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第二十一話
そこにはたくさんの花が咲いていた。
風が、優しく俺へと吹き抜けて行く。
「すげぇ」
こんな陳腐な言葉しかつぶやくことができない俺が恨めしい。
「ね、すごいでしょ」
「ああ、すげぇよ。こんな風景があったんだな」
俺はその花畑へと近づく。
一匹の蜂が、すぃっと花から離陸した。
「これ、なんて花なんだ」
黄色い、それでいてなにか儚げな、太陽を追いかけているように首を傾いでいる花を指差しながら科学に聞いた。
「花は花だよ」
キョトンとした表情で俺に答えたが、それが聞きたいんじゃない。
「この花の名前だよ」
「えっとね、確か向日葵だったかな」
向日葵、そうか、俺は何度もその言葉を頭で反芻した。
その時、場には不釣り合いなほどの甲高い音が聞こえて来た。
「お母さんからだ」
どうやら通信のようだ。




