番外編ー或る夕飯時のときー
沈黙が辺りを支配する。森の音、料理する音、三人の息遣い。正確には様々な音が聞こえる。だが、誰一人として声を出さない。気まずい空気が漂っていた。
「明日には、王都に着くかなー、なんて」
意を決して発した俺の声は、段々小さくなる。二人の顔を盗み見るが、二人とも何でもないように、ホウショウ特性の鹿汁を飲んでいた。
俺の杞憂だっただろうか。二人の会話は元々少ない方だった。二人とも、会話がなくても平気な人種だ。だが、先程のホウショウとシナノの言い合いらしきものを見てしまっている。普段通りに見せていても、内心は違う。今までの経験上、そういうことは多かった。他人に見せる部分だけがその人の全てではない。俺が物心ついた時からその事実には気づいていた。
俺には何が出来るのだろうか。考えるが、答えは見つからない。そもそも、この考えるという行為に意味などあるのだろうか。ホウショウとシナノは俺に助けを求めている訳ではない。今ここで、行動したとしても、独りよがりになってしまう。
ホウショウとシナノと俺。出会って間もない俺たちがそういう友情もどきみたいな行為をすることにも違和感を覚えていた。
「そんなことで悩むな。ほっとけ」
鬼は呆れたように、そう言った。
「言っとくが、その鬱陶しい呪文は俺にも聞こえているからな。そのせいで、俺は眠れない」
鬼がへそを曲げた。
頭が痛くなる。ホウショウとシナノのことも気になるが、それに加えて鬼のご機嫌取りまでしないといけないとは。
「聞こえているぞ」
流石の俺でも、今の二人に話しかけることは出来ない。いつもなら、二人が沈黙を貫いていたとしても、構わず、話しかける。そういう俺を保っている。だが、今は空気を読まなければいけない。本当に面倒臭い。それは人間に生まれた宿命であるのかもしれない。いつからだろう。人生に慢心し、それを普通だと受け止めてしまったのは。考えれば、考えるほど、虚しくなる。
俺が関わることではないのかもしれない。そう思うが、今の二人を見るのは嫌だ。一体どうすれば良いのか。俺は頭を抱えてしまう。
「ホウショウ、おかわり」
「ああ」
一瞬で空気が変わる。シナノの言葉をきっかけに、時が動き出した気がした。
「だから、ほっとけと言ったのだ」
やはり、杞憂だったらしい。今もホウショウとシナノは普通の顔をし、鹿汁を啜っている。色々、考えはしたが、この思考も無駄ではなかった。少なくとも、ホウショウとシナノと一緒に行動するうちは必要なことだ。
頭がすっきりして上機嫌の俺は知らなかった。ホウショウとシナノが俺に聞こえないような小さな声で会話をしていたことに。
「チトセが困ってる。泣かせたら、許さない」
「……」
「話合わせて」




