優しいテレビ
ほぼアドリブで書きました。なかなか落ちがつけられなくて、大変でした。
煩悩電気の会議室では、新製品の企画会議が進められていた。
「最近の世の中はギスギスして、ストレスが多いです。ですから、人の心を優しく労わる家電製品はいかがでしょう。新しいと思いませんか?」
社内の中でも、一番頭がいいと思われている企画部長が提案した。
「それはいい。では早速商品化してくれ」
社長の鶴の一声で、商品化が決まった。試作品は一台のテレビ。
「このテレビは優しさ100%でできています」
「能書きは良いから具体的な説明をだな」
やり手で有名な企画部長が、眼鏡を光らせて、テレビの説明を始めた。
「漢字が苦手な方向けに、字幕が全部ひらがなで出ます」
とテレビのニュース番組を見せた。何やらインタビューを受けている一人の老女。声が上手く聞き取れない。「わたしゃ、けいきがかいふくしたとはおもえないんだけど」
「悪いんだけど、非常に読みづらい。ほかに何か売りはないのかね」社長がこめかみに少し青筋を立てて、企画部長をにらんだ。
「失礼いたしました。チャンネルを触った時、心地いいように人肌の温度に設定しています」
「今時チャンネルのテレビがあるか!」
何やらミス続きだが、この企画部長、社内では一番頭がよく、やり手であるのは本当である。
「それでは、音声を聞くときにギスギスしないように、母音とパ行言葉で変換した放送を聞くこともできます」
と別のチャンネルをつけるとやっていたのは国会中継だった。
「おっぱい中継の時間です」
「聞いている人間が勘違いするじゃないか。何を考えているんだ君は」
先ほどから強烈なボケばかりかましているが、これでも社内で一番頭がよくやり手らしい。
眼鏡の企画部長は、テレビを撫でまわして、説明した。
「もし万が一ぶつかっても、ケガをしないように、角を極力減らして丸く作っております」
「見りゃわかるよ。完全に球体じゃないか」
「それと、リモコンをなくさないように紐でテレビに括り付けています」
その長さは、なんと三十センチ。ものすごく不便だ。
社長の顔を見ると、苦虫を潰したような表情で座っている。さすがに切れ者の企画部長も身の危険を感じたのか、満面に笑みを浮かべて、その場を取り繕うように猫なで声で切り出した。
「このテレビの売りは、それだけではございません。お顔にコンプレックスのある方用に、テレビに映るイケメンを全てぶ男に修正しました」
ドラマをつけると、美男俳優は全てお笑い芸人のような顔をしていた。
「女性に売れないじゃないか。こんなものはいらん」
ついに怒り心頭の社長は、テレビを企画部長に投げつけた。企画部長はすんでのところでよけて、壁には丸い穴が開いた。
「家電製品は優しく扱わないとケガの元です」企画部長は穴の中から、丸いテレビを取り出して語った。
「変な機能ばかりで全然新しくないじゃないか。何が新製品だ」
「物が球なだけに旧態依然としております」企画部長は去って行った。