きこりと泉の女神
むかしむかし……。
あるところに正直者のきこりがおったとさ。
ある日、山の中に木を切りに行ったきこりは商売道具の斧を「春の泉」と呼ばれる泉の中に落としてしまった。
すると、泉の中から女神が現れ、男に金の斧と銀の斧、そして普通の斧を見せて聞いた。
「あなたの落した斧は、どの斧ですか?」
きこりは正直ものなので、ためらわずに自分が落とした斧を選んだ。
女神は喜んで、きこりに金の斧を与えた。
噂を聞いた恥知らずのほかのきこりが、正直者のまねをしたが、嘘をついたせいで、鉄の斧まで失ってしまった。
と、言うのが誰でも知っているきこりのおとぎ話。
しかし、このお話はその物語が終わったところから始まる。
さて、家に帰った正直者のきこりは黄金の斧を手に入れたのに、あまり嬉しそうではなかった。
さんざん悩んだ後に、彼は言った。
「俺は、正直に自分の斧を刺したのに金の斧をもらうのはおかしい。それに、この斧はきれいだが、鉄の斧の方がはるかに使いやすい。やはり、この斧は女神に返して来よう」
この言葉を聞いたきこりのおかみさんは、飛び上るほど驚いた。
「じょーだんじゃないわよっ! 金の斧と鉄の斧を取り換えるなんてそんなバカな話は聞いたことがないよ!」
このおかみさんは正直者の夫と違ってけちな上に意地悪な性格をしていた。
しかし、いつもは怖いおかみさんの言いなりになっていたきこりがなぜか、今日に限ってしぶとく意見を変えようとしなかった。
二人は一晩中言い争ったが、お天道様が東の空から上がってくると、目の下にくまを浮かべたおかみさんがとうとう折れた。
「ほんと、しょうがない愚図だねえ。もう、好きにしな。その代り、私をあの泉のそばまで連れて行っておくれ。せめて、そのきれいな斧にお別れを言いたいからね」
きこりは喜んで、おかみさんの言うとおりにした。
さて、「春の泉」に到着すると、きこりはおかみさんを背を向けたまま、泉に近づいた。
この時を待っていたおかみさんは、いきなりきこりの背中を蹴とばし、泉に突き落したっ!!
きこりが水面の下に沈むと、水面に波紋が走り、女神が姿を現した。
女神の両手には、ずぶぬれになったみすぼらしいきこりと、金銀で着飾ったハンサムな男性が抱かれていた。
「貴方が落としたのは、この普通の夫ですか? それとも、金―――」
「それっ! その薄汚くて、愚図で、馬鹿な亭主です!」
恥知らずのきこりと違って、予習をしっかりしていたおかみさんは、正直に答えた。
女神はにっこり笑って、
「貴女は正直な方ですね。では、この金―――」
「はいはいはあい、わかったよ。わかったよ。こいつはわたしのだよ! もう返さないからね!」
おかみさんは女神の言うことを最後まできかずに、金色に光り輝く美男子を引きずってあっというまに山を下って行った。
さて、おかみさんが姿を消してから、しばらくして。
女神ときこりはしばし耳を澄ますようなそぶりを見せたあと、
「やったわねっ!!」
「やったなっ! 君の言ったとおりになったよ」
いきなりお互いの体を抱きしめ、あつあつの口づけを交わした。
「嬉しいわ。これで私達、誰にはばかることなく、一緒になることができるわ」
「ああ、僕も嬉しいよ。でも……」
きこりは少し顔をしかめて恋人の美しい顔を見上げた。
「本当にこれでよかったのかい? 僕はあの美しい君の元恋人と違って、お金もないし、正直な以外、何のとりえもないんだよ?」
「あら? そんなことを気にしていたの? 私、金ならいくらでも持っているし、本当に正直な人は黄金よりも百倍も価値があるものなのよ。それにね……」
女神はおかみさんが立ち去った方向を見て、くすりと笑みをこぼした。
「もうすぐ、あの女にも自分が選んだ人が必ずしも正しくなかった事が解るわ」
さて、金銀に着飾った美男子を家に連れて帰ったおかみさんは、まもなく女神の言った通り、失望することになった。
彼女の新しい夫はまったく働こうとしない怠けものだった。
その上、バクチはするわ、うわきもするわ、最後にはおかみさんが隠していたへそくりを持って夜逃げしてしまうようなろくでなしだった。
心身ともにボロボロになったおかみさんは、最後になってようやく気がついた。
そう、彼女が連れて帰ったのは「金の夫」ではなく、
「金づかいの荒い夫」だったのだ!
あとがきのやうなもの
この作品は、かるめんが(以下略)
おろろろ(以下略)
まあ、良いっか(開き直り)
今回がだめなら、次のを応募すればいいし。
ほぼ100パーセント、電撃の読者企画には落ちてしまいましたが、
少しでも、この掲示板の読者の皆様に楽しんでいただければ幸いです。
なお、余談ですが、英語でスプリングとは春やバネ以外にも、泉という意味もあります。
泉から現れた女神だから、スプリングガールなんて、あは、あは、あはははは(汗)