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果たして焼き肉は?

登場人物

東条 一  :二十二歳 俺

佐々木 裕人:二十歳  俺?

白井 伊織 :十七歳  俺? いや私? 女子高生

渡瀬 沙紀 :二十二歳 俺? いや私? 美しいOL?

石田 大造 :六十代男性 俺? いや……おっさん


 時計を見ると、もう5時を過ぎている。


「おい佐々木。ちょっとこの雑誌のハガキを切り取っておいてくれないか」

 通販のカタログとハサミを佐々木に渡すと、

「なんで俺が切らなきゃならないんだ」

 と愚痴をこぼしながらもハサミを受け取り、応募ハガキを切り離した。ハサミは当然のように右手に握られている。

「お前は……単純だなあ」

 佐々木は気付かない。他の3人もため息をついている。はあ~。

「なんでだ……あ、そうか! ハサミも左で使わんとならんのだ」

 慌てて持ち替えているが、またしても佐々木はシッペを喰らった。

「イッテ―! ちょっとは手加減しろよ! それに、なんで俺ばっかり狙うんだよ。沙紀を罠に引っかけるのが筋だろ」

 腕をさすりながらそういう。佐々木だけは何度も本気でシッペをされていた。


 一度もシッペをされていない沙紀はというと、口を二枚貝のように固く閉ざし続けている。ここまで徹底されると、どうやらこの勝負、俺の負けのようだ……。

「おいオリよ。腹も減ったし、そろそろ観念して焼肉食いに行こうぜ」

「そうよ。私達の勝ちよ」

 伊織は自分のベッドのカーテンを閉めた。着替えて外出の準備をする気だろう。

「わしらの勝ちと言うより、沙紀の一人勝ちだな」

 おっさんもそう言う。

「そうだな。仕方ない……じゃあ行く準備をするか。しかし。アパートを出るまでが勝負だからな」

 沙紀の方を見ると、目がキラキラと輝いている。

「わかったわ。ちょっとトイレ行ってくる」

 沙紀が部屋を出ようとした時、俺は思いついたように声をかけた。

「じゃあ勝者の沙紀がどこの焼肉屋でなにを注文するか決めていいぞ。予約できる所がいいかもな。ユッケやレバーも旨そうだけど、予算は低目がいいなあ。考えといてくれ」

 沙紀は一瞬立ち止まると、ブツブツと呟き、考えながら廊下を歩いて行った。


 ……予算は少な目で……予約ができてユッケやレバー……。そんな店が近くにあったっけ……?


「おいおい、予算は低目ってなんだよ。和牛食べ放題に決まってるじゃねーか!」

 佐々木が肩を組んでくる。

「フン、お前は左手で箸持って食べろよ」

 その言葉に佐々木は……泣きそうな顔をしてガッカリしていた。まあ、そんな顔をするな。俺の計算が正しければ……。


 ――焼肉すらお前らの口には入らないさ。


 沙紀が部屋へ帰ってくるのに数分を要した。

 扉がゆっくり開き、沙紀が……内股で立っている。そして、申し訳なさそうな顔をしている。

「ど、どうしたんだ沙紀。そんな申し訳なさそうな顔して。――ま、まさか、お前!」

「ご、ごめんみんな。考えごとをしながらトイレに入ったら、


 ……間違えちゃった」

 崩れ落ちるようにしゃがみこむ――。

 恐らくは男用の小便器を使おうとして、三度目の失敗をしたのであろう。

「ああー! ここまできてなにやってんだよ!」

「沙紀だけが頼りだったのに~」

「オリの作戦にまんまと引っ掛かりやがって!」

 他の三人は期待が大きかった分、キツイ言葉で沙紀を責める。沙紀はメソメソした……フリをしている……。

「は~い。ゲームセット。今日はコンビニ弁当決定だな」

 言いながら肩をほぐす。やれやれ、一時はどうなることかと思ったが、助かった。

 だいたいだなあ、こいつらが来てから財布の中身がいつもの数倍の勢いでなくなっていくのだ。


 ――焼肉なんてとんでもないぜ。


 沙紀が着替えを持ってベッドに上がると、カーテン越しに話しかけてきた。

「そういえば、考えごとをしてたのは、別に焼肉のことじゃないんだ」

「じゃあ、何考えてションベンしてたんだ、お前は!」

 佐々木の声からはまだ憤りを感じる。よっぽど食べたかったのだろう。肉焼き。

「いや、記憶を思い出すのには、逆に今の記憶を忘れさせればいいんじゃないかなって思って」

 俺もその話には興味がある。

「しかし沙紀。どうやって記憶を忘れる気だ? 頭、どつくのか?」

 握り拳を作って佐々木の頭を後ろから打とうとしたが、さすがに身の危険を感したのか、俺の方を――見もせずに佐々木は拳をかわし、スカッと拳が宙を素通りする!


「そういえば、てっとり早く記憶をなくす方法があったなあ」

 佐々木はひらめいたようにポンと手を打った。

「酒だ。酒を飲んで飲んで飲みまくれば記憶も吹っ飛ぶだろう」

「そうだ! そして本来の私の記憶が蘇る!」

 伊織も眼を輝かせて同調する。

「しかし、酔いが覚めたらどうなるんじゃ。また東条一に戻るんじゃないかのう。東条再登場ってどうじゃ」


 ……。


「その時はその時さ。もし記憶が戻ったとしたら」

 佐々木はおっさんの話を半ば無視して続けた。

「もし記憶が戻ったとしたら、恐らく発狂するだろうな。「ここはどこ」「私は誰」ってな感じだろう」

 その光景を想像すると、少し気が引けるのだが、何もしないよりは、何かする方がいいとも思う。

「よし。その作戦を決行しよう」

「「オー!」」

 全員が皆意気揚揚である。


 記憶を取り戻したいのか、ただ酒を飲みたいだけなのかは定かでないが、今日一日の鬱憤晴らしをしたかったのだけは確かだ。


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