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1-4 「<マサリ>」
冒険者ギルド『明暗の旅人亭』を出て、クロウはため息を吐いた。
手元に有った依頼書を面倒臭そうに見る。
依頼内容:『ドンロリ・グッバラィという男を何とかしてほしい。夜遅くでもいいから是非来て欲しい』
依頼者:宗教組織ジャンダー最高責任者<マサリ>
報酬:200G
「・・・・・。また、ダライマンかよ」
ここまで来るとどんだけ手を回しているんだよ、とツッコミを入れたくなる。
頭を掻きながら、指定された所へ赴いた。
*
アルーラン王国にはスラム街と呼ばれる所がある。
金銭的に窮地を追い込まれた人が最後に行き辿り着く所だと言われている。
そこに宗教組織ジャンダーの支部があるという。
何故、そんな所に、と思いながら歩き続ける。
途中でならず者に睨まれていたが、舌打ちされただけだった。
気のせいか、人の気配の数が少ない。住人はほとんど居ないだろう。
しばらくすると、見慣れないーー普通の市場では流れないーー服を着た2人がクロウの前に立った。
おそらく異界語でジャージという服だろう。
「宗教組織ジャンダーの者です。<センナ>と申します」
「私は<ジョナ>です。あ、これは偽名です。話は聞いております。こちらです」
「待て。何故私を知っている」
確かにクロウは依頼書を受け取った。だが、現時点では向こうの人達はクロウの特徴など知らないはずだ。
「”傲慢の神”ダライマン様の神託です」
あっさりと<センナ>は言い返した。
クロウは深く聞かず、黙って案内されることにした。
*
古い建物に入れば、小さな部屋を視認できた。あるのは、真っ直ぐに見える扉だけ。それを開けば、階段がある。かなり深い。黙って降りていくと、黄色の扉に行き当たる。
その扉を開けたらーーー。
「何だこれは・・・・・」
驚くべき光景が広がっていた。
地下だというのに、まさに宮殿の玄関のような雰囲気だ。いや、意図的に似せて創られたと言うべきか。その気になれば、300人ぐらいは収容できるだろう。
あちこちに別の空間と繋がる出入り口がある。
ジャージを着た人達が所狭しと歩き回る。それぞれの仕事があるのか、真剣な顔ををしている。
それだけではない。黒い服を着た人が2つの大きな箱を運んでいた。別の黒い服の人はジャージを着た人と笑い合っている。
クロウは天井を見上げて、光の正体を気づいた。
「これは”ライト”・・・・。光の精霊か!」
「ご名答です」
「・・・・。何て所だ。相当強い精霊魔術師が居るんだな」
「ははは・・・・。その人こそ、<マサリ>と言えば信じれますか?」
「そんな人がここに居るんだよ!?」
「詳しくは本人に聞く事をお勧めします。なお、グッバラィも待機してあります。こちらです。かなり広い為、迷子になりやすいので、離れず付いてきて下さい」