術2
「まず、どこまで把握しているか、教えて」
やはり、シナノは外見と中身が一致していないように感じる。
俺が気絶する前は子供らしかった。出会った時は多少警戒していたようだが、慣れたらそうでもない。子供らしいという表現はどこか違和感があるが、本当にその言葉の通りだった。無邪気で、無知。何か暗い感情を心に飼っているようだが、あれは確かに子供の笑みだ。俺が知っている子供という存在を体現しているようだった。
不思議に思いながらも、俺は口を開く。
「えっと、術は焔・泉・恵・凪・夜の五つが基本で、そこから派生していくんだよね。それから、修行して、自分だけの術が完成する」
俺は自信がなさそうに、シナノに時々目をやりながら、そう答えた。勿論、笑顔は忘れない。なんと思われようとも、この仮面を外すにはまだ時間が必要だ。
「そう、大体合っている。でも、少しだけ補足すると、ただ修行したからといって、術を手に入れることは出来ない」
「それって、どういう」
「術はこの世にたくさんある。人では数えられないほど膨大な量。だけど、同じものは一つもない。この意味が分かる?」
シナノが前のめりに質問してくる。一瞬、朝日がシナノの瞳に反射した。その表情に心臓が大きく動く。今のシナノの表情はどこかで見たような気がする。思い出せない。しかし、遥か昔、俺は確かにその顔を見ていた。
晴れない心に蓋をしながら、シナノの声に集中した。いや、集中しようとしていただけかもしれない。
「輪廻転生。生は繰り返される。それと同じようなもの。術も同じような円を描いている。死んだら、その術はまた新たな術師へ受け継がれる」
シナノは仮面をつける。そう考えれば、考えるほど固執してしまう。よく見れば、ホウショウも仮面をつけている。きっと俺もそうなのだろう。結局、皆同じ穴の狢なのだ。俺は安心しているのか、落胆しているのか。込み上げてくる笑いが止まらない。
ホウショウの目線が痛い。シナノも若干顔を強張らせている。
非常に気分が良かった。何か、得難いものを見つけてしまったような優越感が俺を襲う。俺は微笑みながら、シナノに話を促す。
「……だから、この世に全く同じ術は存在しない。術師も術を選ぶことは出来ない。術師が死に、空いた術を習得するか、自分から術を生成するしか方法はない。その結果、争いが起きる」
シナノの声は固かった。
争いはこの世からはなくならない。人間は平和に生きたいという良心と、もう全て壊してしまいたいという欲とを併せ持っている。それを否定するのならば、自覚がないだけだ。皆、心の中で葛藤する。それは術師の世界でも当たり前のことなのだろうと思う。
俺は遠くを見つめ、今まで見てきた悲惨な光景を思い出す。劈く叫び声。心を震わす断末魔。銃器の音に、剣がぶつかり合う音。耳を塞いでも、耳の奥から繰り返される生々しい音たち。これが現実なのだ。一体、この世界に何を期待していたのだろう。期待する価値すらなかった。俺が希望を抱いてはいけなかった。全ては自然の摂理。俺は向こう側の人間にはなれなかった。
「術が欲しい為に、術師がたくさん虐殺された。一昔前は、術師ということだけで一般人からは避けられ、たくさんの刺客から狙われていた。だけど、この国は何の対策も講じなかった。だから、術師はひっそりと息を顰めて生きていく。今では術師を志そうという人は一人もいない」
淡々と話すシナノの声に、恐怖すら覚える。
「詳しいな」
今まで沈黙を貫き通していたホウショウが口を開いた。どこか、その言葉には怒りを含んでいた。暗い空気が漂う。嵐の前のような静けさだ。




