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俺との生活

登場人物

東条 一  :二十二歳 俺

佐々木 裕人:二十歳  俺?

白井 伊織 :十七歳  俺? いや私? 女子高生

渡瀬 沙紀 :二十二歳 俺? いや私? 美しいOL?


 まずは何から始めないといけないのだろうか。


 丸い座卓を囲み第一回家族会議、いや同族会議を行った。沙紀や伊織の話はほとんど何も聞いていないから、それを早めに聞いておかなくてはならないのだが……、日が暮れてからではどうにもならない懸案事項がある。


「まず、買い出しに行こう。買うものは二段ベッド二つと今晩の食材。鍋がいいかと思うがどうだろう」

「「俺もそう思う」」

 俺の問い掛けに三人が答えて頷く。満場一致で可決。会議は速やかに幕を閉じた。当然の結果だ。


 そのままの姿で部屋から出て階段を下り、階段下にある木製の郵便受けの中に部屋の鍵を入れた。

「もし俺よりも先に帰ったら、ここから鍵を出して部屋に入っていてくれたらいい」

「おいオリ。わざわざ説明しなくても分かるって」

 佐々木がそう意見する。俺は冷ややかな目で佐々木をみて問う。

「おい佐々木。その「オリ」っていうのは、……ひょっとして「オリジナル」の略で、俺のことなのか?」

「その通りだ。説明しなくても分かるよな。なんせ俺たちは四つ子みたいなもんだからな」

 いいながら佐々木は俺の肩を組んで来る。


 いや、まて、俺はそんな男と肩を組むようなキャラじゃないはずなんだが……、容姿が変わると性格もそれに似て変わるのか……? と、その時は思った。


「じゃあ俺と佐々木はホームセンターで二段ベッドを買ってくるから沙紀と、えーっと、お前は食材買ってこいよ」

「おいオリ、なんで沙紀だけ名前で呼んで俺は「お前」なんだよ。どうせ名前をド忘れしたんだろ」

 ――図星。

 一回しか聞いていなかったので、さっぱり忘れている――。

「こいつは伊織。伊織って呼んだらいいよな」

 そういって佐々木が伊織にも肩を組もうとした時、伊織はそれを拒否した。

「お前こそ「こいつ」はないだろ。もしかして、女子高生の格好してるからって、見下していないか」

 ――図星。

 背も低く制服姿の伊織は少しも偉そうに見えない。中身は俺でも外見は「可愛い」の一言で片づけられてしまうだろう。声だって……なんだか甲高くて可愛い。

 佐々木は俺の肩からも手を下ろして伊織に詫びた。

「わ、悪かった。そうだよな、お互いを尊重し合わないといけないよな」

「分かればいい」

 ちょっと偉そうに伊織が言う。どうやら本気で怒っていた訳ではなさそうだ。

「それじゃあ五時頃には部屋に帰る予定でいてくれ」

 俺が佐々木とホームセンターに向かおうとすると、今度は沙紀がそれを止める。

「だから、なんでオリが勝手に仕切るんだよ。なんつーか、不平等じゃないか!」


 ……ゴメン。沙紀が言いたいことが……さっぱり分からない。


 いや、沙紀だけじゃなく、こいつらの言いたいことがよく分らない。ややこしい話はすぐにまとまるのに、簡単なことでみんな強情だ……。

「……じゃあどうしたいか言ってくれ。俺はそれに従うから」

 すると沙紀が小さい声で言った。

「ジャンケンで勝った二人がホームセンター。負けた二人がスーパーでどうだろう」

「あ、賛成!」

 伊織が即答した。佐々木と俺も特に反論はしない。

「ああ、いいぜ。そうしよう。……ところで、ジャンケンで勝負がつくのか? 永遠あいこにならないよなあ」

「そんなもんは――やってみたらわかるさ! 行くぞ、ジャンケン……ポン!」

 やはり俺が仕切っていたが、永遠あいこは発生せず、俺と沙紀が勝ち、佐々木と伊織が負けた。

「いちおう決まったが、これで文句ないか?」

 そう聞くと、勝った沙紀もそうだが、負けた佐々木と伊織もニコやかに笑顔で頷いている。

 ――まったく意味が分からない。

 こうして二組に分かれ、ようやく買い出しに向かった頃、時計の針は四時を過ぎていた。



 本当はベッドの下が机になっているやつが欲しかったのだが、仕方ない。二段ベッドでなくては今日、寝る場所が確保できないのだ。

 しかし俺は、その時になって大事なことに気づいた。勝手に全員を俺の部屋に泊まると考えていたが、そうでないのであればベッドを買う必要はないのだ。

「おい沙紀、ちょっと聞きたいんだけど」

 返事をしない。ホームセンターに置いてある種類の少ない二段ベッドを、ジーっと吟味している。

「おい、沙紀。聞いてるのか」

「え、ああ、そうそう俺って今、沙紀なんだよな。慣れてないから誰に言ってるのか分かんなかったや。スマンスマン。なんだ?」


 ――おいおい、ちょっとは自覚してくれよ……。そうとは口にせずに聞いた。

「今日からお前らは俺の部屋に泊まるんだよなあ」

「ああ。なんか男二人女二人って聞くと夢のような環境だけど、実際はそうじゃないのかもしれないなあ。なんか、兄妹四人みたいで。でも、伊織に手を出したりして。へへへ」


 ……。

「だから……お前が言うな。お前もどちらかと言えば手を出される側だぞ。まったく!」

「おいおい、そんな気持ちの悪いことしないでくれよ。考えただけで、うお~鳥肌が立つぜ」

 なにを考えているのか、だいたいの想像は付く。


 しかし……。俺は沙紀の姿を見る。何度見ても、……もったいない……。

 なぜ中身が俺なのだ。哀しくてため息が出てしまう……。

「だから、そんな目で俺を見るなって! 鳥肌が立つだろ。うーキモイ。遠くの彼女で我慢しろよ、彼女で」

「彼女? ……そうか、お前はまだ知らないのか」


 彼女とは伊織のことを指しているのではない。去年まで付き合っていた「彼女」のことだ。


「佐々木は知っていたが、……実は別れたんだ」

「え、なんでだよ。遠距離とはいえ、仲良かったじゃないか」

「……まあ、色々あったんだよ。また機会があれば話してやるよ」

 曖昧にそう答えながら、一番安い二段ベッドの型式が書かれた注文票を二枚とって、レジへと向かった。

沙紀は別れた彼女について聞きたそうにしたが、……すまない。今は話したくない。

 しらふではちょっと話し辛い……。


 さすがに二段ベッドは持って帰るわけにもいかず、時間を指定して配達してもらうことにした。今日の夜までには運んでくれるそうだ。

 こちらの買い物が早く終わったので、俺達もスーパーへ買い物を手伝いにいくことにした。ここにも検案事項があったのだ。


「もし四人で鍋をするとしたら何を買う?」

 沙紀に聞くと、考える間もなく即答した。

「缶ビール二ダース」

「……だよな。それと食材。恐らくツマミもたくさん買い込むだろう。そして……」

「二人では持ちきれないことに気付く」

 沙紀が先に言う。このあたりの思考回路はまったく同じだ。だから荷物持ちのためにスーパーへと向かう必要があるのだ。

 その途中で、さっきのジャンケンのことを聞いた。

「なんでさっきは「ジャンケン」なんて言いだしたんだ? 女は食材と決められたのが嫌だったのか?」

「あ? ええっと、言いにくいんだが、急に見ず知らずの女子高生と一緒に二人っきりでスーパーへ買い物っていうのに抵抗があってな。それに初対面だぜ? なに喋ればいいんだよ」

「なにって……。俺とお前も初対面だがそれなりに話しているじゃないか」

「それはお前が俺の姿をしてるから喋れるんだよ。中身は俺と同じっていっても、やっぱいきなり女子高生と仲良く会話しながらスーパーで買い物なんて、恥ずかしくてできねーよ」

「まあ、そうかもな……。佐々木と伊織だったら、朝のうちから色々と部屋で話してたから大丈夫なんだろうが……」

 確かに俺だって沙紀のような奇麗な女性と初対面では、こんなに平然と話すことなんてできないだろう。スーパーへ向かいながら並んで歩いているが、沙紀と俺との間には少し距離がある。

 当然だ……。男はくっついて歩く習慣なんか、ないだろ?


 近くの食品スーパーに辿り着くと、案の定だ。レジを出たところで二人が待っていた。

「やっぱり来てくれると思ってたぜ~!」

 佐々木と伊織がにこやかな顔で言う。さぞ楽しく二人で買い物ができたのだろう。

「やっぱりビールを二ダース買っている……。思った通りだ」

 そう皮肉を言って、缶ビールの詰まった箱を持つと、買い物袋の中に缶チューハイを見つけた。

「おい、誰だチューハイなんて飲むのは」

 誰も手を上げない。

 当然だ。普段から俺は買ったことすらない。

「あれ、おかしいな……。沙紀が飲むかと思ったんだが」

「俺だってビールで十分だよ。鍋にはやっぱビールだろう」

 おっさんみたいなことを言っている。

 結局チューハイはビールが無くなったら飲むこととなった。わざわざ返品なんて面倒なことはしない。


 四人が来た道を戻る頃、夕日は赤く染まり、少し肌寒さを感じさせていた。


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