プロローグ
オレに与えられた能力は『観測』というものだった。
成人したら神から特別な才能が授けられるこの世界で、それは最弱に等しいと呼ばれるモノ。だって、物事を見ることができる、ってのは当たり前なことで。それで何が変えられるわけでもなかった。
憧れの冒険者になれたものの、結局はこのように――。
「――おい、そこの役立たず! そこの荷物を運んどけよ!」
「は、はい! ……くっそ!」
日々、雑用ばかり。
様々なパーティーを行ったり来たりして、結局は捨てられる。
それの繰り返しだった。それでも、幼い頃から夢に見てきた自由と共に生きる冒険者という職にすがり付いて、毎日いいように扱われてきたのである。
「ホントに、そんなコトしか出来ないんだな。オリベル――生きてて楽しいかァ? 一人じゃまともに戦えない、最弱の冒険者さんよォ!」
「……………………」
荷運びをするオレを見下ろし、パーティーリーダーの男――ダンは言った。
筋骨隆々な、身の丈2メイルを超える巨漢は嗤う。それと呼応するように、取り巻きの男二人もニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
このパーティーに入って一月か。
今までの中でも、ここでの扱いは典型的だった。
「おらよ。それなら、次はコレだ! いいな、夕方までに終わらせろよ?」
「…………分かり、ました」
今日の依頼は、鉱石の採集。
オレたちの拠点とする街――テディアから、1キロメイルの場所にある洞窟での作業であった。役立たずの烙印を押されたオレは、そこで必死に肉体労働。
鉱石を採掘しては、外に運び出した。その作業の繰り返し……。
「くそっ……どうして、オレは……っ!」
その最中に思うのである。
どうして唯一神――アクアリディア様は、この身にこんな能力を授けたのか、と。物事を見守ることしか出来ないという、外れスキルを。
せめて、なにかを変えることができるなら……。
「……こんな目には、合わなかったのに!」
――ガツン!
振り下ろしたツルハシが、岩を激しく叩いた。
洞窟内にむなしくその音が響き渡り、だんだんと小さくなっていく。オレは一人、その薄暗い空間で唇を噛みしめるのであった。――悔しくて、仕方がない。
「もう、やめようかな――冒険者」
そして、次に湧き上がったのはそんな感情だった。
不思議なことに、そこまで思ったのは初めて。そもそもこの能力は、行商人とか占い師とか、そういった職業に向いているのだ。何故なら、物事をしっかりと見ることができる『観測』は元々、判断能力を高めるためのモノなのだから。
この能力を得た人はみな、決まってそういった職に就く。
自分のやりたいこととかは関係なしに。その方が、無難だから……。
「…………最初から、そうすれば良かったんだ」
そう考えると、今こうやっていることが馬鹿らしくなってきた。
そうだ。やめてしまおう。そして、明日の朝から、新しい仕事を探すことにしよう。そうと決まれば、こんな腐った環境とはオサラバだ。
オレはツルハシを投げ捨てて、街へと向かって歩き出した。
◆◇◆
街に戻ったオレは、力なく道を行く。
そして、うな垂れたままに自宅に戻り、固いベッドに倒れ込んだ。
そうすると、だんだんと意識が遠退いていく。身体の疲労感も相まってか、眠りはすぐに訪れるのであった。それに合わせて、目を閉じるのである。
すると不思議と、固い感触がまるで泥のように感じられた。
「明日からは、もう――」
――冒険者ではなくなる。
その事実に、少しだけの未練を抱きながら。
意識はどんどん闇の中へと向かって、落ちていくのであった。
【スキルが更新されました】
でもオレは知らなかった。
この時、自身の身体に起こった変化を。
そしてそれが、オレの人生を大きく変えることになることを……。
初めましての方は初めまして。
鮮波永遠と申します。
この度は新作をお読みいただき、誠にありがとうございます。
第一話は、10時頃に投稿いたします。
何卒よろしくお願い致します。
<(_ _)>




