1-2
1-2 「傲慢の神」
「改めて名乗ろう。私はダライマン。”傲慢の神”を務めている。君のことは色々調べてあるよ。クロウ君」
「へぇ。とてもそう見えないけど」
またにしても失礼な一言を放ったクロウに対して、天使が少し引いた表情する。美しい美貌を持つ彼女がちょっと台無しになっている。
「・・・・。まぁ、地上世界で宗教組織ジャンダーに信奉されている神様ですから」
クロウは宗教組織ジャンダーという言葉に反応を見せる。
「聞いた事あるよ。異界語でジャージという服を着て、『全力でダラダラする』を目的とした組織だって」
「その通り。よく知っているな」
ここで偉そうにドヤ顔をする”傲慢の神”ダライマン。
「さて、そろそろ本題に入ろう。クロウ君。君は自分の妹に思えるほど大切な人が居るらしいな」
「妹? ・・・・。ああ、ミィラトア・ルナ?」
「そうだ。ルナは2年前程まで病弱で、外に出る事ですら、できなかった。 なのに、約2年前、あれほど苦しんできた風邪とだるみが急に消え、意識もはっきりしてきた」
クロウは黙って、”傲慢の神”ダライマンの語りに耳を傾けていた。
「それからはどんどん回復していった。食事を食べるようになり、筋力を付けた。半年後は元気に走り回れるようになった。その過程ぶりは何千人も見てきた医者ですら、驚いたほどだ。」
天使(女)は静かに目を閉じた。
「幼い頃から一緒に育ってきたルナは冒険者を目指すクロウを支える為に、冒険者ギルドに入る事にした。決意してからは、そりゃ凄まじかった。心配そうに見る両親を必死に説き伏せた。今まで知らなかった世間の知識を死狂いで学んだ」
細かく語り出す”傲慢の神”ダライマンにクロウは軽く怯えた。
「その努力の結果が、今朝、クロウが起こしてきた『余計な一言』事件について怒っていた、冒険者ギルドの受付嬢だ」
”傲慢の神”ダライマンは語り終えた後、指を鳴らし、薄く大きな画面を空中に出した。そこに映っていたのは、冒険者ギルドの仕事室。複数の机が所狭しと並んでおり、数人が事務に励んでいる。その一人に、ミィラトア・ルナが居た。銀色の短髪が特徴な少女だ。黙々と筆を走らせている。
クロウは画面から”傲慢の神”ダライマンに視線を戻した。
「・・・・。確かにそうだけど、まるで見てきたような言い方だな」
「そりゃそうだ。俺がそうするように仕掛けたんだからな」
「は?」
「もう一度言おう。俺が神の力でミィラトア・ルナを弱らせてきた病魔を押さえ込んだよ。2年前程からな」
クロウは内心、”傲慢の神”ダライマンは実はいい人かもしれないと思えてきた。
「あんたの仕業だったのか。ありがとう。おかけでボクは安心して冒険できるよ」
「俺に感謝するのはまだ早い。むしろ、ここからお前を呼んだ、真の理由となる」
「え?」
「はっきり言おう。俺は」
”傲慢の神”ダライマンは一拍を置いてから、良く響く声で言った。
「お前に『神殺し』をやって貰おうと思っている」
「は?」
「お前が俺に対しての、『神殺し』だ」
「・・・・。何でそんな事をやる必要があるんだよ」
「そうか。そうか。嫌がるのか。ならば」
”傲慢の神”ダライマンは指を鳴らした。すると、ミィラトア・ルナがいきなり口を押さえ、激しい咳をする。胸を押さえ、椅子から倒れる。よっほど苦しいのか、顔が真っ青だ。周りがルナの異常に気づき、駆け寄る。
『どうした! 大丈夫か!?」
『すごい高熱だ! 早く医者に見せないと!」
『大丈夫だからね。私が付いているからね』
さっきまで静かな仕事場が、今は大混乱になっており、あちこちで悲鳴が上げる。
「病魔を解放した」
唖然と立ち尽くしていたクロウは”傲慢の神”ダライマンの声を聞いて、殺意が沸いてくる。
「てめぇ・・・・・」
「感謝しろよ。本来なら30歳まで病魔に苦しみ続けていた。そして、病死。そんな結末を迎えたくないだろう? だから、せめての情けだ。さあ、取引をしようか」
「何ぃ?」
「お前が俺を殺すまでミィラトア・ルナの病魔を抑え続ける。その代わり、契約を破ったり、俺が消滅したら、病魔が解放される」
「・・・・・。ちょっと待て。最終的にあんたを殺せないだろ」
「・・・・。ならば、ミィラトア・ルナの苦しむ姿を見続けるか?」
「くそっ・・・・・!」
「ああ、病魔を押さえ続けたら、いつかミィラトア・ルナにとっていい人と巡り会い、素敵な恋をして、幸せな結婚して、素敵な家族を作れただろうにな。残念だな」
画面からはミィラトア・ルナの苦しむ声と騒ぐ周りの人の声が流れてくる。
1分ほど考え込んだクロウが重い口を開けた。
「契約を守れよ」
「お前がそうする限りは守るさ」
「・・・・。分かった。”傲慢の神”ダライマン! 僕はあんたを殺す! 絶対に!」
クロウは”傲慢の神”ダライマンを指差して、声高く宣言した。
それをを聞き届けた”傲慢の神”ダライマンは満足したような笑いを浮かべた。
「契約成立だな。時空塔の最上階にて待って居るぞ」
再度指を鳴らす。あれほど苦しんでいたミィラトア・ルナがゆっくり立ち上がり、『何か、治しちゃいました』と苦笑いする。周りはそれを信じられず、『一度医者に行った方がいい』と騒いだ。
「ルナ。ごめん。ボクは君の幸運を祈っているよ」
クロウという少女はまだ知らなかった。これから待ち受けるだろう、数々の苦難、強敵、そして、己の運命をーーー。