表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼の空念仏  作者: 月虎
39/41

萌芽1

「俺たちは、君のことを警戒している」

 先程まで話していた男ではない声が聞こえた。凛とした声。嘘偽りのない言葉。顔は見えないが、俺のことを真っすぐ見てくれているのが分かる。

「君が何を思って、俺たちに声をかけてくれたかは分からない。だが、協力し合うにはお互い信頼が必要だ。そうは思わない?」

「本当にそうか?信頼という言葉ほど、信じられないものはない。曖昧過ぎるんだ。大体、それで満足するのか。それなら、随分と無欲だな」

 再び、男が剣に触れるのが分かった。それを、今まで話していた男が手で制する。

警戒されていても、俺にとってはどうでも良かった。ただ、俺に救わせて欲しかった。誰でも良い。誰かを救うことで、俺自身も救われようとしていた。罪悪感が俺を蝕んでいく。それから、逃げるように、俺は偽善の仮面を被る。

「なるほど。君の考えは面白いね。だけど、俺たちを助けてくれるというなら、こちらは君に全てを曝け出さなければいけない。俺たちが抱える全てを話さなければいけない。その覚悟がある?」

「覚悟。そんなのとっくにしている。していなかったら、俺は生きていない。この世界で生きるということもまた、覚悟だろう。そして、これは俺が生きていく上で、重要なことだ」

 男が笑うのが分かった。

 見栄を張って言った言葉に、心が痛む。本当は覚悟など、していなかった。今でも、自分を憎んでいる。俺をここから解放して欲しい。解放してくれる誰かを追い求めている。だが、チヨダが、ホウショウが、シナノが俺を睨みつける。お前は一生、この呪縛からは逃げられないのだと。まるで、崖から落とされたようだ。どんどん離れていく三人の背を追いかけたとしても、決して手が届くことはない。虚しさが掌に残る。霧がかかって見えないこの感情に、意味はあるのだろうか。

「分かった。全てを君に話そうと思う。その上で、君が俺たちと協力関係を結んでくれると言うなら、こんなに有難いことはない」

 その言葉に、他の二人が立ち上がる。

「で……チュウヨウ!」

 荒げる男の声が部屋に響き渡った。戸惑いの色が見て取れる。

「許可出来ません」

 続いて、冷静な女性の声がした。初めて聞くその声は鈴のように、心地よい響きを持っていた。二人とも、本当に心配しているようだ。三人の関係性は分からないが、見ていて、微笑ましい。ホウショウとシナノとも旅を続けていたら、こういう風になれたのだろうか。

 俺は世界を知りたかった。この世界に俺を繋げる何かを見つけたかった。今まで、様々な国や町を巡った。伝統的な町並み、美しい景観、愛らしい姉妹の笑顔、子を守ろうとする親の強さ。だが、俺が求めたものではなかった。それ相応のものを自分で持たなければ、旅の中で見つけることは叶わない。俺の掌には何もなかった。だからこそ、二人の存在は俺にとって希望だったのかもしれない。もう過ぎたことだ。一生懸命、忘れようと心がけてみるが、浮かんでくるのは二人の顔ばかり。俺は自分自身を嘲笑した。

 俺は初めから何も持っていない。それなのに、求めすぎた。俺の全ての罪が突き付けられているように感じた。

「まあまあ、良いじゃないか。俺たちは同志を探している。協力してもらえるなら、願ったり叶ったりだ」

 彼は他の二人を宥めるように、そう言った。

 シナノとホウショウのことで頭がいっぱいだった。その大らかな話し方に、俺はまじまじとフードの奥を見る。その人物に初めて目を向けた瞬間だった。やはり、顔は見えなかったが、どこか彼は不思議だ。正した姿勢に、堂々とした立ち振る舞い。他二人の彼への態度からは敬愛すら感じる。

 三人を見る。得体の知れない違和感がフードの奥に隠されている。そう考えずにはいられない。それ程、俺は今まで彼のような人間に出会ったことがなかった。目が惹きつけられる。計算も悪意も偽善もない。

 ただただ、彼は真っすぐだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ