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2 自業自得かも…

ガタゴトガタゴト……。


 ふかふかのクッションに、繊細な彫刻に施された金箔がまぶしい豪華なとしかいいようがない馬車の中。わたしは半目になっております……。

 いきなり我が家に現れた王家の馬車に詰め込まれたのはつい半刻ほど前。

 王家の紋章が施された大きな馬車に、手入れも完璧な馬にまたがった騎士様達。ゴージャスなご一行様は、貴族としては小さな我が家にはとても不似合いでした。馬車の中から現れた白髪に髭の老紳士うやうやしく王家からの召喚状を差し出された。受け取らなければ逃げられないかな…と、ちょっと思ってしまったが、やさしげな細い瞳を細めながら召喚状をわたしの手に押し付けてくる無言の圧に負けて受け取ってしまいました。

 まさかの王家からのお呼び出しに、気の弱いお母様だけでなく、いつも研究室に籠りっきりのお父様まで出てきて、ひたすら目を見開いていたっけ。馬車にのせられるわたしを止めることも、声をかけることもできず。馬車の小窓からは、目を開いたまま無言で去っていく馬車を呆然と見続けるお父様とお母様の姿は小さくなるまでまったく動かなかった。

 

もはや嫌な予感しかしません。

(もしかして、王子ネタを貴族令嬢に売っているのがバレてしまったんじゃなかろうか。でも、本当にやばいネタは売ってないし、令嬢達に教えたのは王子の好きな色とか花とか香りとか当たり障りないものばかりだから大丈夫だよね…?いや、それでもやばかったのかも…)


ガタゴトガタゴト……。 

気分は荷馬車にゆられる子牛のそれです。


 始めてきたお城はさすがにゴージャス。観光できたなら天井まで施された壁画を口をあけて眺めていたと思うけれど、現実は目の前をしずしずと歩く老紳士の後ろを黙々とついていくだけ。ちなみに左右と後ろは騎士様にぴったり囲まれております。

 お城って大きすぎる上に、壁とか柱とか扉とか似たような造りが多い。さらに右に曲がったり左に曲がったり繰り返すうちに、自分がどこにいるのか分からなくなる。防犯対策としては必要なことだろうけど、一人ではもときた道を戻ってお城の外にでることはできないだろう。(家に帰してもらえるんだよね…。)つい暗い考えがよぎり不安MAXになってきたところで、老紳士がある扉の前で立ち止まる。

 扉の前には二人の騎士様が控えている。(ということは、扉の中には偉い人がいるはず…。)老紳士に促されて扉をくぐると…。


 ………やっぱり、いました『偉い人が』。


 ゲームの攻略対象である『夢の王子様』ことヴィクトール王子と、その側近であるユリウス・ダンべリオン公爵子息。

 (うーわー!本物初めてみたよ!ゲームのスチルより生の方がキラキラ度が半端ない。なにあの髪。あんなに天使のわっかだらけの金髪みたことない!お肌もぜったいつるつるだよ。吸い込まれそうな碧い瞳が逆に怖い‼完璧な王子様だ~。それに、ユリウスってこんなに背が高かったんだー。優等生系のイケメンにさらさらストレートのブラウンヘアを無造作に緑のリボンで結んでいたけど、やっぱり本物も緑のリボンなんだ~。)

 心の中の前世の自分がキャッキャ騒いでいるが、現実の自分は冷や汗ダラダラだ。なんとか名乗り淑女の礼をとる。

 「はじめまして、マリエル嬢。すまなかったね。いきなり呼び立ててしまって。」

 さわやかにこれ以上はないというくらい完璧な王子様の微笑みを浮かべるヴィクトール王子。普通の令嬢なこのキラキラスマイルにポーッとなるところだろうが、わたしは寒気でブルリと震えてしまった。

 そう、わたしは知っているのだ。『夢の王子様』は、完璧な笑顔の裏では眼が笑っていないことを。ゲームの王子様達には裏設定があったのだ。誰にでも平等でやさしい『夢の王子様』の裏の顔は『腹黒王子様』。完璧な笑顔でやさしい言葉をかけても、その裏側では罵詈雑言の嵐。けれどこのことを知っているのは幼馴染のユリウスなど数少ない近侍だけ。(ちなみに、そんな王子様の腹黒にいつもさらされているユリウスは、いつも胃薬が手放せないという設定もある)

 大きな執務机の上に手を組み微笑みを崩さないヴィクトール王子の横に控えるユリウスが、そっと胃の上をおさえている…。きっとユリウスもわたしと同じように、王子の笑顔の後ろにドロドロとしたものが渦巻いているのを感じていると思う。執務机の向かいに立たされたままのわたしは、プルプルと震えそうな膝に力をいれて耐える。

 「……殿下。わたくしなどにどのような御用でしょうか。」

 「もう想像がついているのではないかな?」

 とっとと本題にはいって欲しくて勇気を振り絞って振ったのに、にこやかにはぐらかされる。

(ここで負けてはだめだ、はっきり用件がわからない以上誤魔化せるところまでは誤魔化さねば…!)

 「申し訳ございません…。わたくしのような身分の物にはとても想像がつきません……。」

ピクピクと引きつりそうな頬を気合いでおさえながら伏し目がちに微苦笑してみる。(わたしは身分が低い子爵令嬢ですよー。こんな下々の娘がお偉い王子様と関わることはございませんよー。何を把握されているか分かりませんが、きっと気のせいですよー。)

「……そうか。実は先日の夜会でおかしな出来事があってね。」

 「……はぁ。」

 「わたしの誕生祝を兼ねたものだったのだが、出席した貴婦人やご令嬢のドレスのほとんどが青い色だったんだよ。」

 「は…?」

 「あれはなかなか見ごたえがあるものだった…。白の一番大きな広間が青色で埋め尽くされてね。青い色がもぞもぞと動く様は遠くからみると青虫の群生のようだったよ。虫がきらいな母上などは気分が悪くなられて夜会の途中で席を外していたよ。」

「……………。」

かわらない笑顔のまま滔々と話を続ける王子様。その夜のことを思い出しているのか、胃のあたりをおさえているユリウスの手に力がはいっている。《青いドレス》が気になるが私が令嬢達にすすめたのは《藍色のドレス》。しかもたった三人だけだ。生地やデザインがかぶらないように、最新の注意をはらったし…関係ないはず。

「そんな状態になったのは初めてでね。ユリウスに調べさせたんだよ。」

「参加された方に聞き取りをしたところ、「殿下のお好きな青い色でお誕生日のお祝いをしましょう!」とご婦人や令嬢が参加する夜会やお茶会などで声を掛け合っていたことがわかりました。」

「どうしてそんな事に……?」

ユリウスの話しからこれはわたしに関係なさそう!と、ひと安心。ついつい興味で質問してみたが、後から後悔することになる…。ユリウスの調査でわかったことは、ひとりの令嬢が王子の誕生日を祝う夜会で目立つために王子の好きなドレスを急いで無理やり新調しようとしていることを仕立て屋から聞いた他の令嬢達が、その令嬢を目立たせまいと「青いドレスで参加しよう!」イベントを始めたらしい。《藍色》に限定せず《青色》としたのはそのほうがドレスをもっている可能性が高いので参加者が増えると考えたというから微妙に賢い。令嬢達の執念にちょっと引いてしまうが、仕立て屋に関しては余計なことしやがって!としか言いようがない。

「それで、一番最初に仕立て屋にドレスを発注した令嬢に話を聞いてみたんだ。」

「…………殿下自らですか。」

「そうだ。令嬢は喜んでいろいろ教えてくれたよ。」

「…………………………」

大好きな王子様が直接話を聞いてくれるなら、きっとなんでも話してしまうだろうよ。まぶしいくらいにキラキラと微笑む王子様の笑顔が黒くみえてしまうのは、わたしの心が弱くなっているだけじゃない…はず。

「なかなか面白い話だったよ。とあるご令嬢がわたし好みのドレスだけでなく、好きな香りや花、楽曲や愛読書からよく食べる菓子までなんでも教えてくれるらしい。………ねえ、マリエル嬢。その令嬢はどうしてそんなにわたしのことを知っているんだろうね。」

「……え~っと。その令嬢は殿下のことを知っているのではなく、ただの想像でお話しているだけではないかと……。」

「……ほお。ずいぶん具体的な創造だな。」

『夢の王子様』の仮面が外れて『腹黒王子様』が現れた!

もう全バレしているのはわかっているけれど、なんとかこの場を逃げきりたい!焦る私の背中は汗だくです。

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