番外編ー或る午後の日ー
チトセとホウショウがもう少し仲を深めた時の出来事です。
本編とは全く関係ないので、飛ばしても構いません。
穏やかな午後。太陽の光が身に沁みる。今日ぐらいはゆっくりしたいと思っていたが、目の前の光景を見て、そう言っていられなくなった。
数滴の汗が地面に落ちる。それから剣が風を切る音。男特有の野太い掛け声。
思わず、ため息が漏れてしまう。忙しくない時ぐらい身体を休めれば良いのにと思う。身体を酷使し続ければ、いずれ身体が悲鳴を上げてしまう。なぜ、それほど動きたがるのだろう。俺には理解しがたい。分かりたいとも思わないが、一応心配するという人の心はまだ持っている。様々な言葉を吞み込んで、俺は目の前で重たい剣を振るうホウショウに声をかけた。
「ねえ、疲れない?」
いつもの笑顔で聞くと、粗末な応えが返ってきた。
「全く」
手を止めることも、こちらを見ることもせず、たった一言。相変わらず、ホウショウは愛想が良くない。愛想が良かったら、ホウショウではなくなってしまうからこれはこれで良いような気もする。しかし、心配した俺が損をしたような形になったのは少し許しがたい。
「腹減った」
「さっき食べただろ」
意地になっているのかもしれない。どうしてもホウショウに休暇らしい休暇を過ごして欲しかった。
そこから鍛錬に集中したいホウショウとどうしてもホウショウを休ませたい俺との小さな戦いが勃発する。
「ホウショウが作ってくれない?」
「断る」
「そういえば、街に新しい店が出来たんだって」
「一人で行け」
「まだ何も言ってないよ」
「口を閉じててくれ」
「今日は身体を動かすのは良くないって近所のおばさんが言ってたよ」
「騙されているぞ」
「……ねぇ、一回。一回だけでいいから剣から手を離して欲しいなー、なんて」
俺の言葉を最後にホウショウは何も言わなくなってしまった。相変わらず、剣を振る腕は止まることを知らない。ここまで来ると、呆れの気持ちの方が勝ってしまう。もうホウショウをここに一人、置いていくことも考えていた。
「これは俺が自分の為にやっていることだ。鍛錬しない日が一日でもあると、違和感がある」
普段自分のことを中々話さないホウショウが重い口を開いた瞬間だった。元々、口数は少ない方だが、特に、自分についての内容も少ない。はじめてホウショウとの距離が近くなったと感じた。
不思議な気持ちが心の奥底からじわじわと湧き上がってくる。これは一体何だろうか。体中から微かな火照りを感じ、首を傾げながらも胸に手を置いてみる。胸の鼓動が耳の奥からはっきりと聞こえた。
「どうした」
前を見ると、剣の素振りを止め、相変わらずの仏頂面を見せるホウショウがいた。
何と言おうと、やはりホウショウの境遇は俺に似ている。この関係は傍から見たらとても可笑しなものだろう。でも、それで良くて、それが良い気がした。
こう思っている時点で、俺も大概ホウショウに心を許してしまっているのだと思う。




