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石田大造の雄姿

登場人物

東条 一  :二十二歳 俺

佐々木 裕人:二十歳  俺?

白井 伊織 :十七歳  俺? いや私? 女子高生

渡瀬 沙紀 :二十二歳 俺? いや私? 美しいOL?

石田 大造 :六十代男性 俺? いや……おっさん


由香    :遠距離恋愛していた元カノ。『サヨナラ』の置き手紙でフラれた

係長    :鬼のような(?)係長

斉藤 美奈 :二十四歳 隣デスクの少し気になる女性。父親が会社の専務


 トイレから帰ってきた伊織の顔は真っ青だった。


「俺は……もうじき死ぬのかもしれない……」

「伊織、いつの間にか「俺」に戻ってるぞ」

 軽くそう言ったものの、どうしていいか調べるため、ノートパソコンを立ち上げて検索サイトを表示させていた。

「大丈夫か。どうしたんだ。吐いたのか?」

「なんでだ。飲み過ぎではないじゃろう。缶ビール二本くらい……。お茶みたいなもんじゃろ」

 佐々木とおっさんが心配して伊織を支えた。沙紀も口を押えて心配している。

「……血が止まらないの。もう駄目かもしれない……。ガク」

 自分でガクッて言うな。

 伊織はその場に崩れ落ちそうになり、おっさんと佐々木に支えられながら、とりあえずベッドで横になった。

「これは、……アレよ」

「あれってドレだ?」

「アレって言ったら、アレに決まってるでしょ」

「あー、アレか」

 ……。

「そうだ、ちょうど十月二十八日を過ぎている。みんな見てくれ。二十八日周期と書いてあるからまず間違いないだろう」

 間違いだらけなのかもしれないが、俺はネット検索で目に着いたところを、ただ読み上げていた。

「じゃあ、私もなってしまうわ――」

 沙紀がそう言って顔を両手で覆い、しゃがみこんだ。

 伊織の顔色は、青を通りこし土色に変化している。しかし、原因は貧血という訳ではなく、赤い血を見てしまったからだろう。

 とりあえずネット検索を続けた。


 こんな時、インターネットは神具と読んでも過言ではない――。


 数分後、予想通りではあったのだが、大体どうすればいいかはわかった。

「必要な物は分かった……だが……」

「……だが、いったい誰がその、生理用品を買いにいくかだ……」

 佐々木が俺の肩越しにパソコンのディスプレイを覗いて呟く。

 そう、問題はそこなのだ。一同の目が沙紀に向かう。沙紀は当然の視線を一歩後退して避けようとしながら、

「え、い、嫌よ……」


 想像していた通りの答えだ。……と他の俺も思っただろうな。


「なんでだよ。もう動ける女はお前だけなんだぞ。伊織がこのままでもいいのか」

「まあ落ち着けよ佐々木。……なぜなんだ? 沙紀」

 視線を背けて小さい声で呟く。

「だって……、俺が生理になったって思われたら……恥ずかしいじゃない。それに、俺だって今日生理になる、のよ。もう時間がない。……歩けないわ!」

 また沙紀はしゃがみこんだ。よっぽど嫌なのであろう、沙紀の「私」も「俺」に戻っている。

しゃがんだ沙紀は小さな声で続けた。

「しかも、店員が女だったらどうするのよ。かといって、男でも絶対いや! それに、顔見知りの店員なのが、もっとイヤー――!」

 断固拒否……か。仕方がない。

 沙紀と伊織以外で誰が買いに行くのかを決めようとした時だった、


「よし、じゃあわしが行ってきてやるわい――」

 おっさんがジャージの上着のチャックを一番上まで、シャッっと上げながら一歩前に出た。


「「お、おっさん。ナイスガッツ――!」」


 俺達はおっさんを見送った。しかし佐々木がどうしても心配だからと、おっさんを尾行し、出ていってしまった。

 俺も心配で行きたい衝動にかられたが、本来心配しなくてはならないのは……おっさんではなく伊織の方なのだ。

 俺と沙紀は伊織の看病に当たった。

「きっと大丈夫だから、もう少し頑張って!」

「う、うん」

 沙紀が伊織の手を強く握る。

 俺はベッドの間の狭い畳の上を、何度も何度も行き来していた。

 

 まだか――、

 早くしろ――。



 コンビニに辿り着くと、佐々木は店の外からおっさんの様子を伺った。


 おっさんは目的の品の棚の前を……行ったり来たり。一度手に取って、裏の説明書きを読んでまた置く。それを何度も繰り返していた。


 ――おい、おっさん! そんなことしていたら、逆に怪しいって――。


 その姿は店員や、他の客からも注目を集めている。ようやくおっさんもその不自然さに気付いたらしく、サッと二つカゴに入れると、レジへと小走りで向かった。

 その顔色は、おっさんらしからぬ真紅である。それを店の外から見てる佐々木も、同じように真っ赤になっていた。


 ――がんばれ、おっさん――!


 レジで女性店員に、ジロジロと不審な目で見られ、

「こちらの商品で……よろしかったですか?」

「え! え? ちがうのか。いや、これでいいハズなんですが……」

 ボソボソとしゃべる。

 変態を見るような目でレジの女性が金額を伝えると、おっさんはお金を支払い、商品を持つと一目散にコンビニを出ようとした。

「お客さん、お釣り忘れてますよ!」

「はう!」

 おっさんが慌てて引き返し、お釣りを受け取ろうと手をだすと、店員は、恐る恐るその手の平に、お釣りを――ポトッと落とした……。


 まるで、汚いものを見るような冷ややかな目おしおって……。

 それでいい――、上等じゃあ。


 わしも立派なおっさんじゃ!


 お釣りと紙袋を握ったまま小走りで店を出ると、

「ナイスガッツだ、おっさん!」

 急に佐々木がコンビニのゴミ箱の横から飛び出し、おっさんと肩を組んだ。おっさんは少し驚いたが、その後二人で喜びを分かち合った。

「ああ、やったぞお。俺はやり遂げたぞ! これで伊織も沙紀も大丈夫だ。ハハハハ」

「ハハハハ、は! 急ごう!」

「ああ!」

 その光景をコンビニの中から見ていた女性店員がどう思っていたか……。

 知る由もない――。



 おっさんが無事帰ってきたのを俺達も歓喜の渦で迎えた。

 さっそく袋を開け、それらを伊織に手渡すと、伊織は戸惑った。

「いったい、これをどう使えばいいんだよ」

「ちょっと待って。袋に使い方が書いてある」

 沙紀は袋を伊織の見える所で一緒に読み始めた。声を出して読まなくてもいいのではないだろうか……。


 ――数分後――。

「じゃあ沙紀も一緒に来てよ」

「「え、ええ。えええ~?」」

 沙紀も俺達も疑問の声を上げた。

「おいおい、そんなこと、人に頼むようなことか?」

 問い掛けると、伊織は青い顔で俺を見返して言った。

「オリだって、どうやっていいのか分かんないでしょ。あたしだって同じよ」

 言われればそうだが、俺が分からないってことは、沙紀だって分からない。と思うのだが……。

「分かったわ。行ってあげる」

 沙紀は伊織の手を取って、ベッドから起こした。そして二人はトイレへと向かって行った。


 なかなか戻ってこない。

 俺と佐々木とおっさんは、部屋で首を長くしていた。


「なんでこんなに時間がかかるんだ」

「失敗? したりしてるんじゃないか……?」

「あの狭いトイレに、どうやって二人入っているんだ?」


 男三人は、二人が密室でどうしているのか……勝手な想像を膨らましていた。



 十分くらい経つと、ようやく部屋の扉がゆっくり開いた。

 沙紀は部屋を出る前と、まったく変わっていない男共の姿に違和感を感じた。

「どうしたの? 伊織ならもう大丈夫よ」

 俺達は勝手に膨らんでいた妄想を頭から蹴散らして答えた。

「そ、そうか。良かった。本当に良かった」

 伊織はまだ少し青い顔をしているが、自分で歩いてベットに上がって横になった。まあこれで一安心ってところか……。

 

 俺が缶コーヒーの蓋を開け、それを口にしようとした時、沙紀が話しだした。

「伊織の出血で気がついたんだけど、もしかして、私達が体を支配したきっかけって、


 献血が原因じゃないかしら」


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