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二段ベッドは上? 下?

登場人物

東条 一  :二十二歳 俺

佐々木 裕人:二十歳  俺?

白井 伊織 :十七歳  俺? いや私? 女子高生

渡瀬 沙紀 :二十二歳 俺? いや私? 美しいOL?


 狭い洗面台にまな板を置き、鍋の材料を切りながら考えていた。


「……そういえば、お前ら風呂はどうするんだ」

「やっぱ……銭湯だろう」

 佐々木が即答する。誰もお前に聞いていないと言いたかったが、佐々木も気になっていたのだろう。沙紀と伊織はあまり考えてなかったようだ。

「このアパートの共用風呂に女が入っていたら、他の部屋の奴らが腰抜かすぜ」

「そうか、女っ気がない奴らばかり集まってるからなあ。このアパートは」

 伊織がそう答えた。


 そうなのだ。

 このアパートはいまだに風呂とトイレと炊事場が共用なのだ。

 だから各部屋で本来は料理などをしてはならないのだが、引っ越してきた時に買った電磁調理器で簡単な料理なら作れる。逆に……誰かが炊事場を使っているところなど、見たこともない……。

 そういえば、炊飯ジャーは最近使ってなかったなあ。確認しようとすると沙紀が先にジャーの蓋を開けていた。

「あ、冷や飯残ってる。茶色の」

「また食べるの忘れて放っておいたんだろ」

「食べ物粗末にするなっていつも言ってるだろ」

 誰が誰に言っているんだ……。

 渋い顔をしてそのカチカチになってしまった昔御飯を器に移した。

「おい、それを食べるのか? もう雑炊にしたって食えねーぞ。まっ茶色じゃねえか」

 沙紀が眉間にシワを寄せて文句を言う。

「心配するな、後で処分するから。それより暇なら米研いでくれよ。二合……いや、三合でいい」

「ああいいよ」

 沙紀が洗面台で米を研ぎだした。俺はその横で野菜や肉や魚や貝やエビやイカやポックンを切ってザルに移す。ポックンとは皮がパリッと音を立てるソーセージの総称だ。

「こうして見ると、まるで新婚の夫婦か、同棲しだした恋人同士に見えるぞ!」

「そうそう、なかなかいい雰囲気だぞ。羨ましい!」

「「茶化すなっ」」

 俺と沙紀がそう言うが、俺の顔だけが赤く、さらに馬鹿にされた。

 なんか言ってやろうと考えたとき、また俺の部屋をノックする音が聞こえた。部屋の全員がドキッとして扉の方を向く――。


「東条さん。荷物配達にきました」

 ホッと安堵の息を吐いた。さっきのベッドが届いたようだ。

 濡れた手をタオルで拭くと扉を開ける。約束通りの時間だったのだが、すっかり忘れていた。

「どうもありがとうございます」

 サインをし、バラバラの状態でベッドが詰まった大きな段ボール箱を二つ部屋の中に運び込んだ。

 暇そうにしていた佐々木と伊織が、なにも言わなくても段ボールを開き、さっそくベッドを組み立て始める。

 二人の息はピッタリで、……まるで双子のようだ。


 二段ベッドを両方の壁に一つずつ置き、その間に座卓を置くと、部屋は見事に足の踏み場もない状態になってしまった。

「……思った以上に大きかったなあ」

「……ああ、ホームセンターみたいな広い所で見ると、意外と小さいと感じたが、部屋の半分以上がベッドになってしまった……」

 ベッドを選んだ俺と沙紀が、目の前にそびえたつ二段ベッドを見て呟く。

 佐々木がベッド毎についているカーテンを付け終えると、上段のベッドから飛び降りた。

「ところでだ。上と下があるが、どうやって決めるんだ」

「やっぱジャンケンだろう」

「まあまて、どっちがいいかとりあえず聞いてみようじゃないか」

 俺には考えがあるのだが、また皆からヒンシュクを買うのも面白くない。他の三人のやり取りを見守るとする。

 佐々木が声高々に呼びかけた。

「上がいい人、手を上げて!」

「「ハーイ!」」

 元気な返事が……四つ。

 当然だが俺も手を挙げた。そうなのだ。全員、上がいいのだ。


「お前ら子供かよ!」

「下の方が便利でいいに決まってるじゃんか!」

「じゃあお前が下に行けよ!」

「やなこった!」


 三人の言い争いを聞いていたが、やっぱり俺がまとめるしかない。

「俺も上に行きたいのは山々なのだが、俺と佐々木は下だ。沙紀と伊織は上でいいだろ」

「オリ! 勝手に決めるなよ。なに格好付けてるんだ。ここは平等にジャンケンだろ! お前だって上がいいんだろ? 俺には分かるんだぞ!」


 涙目で訴えるほど……ベッドの上がいいのか?

 ……。


「でも、駄目だ。レディーファーストではないが、下段だと、どこからでも覗けてしまう。まあ、お前らなんかに興味なんてないが、女としての羞恥心とか、礼儀作法もやしなっていかなきゃ駄目なんだと思う」

「お、さすがはオリ。分かってるねー」

 喜んでさっそく伊織が上のベッドへと梯子を上がった。


 ……他の三人が下から見ている。

 伊織は制服姿のままなので、短いスカートから白いパンツが丸見えになった。俺達三人は茫然とそれを目の当たりとした。


「……おいオリ。もしお前がこのことまで考えて今の提案をしたんだったら。今日のお前は冴えまくっているな」

「まったくだ。オリはたいした策士だ。でかした」

「沙紀はこれから女のパンツを見て喜んでたら駄目だぞ。お前は女なんだからな」

 そんな会話をしながらも、三人の眼は釘付けだった。それに伊織が気付いたのは、ベッドに上がって振り返った時だった。


「――! お前ら何考えてんだよ! 視線が熱いんだよ、視線が! 気持ち悪いじゃねーか変態!」

 伊織は見せたことがないような複雑な表情をして、スカートのお尻の部分を押さえたが、その隠す行動自体がまた恥ずかしくなるのだろう。しかも……沙紀までニヤニヤしながら見ていたのが……たまらなく気持ち悪い。

「今度そんな目で俺を見たら、はっ倒すからな!」

 伊織はカーテンをシャッと閉めた。

「部屋着! 何でもいいからくれよ!」

 閉まったカーテンの中から手が出てきて、声がする。

「沙紀が持ってきてくれ。意味なんてねーぞ!」

「はいはい」

 沙紀が俺のタンスを勝手に開けてジャージを出すと、気を使ってかしらないが、できるだけカーテンが開かないように中へと入れた。

 まあ、自分もされたくないことは人にもしない、ってことだろう。

 沙紀も部屋着をもって俺達の方を見ながら巧妙にベッドへと上がった。

 俺と佐々木はというと、こちらは遠慮することなく服を脱いだのだが、部屋着が見事に全部出払ってしまい、俺は結局ジーンズにまた足をとおした。


 このままで寝ないといけないのか……俺。


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