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1 転生したけど⁉

王道の異世界転生も大好物だったけど、乙女ゲーム転生モノもけっこう好きだった。

 

けれどまさか、自分が乙女ゲーム転生をするなんて……。


わたしが転生したのは、ヒロインの王女が他国の王子達を攻略していく鉄板モノ。正統派の王子から俺様王子など5人の王子だけでなく、美形ぞろいの側近達も攻略できた。夜会やお茶会などで好感度を上げていく、時間がかかって地道なゲームだったのに妙に人気があって、公式ブックや攻略本、王子それぞれのオリジナルストーリーの小説まで出ていたのだ。(もちろん全部読み込んだけど。)

登場人物は攻略対象の王子やその側近達はもちろん。

明るく優しい王道ヒロインの王女。

ヒロインの両親である王様やお后様に姉姫。

ヒロインのライバル、王子の婚約者などの貴族令嬢達。


「………………‥…………………‥…。」


いろいろな登場人物がいたはずだけど………。


「ちょっと待って…、あれ……?わたしって誰だっけ?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ドレスでしたら、こちらの落ち着いた藍色の生地の方が良いと思いますよ。宝石やリボンの飾りは控えめに、同色の生地の素材の違いで濃淡をだしましょう。デザインはっこんな感じで!きっと王子様のお好みにあいますよ。」

ささっとドレスのデザインを描きながら、キラキラ、ゴテゴテのドレスをみにまっとった、縦ロールのご令嬢に華やかだけど上品なドレスをおすすめしてみる。いつもゴージャスなドレスを身にまとっているお嬢様は、シンプルなドレスが本当に王子様の目に留まるのか悩んでいるが、ここは自信をもっておすすめする。

なぜならおすすめしたドレスは、王子様がゲームのイベントでヒロインにプレゼントする王子様のお好み100%のドレスを参考にしているから。間違いなく王子様の目に留まることだろう。

「…わかったわ。あなたのおすすめはいつも当たっているものね。急いで次の夜会に間に合うように作らせるわ!」

王子様お好みの生地を抱きしめながらご令嬢が微笑む。

「やっぱり、マリエルに相談してよかった。先日頂いた花の香りの香水も、殿下に褒めて頂けたのよ!」

「本当ですか!お役に立ててわたしも嬉しいです~。」

そうでしょう。そうでしょう。その香水もゲームイベントで王子がヒロインにプレゼントする《鈴蘭の香り》なんです。高い香料を使える貴族令嬢ほど、自己主張の強い香りをまといがちなので、さわやかな香りを好まれる王子の気持ちもわからないでもない。

いそいそと謝礼を用意するご令嬢にわたしもニッコリ。思わず「まいどあり!」といってしまいそうになる。恋するご令嬢は本当に良いお得意様です!


マリエル・オクトリオ子爵令嬢。


それが攻略キャラの王子のひとり「ヴィクトール王太子」のいるライオネル王国に転生したわたしの名前。

ヒロインの王女でも、ライバル令嬢でもなく、王子のまわりに群がる令嬢でもない。


そう。本当にゲームの本編に一切関わりのないただの貴族令嬢に転生してしまったのだ。


美男美女がわんさか出てくる乙女ゲームの中において、わたしの容貌はいたって普通。ちょっとだけ自信があるのは母ゆずりのエメラルドグリーンの瞳くらいで、茶色い髪に平均的な身長、平均的なスタイルと、どこにいても目立たないモブに最適な普通の貴族令嬢。(実際はモブですらないけれど……。)前世ののっぺりした平坦な顔からすると、とっても可愛くなったと自信をもって言えるけど、派手な美男美女ばかりなので目立たないのだ。

もはや何のために乙女ゲームの世界に転生したのか。なぜ前世の記憶があるのか。貴族令嬢なのに普通の日本人の記憶が邪魔して、妙に庶民っぽいお嬢様になっただけ。あまりの残念さに「意味ないじゃん……!」と一人部屋で半ギレしていたものだったが、とても良い使い道があった。


乙女ゲームの攻略キャラとはいえここは現実世界。独身の王子様はこの国において最大の好条件物件なんですよ!

金髪碧眼の信じられないくらい整ったお顔に高い身長。いつも笑顔をたやさず、誰にでもやさしいおとぎ話のような「夢の王子様」といわれるほど美しいヴィクトール王子は、貴族令嬢はもちろん市井の娘達までも王子様の姿絵をみて頬を染めているといわれているほど国中の娘たちの憧れの存在なのだ。

中でも高位貴族の令嬢たちは、そんな「夢の王子様」との婚姻候補として可能性が高い分その争いも本気だ。王子様の出席する夜会にはすべて参加して、ちょっとでもお目に止まろうと他の令嬢を押しのけアプローチ。理由をつけてはお城に上がり偶然でもよいから王子様に会えないかとお城を徘徊する。華やかな装いの中で他の令嬢より目立とうとみんな真剣だった。


そんな高位貴族の令嬢達の中にわたしは市場をみつけた!


乙女ゲームや攻略ブックで得た王子様の攻略ポイントに、公式ブックや小説で得た細かな設定。王子様を落とすための情報がわたしの中に大量にあったのだ。その情報を小出しにしながら高位貴族の令嬢たちの相談役として活躍中なのです。


とはいえ、貴族令嬢なのになぜこんな仕事をしているかというと答えは簡単。家が貧乏だから………。

子爵家とはいえお父様は研究ばかりしている学者肌の人で、領地からの収入のほとんどは父の研究に費やされてしまっている。その研究対象は『古代魔術』。魔術といってもゲーム世界によくあるような派手な魔法はでてこない。植物の精製、合成によって病気やケガを治療する薬を得る『魔術』というより『薬草学』のようなものだ。植物を合成して得られた薬は普通に市場に流通しているので、お父様の研究はまったく意味がないと思うのだが、お父様曰く「古代魔術の処方は今の薬草の何~倍も効果があるんだよ。病気やケガだってあっという間に治っちゃうし、『真実しか言えなくなる薬』とか『命令通りに動かす薬』とか面白そうな薬がたくさんあるんだよ。すごく楽しそうだよね~」いつもながら真面目に研究しているのか遊んでいるだけなのか、明らかに後半は怪しい事を言っているが、一応真面目に研究はしているらしい。 

とはいえ、必要な薬草は希少なものが多いので、手に入れるには時間もお金もかかるのだ。さらに、古代魔術の処方は石に彫られているので、古い遺跡を探して魔術が刻印された石を探すのにも人手がかかる。運よく発見できても、大昔の石の遺跡は、部分的に欠損して配合する植物自体がわからなくなっていたり、細かな配合が記載されていないことがほとんど。お父様は毎日仮説を立てながら高価な植物を使って配合実験を繰り返すばかりで、世に広められるような薬ができたことはない。

おかげで私は社交界デビューをしたもののドレスをそろえるお金もなく、なにより研究ばかりで社交性のない貧乏子爵の娘は、ステキな出会いがありそうな上位貴族の方が参加するようなお茶会や夜会に招待されることもない。せっかく乙女ゲームの世界に転生したのに、他国に住む主要キャラどころか、自分が住んでいる国の王子様の顔を直接見たこともないのだ……。

貧乏ながら食べていくことはできるけれど、このままでは研究ばかりの父親は、私にまともな結婚相手を探してくれることは期待できないし、持参金すら用意できるかもあやしい。もはや、乙女ゲームへの転生を楽しむどころか、自分の将来をなんとかする方が現実の問題なのだ。本編に関係ないキャラなのに、なぜこんな面倒な設定がされているのか……。でも、悩んでばかりはいられない。現実問題としてお金は大切!

けれど貴族令嬢が働くことは恥ずかしいこととされているので、表だって働くことができない。そこで、お金持ちの高位の貴族令嬢をお客様としてニッチな商売を始めたところなかなか好調。令嬢達はみなライバルなのでお互いに情報を教えあうことがないので、情報の使いまわしでお仕事ができるのも美味しい。

王子様の年齢はわたしと同じ15歳。あと二年で乙女ゲームの本編が始まってしまう。そうなれは、王子さまはキャッキャ楽しい王女との恋愛が始まるのだから、それまでの間くらいちょっと稼がせてもらってもよいと思う。

それくらいの特典がないと、なんのために乙女ゲームの記憶をもって転生したのかわからないしね。

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