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銭湯モード!

登場人物

東条 一  :二十二歳 俺

佐々木 裕人:二十歳  俺?

白井 伊織 :十七歳  俺? いや私? 女子高生

渡瀬 沙紀 :二十二歳 俺? いや私? 美しいOL?


 鍋の準備も終わると、俺達四人はアパートから五分くらい歩いた所にある銭湯へ向かうことにした。俺と佐々木はアパートの共用風呂でもいいのだが、心身ともに蓄積された疲労を回復したかったのだ。



 銭湯に着くと、伊織が真面目な顔をしてオリに確認をしていた。

「ほんっんっんっとうに入っていいんだな。女湯に――」

 二人の男共の顔を見ると、ニコやか……。

 ――まるで他人事である。

「ああ、いい。堂々と入ってこい」

「いいよなあ。後で色々と報告してくれよ。まったく羨ましいったらありゃしない」

 ハハっと笑いながら、オリと佐々木は男湯の暖簾(のれん)をくぐって中に入っていってしまった。

「いいんだよな。沙紀」

 伊織が俺に確認する。

「ああ、いいんだろう。確かにこの恰好で男湯に入ったら、なにをされるか分からない。いいか、自然を装うんだぞ。俺達は覗きでもなんでもない。正当なニューヨーカーだ」

「ああ」

 そんな話をしているのが、不自然極まりない。

「ところで、まるで夢のような女湯に入れるってのに、全然嬉しくないのはなんでだろう。まるで……」

「……罰ゲームみたいだなあ」

 できれば逃げ出したい気分だ。しかし、一生女風呂に入らない訳にもいかない。俺は勇気を出して。女湯の扉を開けて入った。伊織がちゃんと付いてきているのかをチラチラ確認する。


「いらっしゃい」

 番頭のおばさんだ。俺は挨拶して小銭を渡し奥へ行く。番頭のおばさんは顔見知りだ。伊織も同じようについてくる。

 脱衣所へ行くと、いるいる……。みだらな格好をした女性が……。俺と伊織はできるだけ見ないようにし、人がいないロッカーへと進む。

 二人して背を丸くしてコソコソ歩く……。

「これじゃ、逆に怪しくないか……」

「じゃあお前先に歩けよ。なに金魚の糞みたいについて来てんだよ」

「ムリムリムリ」

 伊織は決して俺の前には行こうとしなかった。

 空いたロッカーを見つけると、ひたすら服を脱ぎロッカーに放り込み、持ってきたタオルを一本出して気づいた。

「女って、どこ隠せばいいんだ」

 振り向くと、伊織が女子高生とは思えないような後ろ姿をさらけ出して下着を脱いでいる――!

 声に気が付くと、サッとこっちを振り向いた。

「ば、馬鹿野郎。急にこっち見るんじゃねーよ!」

「ス、スマン!」

 お互い背中を向けた。伊織も俺の全裸を見たのだろう。二人とも顔が耳まで真っ赤になっている。


 ――駄目だ、落ち着け、落ち着け~。俺は……女だ。

 伊織も女だ。

 別に恥ずかしがったり隠すことはない。深呼吸をして呼吸を整える。


「なあ、「いっせいのーで」で見せ合いっこするのはどうだ」

「ああ、そうだな、そうしよう」


 まるで小学生の発想だ――。


「「いっせいのーで!」」

「あー、ダメだ、やっぱ(はず)い! あっち向いてくれ!」

「うっわ~」

 ――だから! 見るなってこの野郎! 慌ててタオルで隠す――。

 なんか腹立つから、負けじと伊織の体も上から下まで何度も見てやる!


「しかし……、エロ本やネットで見るエロ画像は見慣れてるのに、なんでこんなに興奮してるんだ、俺達」

「そりゃあ……、生だからだろう。お前もエロい体してるよなあ」

 伊織に言われて自分の体を見る。確かに、今の俺はナイスバディーだ。


 この沙紀って女、なにからなにまでもがパーフェクトなのではないだろうか……。


「エロい体って言うなよ。先に言っとくが、あんまりジロジロ見るんじゃねーぞ。普通、女でも男でもそんなに他人の体をジロジロ見合ったりしないだろ」

「ああ、そうだな。二人ができてりゃ別だがな」

 変な想像しそうになったが、頭を振り払った。

「お前なあ……、ちょっとくらい手で隠せよ」

「お前こそタオルが逆にいやらしいんだよ! あ~こんなことしていたら、マジで風邪ひくぜ。こっからは別行動だ。俺が先に行くからできるだけ離れて入れよ」

「ああ、そうしよう」

 タオルを持ってさっさと脱衣所を後にし、ガラス戸を開けて浴室へと入った。


 浴室内で俺はさっと椅子を確保して座った。

 周りに人いれば、後姿だけではどれが伊織か分からない。なんせ一瞬しか見ていないから。


 タオルに石鹸を擦りつけて、体を洗い、そのまま顔もゴシゴシ洗い、さらにそのまま頭も洗おうとした時に気づいた。


 女はこんな洗い方……しないよなあ。たぶん。


 石鹸をシャワーで洗い直すと、置いてあるボトルシャンプーを手に取って頭を洗いはじめた。

「なんだこりゃ。ぜんぜん泡立たない――」

 髪の長さは東条一の時と比べれば数倍長い。同じシャンプーの量では足りないのに決まっている。手当たり次第にシャンプーを手に取って髪に擦り付けると、ようやく泡立ってきた。女の髪は洗うのも一苦労だな……。

 よし、もういいだろう。

 怪しまれることもなく女性らしく髪を洗えたハズだ。シャワーで今度は大量の泡をすすぎ始めるのだが……、今度はいっこうに泡が消えない。まあ仕方ないかと思って流し続けるのだが、数分間経っても泡がなくならないので、さすがにこれはおかしいと思いシャンプーのボトルを手に取って見た。

 ……普通のシャンプー……だよな。まさか掃除用の洗剤なんて置いてあるハズないか。

 またシャワーで頭をすすぎ続けようとしたが、その時、後ろからクスクス笑いを我慢する声が聞こえた。

バッと振り向くと、そこには両手にシャンプーのボトルを握った伊織が、笑いながら立っていた。


「永遠シャンプーはどう? プッププ」

「――バカなことすんなっつーの!」


 髪をすすぐ俺の頭に、シャンプーをそっと垂らし続けていたのか!

「気付くの遅すぎ!」

 ……なんか、凄く腹立つのと、気付かなかった自分が恥ずかしい……。

「――洗い終わったならさっさと浸かってろよ。恐らくオリと佐々木はカラスの行水だぞ」

 そう言いつけて伊織の裸体から目を逸らした。


 ――堂々と立つなっつ~の。伊織はもう裸を見られてもへっちゃらのようだ。俺より若いからか? 隣に座ってベラベラ話し始めた。

「ところで……、昔に見た漫画で、お湯に浸かると男に戻る漫画ってあったよなあ」

「ああ、あった。覚えている」

 ……。

 伊織も俺もこの場で男に戻ったことを想像する。……変態丸出しモロ出しだ。もしかすると警察がきてしまうかもしれない――。いや、来る! きっと来る――!

「しかし! あれは漫画だ。ありもしないことさ……。現実にあるわけがないだろ」

「しかし、俺達にはそのありもしないことが起きてるじゃねえか」

 返答に困った。シャワーを浴びても大丈夫なんだから、別になんともないだろうが……伊織に考えなくてもよいことを考えさせられたのは事実だ……。

「じゃあ、俺が(おけ)に水を入れて傍で待機していてやる。お前が先に湯船に入れ。万が一、男になってしまったら(オケ)の水をかけてやるから安心しろ。オーケー?」

「先に俺が入るのかよ。……ジャンケンだろ、ジャンケン!」

「クソッ。どこまで臆病者なんだ」

 こんな臆病者に負ける訳にはいかない。俺の渾身の力を込めた握り拳は、伊織のか細いカニさんを撃沈した。


 ゲロリンと刻まれた桶に水をツルツル一杯入れ、顎で伊織に「行け」と指示した。伊織も渋々それに従う。

「じゃあ頼んだぞ」

「ああ、さっさと入れ。めんどくさいやつめ」

 伊織が恐る恐る湯船に足をつけ始めた。本気で恐れている様を見ていると、可笑しくて吹き出しそうになってしまう。

 ――しかし、伊織が両足を入れた時、俺は叫んだ――。

「やばい、上がるんだ!」


 ――その声に血相を変えて伊織は反転して湯船から上がる――。そこへ俺は思いっきり水を伊織にかける。

「うおっ! 冷て~!」

 悲鳴にも似たような声を伊織は上げた。俺はマジな顔を続ける。

「やっぱり、駄目だったのか。サンキュー、あぶなかったなあ……」

「……ああ」

「俺達は、湯船に入れないんだなあ。じゃあ……俺は先にあがっておくから」

「……ああ、そうしろ」

 伊織にそう言って、湯船にどっぷり肩まで浸かった。

 ああ~、体の芯まで温まる。銭湯はこうでなくてはいけない。伊織は眼を見張っている。


 まんまと騙されやがって。

 こいつは本当に俺と同じ記憶を持っているのか疑わしいものだ。バカめ……。


「騙したなー! マジで焦ったのに!」

 伊織はドロップキックで浴槽へ飛び込んできた。


 ドッボーン!

 湯船のお湯は飛び散り、大きな声を上げてはしゃぐ俺達二人は……他の客に注意されてしまった……。



「やっぱり女の風呂は遅いなあ」

「ああ。まあ、生まれて初めての女湯で色々と勝手が違うんだろう」

 俺と佐々木は既に銭湯の外に出て、牛乳を飲みほしていた。すると女湯の扉が開き、沙紀と伊織が出てきた。

「お待ちどうさん」

 二人の手にも牛乳瓶が握りしめられている。

「遅い。長い髪が芯まで冷えたぞ」

 佐々木がそう言いながら金髪の頭を掻く。二人が牛乳瓶の蓋を親指で瓶の中に押し込んで飲み始める。俺も佐々木もそうやって飲んだ。

 そんなところまでもが全員同じなのが嫌になってしまう。そう考えながらアパートへと向かい歩き出した。



 アパートに着くと、早速俺は座卓の中心に電磁調理器と鍋を置き、加熱を始めた。他の三人は自分のベッドでくつろいだり、ドライヤーで順番に髪を乾かしたりしている。

 電気代が掛かるだろうなあ……。銭湯で乾かしてこいと言いたい。なにより、部屋のブレーカーが落ちないかが心配だ。

 そんなセコイことを考えていると、上段のベッド同士で伊織が沙紀に問い掛けてた。

「そういえば、ワキ毛ってどうやって剃るんだ?」

「はあ? 俺に聞いたって分かるもんか。……たぶん、ヒゲと一緒だろう」

 沙紀がそう答えると、伊織はベッドから飛び降り洗面台に向かうと、おもむろに俺の電動シェーバーを握り、Tシャツの襟のところから手を突っ込んで電源を入れ、てワキの下を剃りはじめた――。


「こら! ちょっと待てよ。女子高生が親父の電動シェーバーとかでワキなんて剃るの見たことあるか? いや、ないはずだ! それに、俺はそれで顔剃るんだぞ。ワキなんて剃るなよ」

「風呂に入った後なんだし、いいんじゃねーか別に。これなら楽だし」

 電動シェーバーはジョリジョリと心地より剃り音を奏でる。

 脇を剃る伊織を三人は見守っていた。Tシャツの襟が伸びてビロビロになってしまうだろ……。

「俺は……電動シェーバーを使うのはやめとこうかな。濃くなりそうだし」

 沙紀が言うと伊織は電動シェーバーのスイッチを切った。


「めんどくせえ。もう冬になるし、別に構わないよな」


「「構えよ! っていうか、お前左脇しか剃ってないだろ!」」

 三人が声をそろえて伊織に忠告した。


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