1-1
1-1 「クロウという少女」
遙かな昔
いにしえの神が創れたるは、夢幻の時空塔
7つの聖地にて体を静め
10つの歌を修めよ
さすれば
旧き代償を満たし
時空塔への道は開かれんーーー
ーーーエーリァルの伝承より
*
「では、依頼はゴブリン5体討伐でよろしいですね?」
冒険者ギルドの受付嬢がそう告げると、少女は頷く。
「はい。お願いします」
「他はありませんか?」
「そうですね。何か拾った物は全て冒険者の取得物となります」
「それはありがたい」
「あと、クロウさん。依頼主に失礼な事を言わないでください」
「そんな事はしないよ」
「以前、背が小さい事を気にしている小人族の男性に対して 『子供なのに、よく頑張っているね』と言ったでしょう?」
「うっ・・・・」
少女にすいっと身を乗り出して迫る受付嬢。
「確かにあの人は、妻が遺した膨大な借金を何とかするために頑張っていますが! そこは噂になるほど働いていますが! 子供は余計な一言でしょう」
「い・・・・いやぁ、だって、本当に子供しか見えなかったし。あの人が働く食堂に入った時、『お姉さんが冒険者なの?』って尋ねてきたし!」
「他にも苦情が来ていますよ。ええと」
受付嬢は手元の紙を読み上げる。
『彼女の落とした乾いた布を渡した私の男にさらりと褒め殺しの一言を放った。そしたら、私の女は彼女の事を意識するようになった』
「あ・・・・。あったね」
「・・・・。何しれっと他人の男に手を出しているんですか!?」
「いやぁ、だって、可愛かったし」
「・・・・。まだまだ苦情が沢山有りますよ。聞きますか?」
「仕事に行ってきます!」
「あ。こら! 行くな!」
*
神々が創りし世界『ラナログ』。
いつしか魔物が人類を蹂躙するようになった。しかし、人類は諦めてない。エルフ、小人族などの力を借りて、様々な武技、武器を生み出した。人々はそれらを用い、抵抗していた。
その世界に冒険を生業としている物者たちが居た。
曰く、何処かに眠る宝を探す為に。
曰く、技を磨く為に。
曰く、未知の地を征く為に。
曰く、己の運命を知りながらも、それを全うする為に。
曰く、か弱い誰かを護る為に。
そんな彼らを世界の人々は『冒険者」と呼ぶ。
アロンダ・クロウ。
彼女も冒険者の一人であり、最近”英雄”への道を駆け出したばかりだ
。
ーーーー
ルーリア大草原。
アルラーン王国から歩いて1時間ほどで辿り着ける所だ。
小さな丘が続いており、遠くには山が見える。
だが、ゴブリンなと魔物がたまに現れ、人々に被害を与える。その為、ここに近づく人は少ない。
近づくのは、自殺したがりの人か、ゴブリン討伐の為にやってきた冒険者だけだ。
「ゴブリン3体確認。これより討伐準備に入ります」
クロウは少し離れた所にあるゴブリン集団を視認し、ぶつぶつ呟く。これは冒険者の先輩から学んだやり方である。こうして何をするべきか、はっきりしておくことで、次にやるべき事を整理する。冒険者の基本だ。
背中にあった大きな両刃の剣ーー俗にバスタードソードと呼ばれるーーを鞘から抜き出し、構える。
ゴブリン集団はこっちにはまだ気づかれていない。汚れた石の斧を持っているが、奇襲を仕掛ければ大丈夫はずだ。
呼吸を整えてから、ゴブリン集団の死角に隠れるように移動する。徐々に距離を詰めていく。
「ギィ!?」
ゴブリン集団に気づかれると同時に駆け出す。
「おりゃああああああ!!」
バスタードソードを大きく振り、ゴブリンを斬り込む。まず一体が倒れる。残り2体は素早く距離を取る。
「ギィ!」
ゴブリン集団は汚れた石の斧でクロウに反撃する。だが、咄嗟に防御の姿勢をしたクラウのバスタードソードに弾かれた。直後、再度振った両刃の剣により、2体目も倒れる。
「ギィ!?」
あっという間に仲間の2体も倒されたゴブリンは慌てて逃亡する。
気づいたクラウも一瞬遅れて走り出す。ここで逃がしたら、更なる被害が出てしまう。何とか倒しておく必要がある。
ーーーここまでは多少反省するべき点はあったが、クロウにとって、順調だと言えた。そう、ゴブリンを追って走るまでは。
「あれ?」
突如、視界がくらりと揺られた。ゆっくりと体が落下していく感覚。それを脳が理解していた頃には、頭から地面に突っ込んだ。
要するに、転んだのだ。何にもない所で。
情けない。
「くそぅ!」
すぐさま立ち上がり、ゴブリンを探す。だが、敵は思ったよりも逃げ足が速く、姿も影も無かった。
ガックリと肩を落とし、日没ギリギリまで捜索を続けようとした矢先ーー視界が暗転した。
ーーーーー
青色の不思議な空間に包まれた部屋。
机一つ。椅子一つ。
他は書類が沢山あり、これは踏む所が無いだろうと突っ込みたくなるほどだ。
「何にもない所でコケ転ぶとか、君は本当に冒険者に向いているかね? 転職をお勧めしたいものだ」
眼鏡を掛けた、小太りの男性が早口で言い放った。
その男性は椅子に深く腰を掛けている。
「うるさいな。それでもボクは冒険者を目指したいんだ」
無意識にムカついて、言い返した所でクロウは我を取り戻した。
「あれ・・・・? ここは?」
「ここは俺の部屋だよ。ただ、下界の部屋とは違うけど、そこは気にするな。些細な事だ」
「気にするに決まっているだろ!」
「ふむ。バスタードソードか。実に脳筋な君らしい選択だ」
「はは。褒めてないでくれよ。結構大切にしてるんだ。この剣」
「褒めてない。馬鹿にされている事を気づけ」
「そんなことよりも、あんた、何でここに居るんだ。運動しないと、太るし、彼女が作れないぞ」
「・・・・・。彼女かね? あんなもん、幻だよ、幻」
「は? 何言っているんだ。優しい人も居るし、心配してくれる人も居るぞ。動かないと、いい人に会えないぜ」
「嘘つけ」
「本当だってば」
「もういい。これ以上、お前と話をすると、そろそろ神様アッパーパンチをしたくなる」
「そうかい。ボクも君の脳を覗きたくなってきたよ。きっとエロい事がいっぱい詰まっているんだろうね」
数分ほど静かになる。
「・・・・。お前、俺に喧嘩を売っているのか?」
「さあね? 想像にお任せするよ」
小太りの男性がゆっくりと立ち上がる。
「よろしい。ならば、喧嘩の始まりだ。早速下界に武闘場を借り切りして楽しく喧嘩しよう」
「ははは。ボク、カヨワイ剣士だからね。お柔らかにお願いするよ」
そこに天使と思わしき人物がやってきた。
「お二人さんとも、どうして挑発し合っているんですか!? ええい、ここからは私が仕切りますからね! いいですか!?」
天使(?)の背中から聖なるオーラが漏れ出ており、声高く宣言する。
「アッハイ」
男女2人はあっさり敵意の矛先を引っ込めた。
今までが黒歴史だったので、今回の小説はちょっとはマジに・・・・ならないな。うん。
そして、安心のボケとツッコミの嵐です。