映画。

ページをめくればめくるほど想像もつかない世界へと誘ってくれる漫画。

身近な世界をリアルに描き日常の中に非日常を感じさせてくれるドラマ。


小さな私の逃げ場。

そんな私の逃げ場の中で輝く主人公たちは彼らを悠々と眺める私と違っていつも無謀でひどく絶望的な試練に立ち向かう。

不思議なものだ。

こんなにも自分は逃げているのに試練に立ち向かう主人公たちを私は自分から欲する。

逃げているからこそ彼らをみて答えを知りたいのだろう。

彼らを知れば知るほどその答えは大きく私の耳に響く。


自分の人生を取り戻すために刑務所でひたすら穴を掘り続けた時も。

お金では買えない”何か”があると気が付く時も。

残酷で無慈悲な敵に立ち向かうために山の中で苦しい修行をする時も。

ただひたすら同じシュートを2万本決める時も。

悪魔のような女上司にどんな無理難題を突きつけられようと。

天文台を建てるために遥か遠くの月をめざす時も。

見知らぬ人の死の謎を究明する時も。

自分よりも何倍も強い相手に立ち向かうために2年間仲間と離れ離れになる時も。

過去から未来へ戻るために時速140キロで走りぬけるその時も。

どんなに馬鹿にされても河川敷でサックスを吹き続けた時も。

平凡な人生から一歩踏み出すためにヘリコプターに飛び乗った時も。


彼らは、

朝、瞼を開けて。

顔を洗って。

服を着て。

歩き出して。

ドアを押し開けて。

自分ができることをしてきただけだ。

自分ができる最大限の力で。

そうやって彼らの物語は進んでいく。

彼らの物語を見終わったとき、いつも私は問い掛ける。


それで、私は?


エンドロールが流れ終わると私は歩き出す。

ページをすべてめくり終えると、私は立ち上がる。

テレビの電源を消すと、私は大きく伸びをする。


憧れの主人公たちと同じように。


そうやって私の物語も進んでいく。

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