青柳 葵
話があるというので家に入れリビングに案内する。青柳さんは家に入ると落ち着かないようでキョロキョロ俺の家を見ている。
「まぁ座って待ってて、紅茶淹れるから」
「は、はいありがとうございます」
キッチンに立ち紅茶を淹れながら青柳さんを横目で見る。なんか不思議な子だなさっきまで落ち着いてたのに家に入ってから挙動不審だ。紅茶を淹れテーブルの上に置き、俺も椅子に座りさっきから挙動不審な青柳さんに口を開く。
「話をする前に二つ質問ある」
「質問ですか、なんですか」
青柳さんは不思議そうに首を傾げながら俺を見る。
「一つ目はなんでさっきから落ち着かない感じなんだ、二つ目は俺の名前と住所を知ってるんだ」
「わ、私は異性の家に入るの初めてで緊張しているだけです」
異性の家に入るだけで緊張するって、部屋に入るならまだしも、なんか可愛いな。
「で、二つ目は」
「二つ目の質問の前に、私からも聞きたいことがあります」
青柳さんは俺の目を見てそう言った。
「俺に聞きたいこと?」
「はい、聞きたいことは、 私のこと覚えていますか…」
「え、俺が青柳さんを知ってる?初対面じゃないのか」
「いえ、初対面じゃないです」
えー?誰だ?こんな綺麗な女の子なんて俺はしないぞ。なかなか思い出せなくて頭を抱えている俺に呆れたって感じで青柳さんは溜息をつきながら口を開いた。
「はぁ、覚えてませんか?今年の三月の終わりの雨の日に出会ってますよ」
「雨の日ね」
うーん、雨の日に会っているのか。俺が不登校になってからあまり外出なんてしてないけどな、ましてや雨の日になんて外に出たくないけどね。でもなんか引っかかるな。あ、そうだ近くのコンビニに買い物があって外に出た。それで近所の公園で傘も差さないで泣いている女の子に傘を上げた。でも、その女の子は髪が長いし眼鏡を掛けて少し暗い印象だったから違うな。
まぁそれ以外心当たりない聞いて見るしかないか。
「もしかして傘を差さないで泣いて女の子?」
「はい、私です」
「えっ、あの女の子が青柳さんなの?だいぶイメチェンしたね。前は少し暗い感じだったのに」
「暗いは余計です。でもあの時は助かりました、ありがとうございます」
青柳さんは少し怒りながら感謝してくれた。
「でもその聞きたいことと俺の質問になんの関係があるの」
「あります、ではまずその雨の日私に何があったかお話しますね」
青柳さんは少し沈んだ表情でそう言った。
※※※青柳 葵視点※※※
中学校を卒業した、次の日私は、お父様に呼ばれて書斎に向かっていた。お父様は如月学園の理事長でいつも忙しそうだったから私を呼ぶのは驚きだった。書斎に着くとお父様は苦い顔しながら口を開いた。
「来たか葵、実は今日大事な話があるんだ」
「はい、なんでしょう」
「お前と婚約したいと言っている男がいる」
えっ私と婚約したい人がいるの、でもお父様は婚約には否定的なはずなのになんでお父様から婚約の話がでてくるの?私は混乱した。ただ相手が気になり、お父様に聞く。
「お、お相手は誰ですか?」
「相手は黒木財閥のご子息の黒木 紫苑だ」
私はその名前を聞きおどろいた。黒木紫苑を私は知っている、黒木紫苑は去年の十二月に行われた『ミスター如月コンテスト』で見事優勝した人物だ。だけど、黒木紫苑は『ミスター如月』の権利を使い学園で好き勝手にしてあまり評判が良くないとお父様から聞いたことがある。
「私、婚約したくないのですが。あまり評判が良くない方ですよね」
「まぁそうだな…私も婚約をさせたくないがでも黒木紫苑はミスター如月だからあまり断りたくないのだ」
少し困ったような顔しながらお父様は項垂れる。婚約したくないけどお父様も理由があって私に言ったから、なるべく力にはなりたいな。
「少し考えてもいいですか」
「あぁそうだな、いきなりな話だ。ゆっくり考えるといい」
「ありがとうございます、では失礼します」
そう言って私は書斎を出た。
その出来事は突然だった。お父様とお話をした日から二週間ほど経った頃に私の家にあの男が来た。私は急いであの男がいる応接室に向かった。「失礼します」と言い応接室に入ると黒木紫苑とお父様が座っていた。
「遅いじゃないか葵ちゃん」
「すみません、お待たせしました」
ニコニコ笑いながら私を見る黒木紫苑。いつもニコニコ笑っていて黒髪でとても顔が整っているが正直何を考えているかわからない。
少し黙っていると黒木紫苑は口を開いた。
「理事長、僕葵ちゃんとお話があるので席外して貰えますか」
「あ、あぁ分かった」
お父様はそう言って席を立ち部屋から出て行く時のお父様の表情が悔しそうにしているように見えた。
二人きりになり世間話をして、何故、黒木紫苑は私の家に来たのだろうと不思議に思った時、表情をニヤニヤしながら私に言った。
「そういえば、葵ちゃん。君、僕との婚約に悩んでいるそうだね。でもね、もう君に選択肢はないよ」
「え、それってどういう…」
「実はね、如月学園に一番資金を援助しているのは黒木財閥なんだよ。そして学園の生徒の中で一番権力があり、学園の看板のような存在の僕。その存在を二つ失ったら学園はどうなってしまうんだろうね」
その言葉聞いて私は頭が真っ白になった。
「じゃ伝えたい事は言ったし帰るね」
そう言って黒木紫苑は立ち上がり出て行った。私はどうすればいいかわからなくなって、気づいたら雨が降っているのに傘も持たずに家を飛び出し隣街の公園で泣いていた。
泣いていたら急に誰かが近づいてきて私に傘をさしてこう言った。
「なんで泣いているかわからないけど、風邪引くよ。その傘あげるから早く帰りな」
とても落ち着くいい声だった。その声の主が気になり顔を上げてみると、金髪のロングヘアの美形の男が立っていた。
「でも、あなたの傘が…」
「俺の家近いから大丈夫。じゃ」
男はダッシュで帰って行った。私は貰った傘をさして目を腫らしながら帰った。
そして一週間が経ち私は如月学園に入学した。入学して仲良くなった友達にある噂話を聞いた。一年前に入学して三ヶ月でミスター如月になった男がいてすぐに不登校になり学園に来ていない先輩がいると。私はその話が気になり、お父様にその人物の写真を見せてもらい唖然とした。
その人物はつい最近私に傘を渡してくれた人だった。写真の方の名前は神崎 蓮さんというらしい、お父様が言うには今までで一番のミスター如月だったらしい。
私はこの人に会えば何か変わる気がして神崎さんの住所を学園で調べて神崎さんの家に向かった。
誤字、脱字あったらサーセン