死神さんはロマンチスト?
…はぁ。もしかしてこの仕事向いてないのかな。
新装開店にそんなに外で働いたことがない命は緊張の連続とやっと占いまでしたのに客に絶望を与えて帰したショックでひどく落ち込んでいた。
「ねぇ、すごく暗い顔で帰っちゃったけどどうしたの?」
心配そうな声で海が命に駆け寄ると神経を磨り減らした命も今にも消え入りそうな声で返した。
「あぁしーちゃん…。やっぱりこの仕事向いてないかも」
「どうして?まだ始めたばっかだし、それにちゃんと占いもできたじゃない!」
「占いできたけど逆に不安を煽ってお客さん帰っちゃったよ…」
「そ、それはまだ最初だからそうだし、これから頑張って数こなして経験すればめいちゃんもできるようになるよ!」
占いを実行されたカードを見てなんとか励まそうとすると、一枚伏せてあるカードに気づき…。
「…この離れたカード伏せてあるけどなに?」
「あぁ、これは三枚のカードに対して助言やアドバイスをするカードだけどさっきの人にそれを伝えようとしたときに帰っちゃったんだよ」
このカードを確認しないほどその女性は追い込まれていたの?
海は落ち込んで帰ったその女性を思いながらカードをみつめると。
「ねぇ、そのカード…見てもいいかな?」
海は伏せたカードが何なのか気になっていたのもあったが、これ以上命を励ます言葉が思いつかず話を切り替えようとした。
「あ、あぁ僕も気になっていたから見てみよう」
この三枚のカードにどんなアドバイスがあるのか僕も気になってたんだ。
海に言われボロボロになった神経を奮い起こすように体を起こし、助言のカードを表に反す…。
…シャッ。
固唾を飲みながら命によってそのカードは姿を見せる。
___四枚目、正位置『カップの2』
最後のカードが反され全てのカードが姿を現す。
「…カップの2?」
「カップの2ってどんな意味があるの?」
再び本を開いてそのカードの説明を探してから…。
「『カップの2』…恋のはじまり、ときめき、距離が縮まる。正位置だからこれから愛が始まったり距離が縮まるってことらしい」
「なんだかロマンチック!」
ロマンチック…確かに一枚だけなら響きはいいけどこのカードの展開からいってロマンチックで片づけるには無理があるよ。
先ほど占いをして三枚のカードの展開を知った命にとってその言葉には限界があると悟る。
「終わりを告げてるのに何がロマンチックだ!」
「め…めいちゃん?」
「このカードがでなければもしかしたら違った結果がでたはずなのに…このカードのせいで…」
今すぐ『死』のカードを破りたくなる気持ちに駆られながら睨む。
「だったらめいちゃんが助けてあげたら?」
「…ぁあ?「
怒声に近い低い声で突然の提案を持ちかけた海を睨む。
「どんな結果か知らないけど、そんなに悔しいならめいちゃんが助けてあげればいいじゃない」
「助けるってどうやって?名前も知らないあの人をどうやって助けるんだ?」
「名前は紅凛≪あかり≫ってらしいよ」
「___ッ!」
なんで知ってる!?
「なんで名前知ってるんだ?」
「静蘭ちゃんが紅凛さんっていってたよ。もし助けに行くなら静蘭ちゃんに聞いてみたらどう?」
「助けたいがここを離れるわけには…」
「占いの店主はめいちゃんだよ。めいちゃんの好きなようにすればいいよ」
「……」
「どうするの?」
「…そのあかりさんのこと詳しく教えて」
しばらく迷ったけど助けられることなら助けたい。
一途な気持ちを胸に命は紅凛を助けるため静蘭のもとに駆け寄った…。
___ガラガラッ!
引き戸の玄関を開けて帰宅をする。
靴を脱いでリビングやキッチンに向かわず迷わずある一室に向かい扉を開ける。
「…ただいま」
「おかえり紅凛」
布団に横になってる男は起き上がることなく首だけ動かして紅凛に挨拶するしかできなかった。
寝たきりになった夫の顔を見ながら僅かながらの希望を信じて占いをしたことを打ち明けた。
「どうやら私たち…ここまでみたい」
「紅凛は充分すぎるほど頑張った…だから」
布団から力ない腕が伸び紅凛の手に触れると…。
「だから最後は…」
「 殺 し て く れ 」
紅凛の手を掴むとその手を自分の首に手繰り寄せて懇願する。
お互い合意してたのか抵抗はしなかった。
もうこうするしかないの?
必死で我慢してた涙が紅凛の瞳から流れる。
「ごめんね、私がもっと強かったら___」
「いいんだ、紅凛は頑張った。せめてこの呪縛から解放してそれから…」
「それから…幸せになって」
流れる涙に呼応するかのように夫の首に手をかけた力が少しずつ入る。
___その時。
「やめるんだあかりさん!」
部屋の外からふたりの様子をみた命が慌てて紅凛の手を剥がすと夫はたまらず咳き込んだ。
「どうして占いの人が!それになんで私たちのことを?」
「殺して関係を終わりにするな!」
「もう私たち疲れたの!何も知らない人が私たちの問題に入ってこないで!」
「知ってる。旦那さんが末期のガンだってことも一生懸命看病してたことも」
「___ッ!」
「まだ知ってるぞ!経営してた花屋を売って医療費にあてがったことも!」
「……それも占いで知ったの?」
「店にあかりさんの知り合いがいたからその人から事情聞いただけだ」
「誰かは知らないが俺や紅凛は限界なんだ。それに俺と紅凛はお互い生命保険をかけてる。紅凛にはそのお金でまたやり直して欲しいだけだ」
「旦那さん悪いけど今の警察は優秀だからすぐにあかりさんを掴まる。仮に逃げ続けるあかりさんを想像できますか?」
冷静に考えたらわかりきったことなのにそれすらも気づかないほどふたりは疲弊していた。
ここまで勢いだけできたけど果たしてこれでよかったのか?
ふたりを助けたいのに何もできない自分が歯がゆいまま命はなんとか留めようと口を動かし続けた。
「僕も結婚してそんなに経ってないが幸せだ。もしこの状況になっても僕だったら奥さんにこんなことさせないしさせたくない」
「ここに駆けつけたのも初めて占ったあかりさんに幸せになってほしくて来ました。だから僕と約束してください!」
「あかりさんを幸せにしてあげてください!」
自分でも何を言っているのかわからなかった。
もうすぐ死ぬ人に大して幸せにしてあげてってなんだ?
「幸せにしてってバカにしてるの!私たちはもう___」
「…君、名前は?」
紅凛は怒って声を荒げると寝かせていた体を起こし男は命に問いかけた。
「式 命です」
「命さん…約束します」
「ちょ、ちょっと!」
「紅凛を幸せにします」
弱った体で命に腕を伸ばしながら
「田所 英治です」
英治と名乗った男の手を見て命も手を伸ばし握手をする。
絶望と死期を悟って紅凛に首を絞められてるときも笑顔だった。
命と握手するときも笑顔だったが、絶望ではなく希望へと気持ちは変わった。
「死を覚悟してたのに幸せにしろだなんてむちゃくちゃだけど、紅凛にプロポーズしたときのことを思い出したよ」
「…もう死のうとは思ってませんよね?」
「男に二言はない。約束した以上死んでも幸せにしてやるよ」
「…なによ、二人だけで熱くならないでちょうだい」
すっかり置いてけぼりにされた紅凛を見上げると壁にかかった時計がocean life のディナータイムの時間だということを思いだし、命は慌てて帰ろうとした。
「す、すいません夕方までに帰るよう言われてたからこれで失礼します!英治さん絶対に幸せにしてくださいよー!」
バタバタと走って帰る姿をふたりは見送るとさっきまでのお通夜状態の雰囲気はなくなった。
「…ねぇ、私を幸せにしてくれるの?」
「あぁ、絶対に幸せにする」
「…だったらもう少し面倒みてあげる。面倒かけた分ちゃんと返してよ」
部屋の中に夕陽が差し込み終わりを迎えようとしたふたりの生活はまた新しく始まった。
___翌日、開店準備をしながら海は静蘭に紅凛について尋ねる。
「それでその後あかりさんはどうなったの?」
「あれからまた元気になったって話ですよ。介護大変なのにどうしてあんなに生き生きしてるのかな?」
「めいちゃん何かしたの?」
「うん?…僕はなにも」
ふとカップの2のカードと約束を交わしたあの言葉を思いだし顔を赤く染めた。
「なんで顔赤くしてるの?」
「なんでもない」
「占い師ってポーカーフェイスって印象だったのに何か言いましたね?」
「い、言ってない!」
「旦那さんってロマンチストさん?」
「誰がロマンチストだ!」
命をからかいながら今日もocean lifeは開店を始めました___。
1人目 田所 紅凛さんの物語はこれで終わりになります。
このお話が面白かったら評価や感想をしていただけたらこれからの活動の糧になりますのでいっぱい評価をおねがいします!
次の話もお楽しみに☆