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ハナムラジュリ 7 / ハナムラジュリ 1

 懺悔室の空気が、凍りついた。

 懺悔に来た人が神の許しを拒むなんて初めての事だ。こんな時、どう振る舞えばいいのかわからない。


「あの、ルチア。それならば何故、貴方はここに来たのですか?」

「あははははははっ! それを貴方が私に問うの? 姫巫女様って、思っていたより頭が悪いのね!」


 返ってきたのは笑い声だった。背後でフィデリオが動き、それをテオバルドが制するのを気配で感じる。確かに今私は相当侮辱されたわけだけど、この程度でいちいち目くじらを立てていたらきりがない。


「……どういう意味かしら?」

「あら、気を悪くしちゃった? ごめんあそばせ、私ったら大事な事を忘れていたわ。ここでいくら貴方とお話しても、貴方は何も覚えていらっしゃらないから無意味だったのに」


 ……覚えてない? 私が? 何を?


「ねえ! もう開けていいんじゃない?」


 ルチアが叫んだ。開けていいんじゃないって、どこを開けるつもりなのよこの女……と思ったのもつかの間。

 テオバルドが、ついたての向こうへ声をかけた。


「ああ。ちょっと待ってろ。今開ける」


 彼はついたてに歩み寄る。私の横に立ち、鍵穴に鍵を差し込んで。鍵が開く音がした。

 

「貴方……いつも最前列にいる……」


 私の目の前に彼女が現れた。黒い女だった。ベール付きの帽子も、ドレスも、レースの手袋も、ハンドバッグも、靴も黒。まるでこれから葬儀に参列するような恰好だ。いつも連れている護衛の男はいない。それが何故か不穏に感じた。


「テオから聞いているわよ。私の事、ベールちゃんって呼んでたんでしょう? ふふっ、可愛らしい名前じゃない。ねえ、テオバルド」


 そう言って、ルチアはベール越しでもわかるような媚を含んだ眼差しをテオバルドに向けた。

 テオバルドはうんざりしたようにルチアを見る。けれど本気で嫌がっている様子はなく、それどころかその眼差しにはどこか親しみ……いや、もっと言えば愛情さえ感じられた。


「……ふふ。テオ、貴方のお膳立てのおかげでやっとここまで来れたわ。本当に、貴方には感謝してもしきれない」

「俺は当然の事をしたまでだ。愛するお前のためなら、この程度の事ができなくてどうする?」


 ルチアはなまめかしくテオバルドにしなだれかかって腕を絡ませる。甘えるような声が耳障りだった。

 テオバルドはルチアのベールをわずかにずらし、その唇にキスをする。まるで私達に見せつけるように。唾の絡まる不快な音がした。わざと聞かせているのか、大きなその音は下品に響いている。

 ……あれ? ねえ、これってどういう事?


「テオバルド……? お前、裏切ったのか……!? まさかその女に騙されて……?」


 フィデリオは赤くなりながらも呆然としている。私だってわけがわからない。懺悔中についたての鍵を開けるのは禁止されている事だ。それなのについたての鍵を勝手に持ち出してルチアをこっち側に招き入れて、ルチアと親しげに会話していて。どうしちゃったの、テオバルド?


「裏切った? 心外だな。俺は最初からルチアの味方だ」


 唾液の伝う口をぬぐったテオバルドは哀れみを込めた視線をフィデリオに向け、冷たい声音を返した。私にいたっては目もくれない。

 テオバルドはルチアを振りほどく。そしてそのままフィデリオの元に歩み寄り、とんと軽く彼の肩を叩いた――――ように見えた。

 それだけで、フィデリオはうめき声を上げて床に崩れ落ちる。何が起こったのか、私には理解が追いつかない。


「フィデリオ!?」

「安心しろ、殺してはいない。少し眠ってもらうだけさ。……そいつは大事な目撃者だからな」 


 唯一この場で、絶対の味方だと言いきれたフィデリオが。テオバルドに裏切られた今、フィデリオしか頼れる人がいないのに。そのフィデリオも倒れてしまったら、私は一体どうすればいいの?


「ダヴィデ、どう? 私達の仲のいいところ、ばっちり見せつけられたと思う?」

「ああ。こいつはうぶだからな。抱き合うだけでも刺激が強すぎるくらいだぜ。……お前の口に舌を入れたなんて知られたら、アルレッキーノに殺されそうだ」

「ダヴィデが言うなら大丈夫そうね。……じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」


 ダヴィデって誰? テオバルドの名前は、テオバルドでしょ?

 もう何もわからない。知らない名前で呼ばれるテオバルドは、私の知らない顔をしていた。

 ……そっか。きっとこの人はテオバルドの偽物なんだ。このダヴィデという男は、テオバルドになりすまして神殿に潜り込んだに決まっている。本物のテオバルドはどこかに監禁されているに違いない。


「あら。ずいぶんいい顔をしてるじゃない。信じていた男に裏切られると、そんな顔をするのね。それともそれは、所有物が横から奪われたときの顔なのかしら?」


 この世界に魔法はないし、顔を別人そっくりに作るメイク技術もない。でも、もし彼がテオバルドの血縁者だったら? 結構顔立ちが似てるんじゃない? もし似ていなくても、工夫次第で少しぐらいは似せられるんじゃない?

 そう、そうだよ。私は信じない。逆ハーメンバー筆頭のテオバルドが、私を裏切ったなんて信じないんだから。


「いい事を教えてあげましょう。その男の名前はダヴィデ・ベッラヴィスタ。彼の心が本当の意味で貴方のものであった事は一度もないわ。本名すら知らない男を虜にできるわけがないじゃない。彼は八年間、貴方に嘘をつき続けていたのよ。貴方は気づかなかったでしょうけど」


 テオバルドなんて男、どこにも存在しないの。貴方は虚構の男を侍らせていただけよ――――ルチアの笑い声が反響した。ぐらぐらと世界が揺らぐ。信じていたものがぐにゃりと形を変えていく。

 ……ベッラヴィスタ。どこかで聞いた事がある名前だ。どこで聞いたんだっけ?


「ところで姫巫女様。さっき私、自分の素性を明かしたでしょう? あれ、半分本当で半分嘘なの。今の身分は平民どころか解放奴隷で、名乗れるような家名もないのは確かだけど、昔はちゃんとあったのよ。……ルチアっていうのも、もともとは愛称だったの」


 そう言って、ルチアはベールを外した。その素顔があらわになる。そこにあったのは、私と似ているけれど明らかに私ではない顔だった。

 ……そうだ。私は、彼女を見た事がある。

 部屋中を埋め尽くしていた、あの絵。アルフレードが描いたあの絵のモデルは、彼の空想上の私ではなかった。今私の目の前にいる、ルチアこそが―――― 


「ルクレツィア・フィオーレ。それが私の本当の名前よ」


 フィオーレは私の家名。ジュリエッタ・フィオーレは私の名前。つまり彼女は、私の家族?

 だけどフィオーレ公爵家は取り潰しになって、私の家族は全員処刑されたんじゃ……。


「私ね、ジュリエッタ・フィオーレの妹なの。彼女の事を貴方はご存知?」


 知っているも何も、ジュリエッタは私だ。ああ、どうしよう、愛玩子が生きていた。私の上に立つ事で幸せに暮らしていた妹が。

 どうやったかは知らないけど、粛清を生き延びた妹はテオバルドをたらしこんだ。そして私に見当違いの復讐をするチャンスをうかがっていたに違いない。すべては搾取子だった私を再び叩き落とし、私の上に立つために。


「知らないとは言わせないわ。貴方は彼女の身体を奪ったんですもの」

「奪っ……た……?」


 ルクレツィアは一体何を言っているのだろう。奪うも何も、この身体は最初から私のものだ。ジュリエッタ・フィオーレが前世での自我、花村樹里を思い出した結果、今の私があるんだから。


「ああそうだ。可哀想なジルはお前にすべてを奪われたんだ。……お前の顔を見るたびに虫唾が走ったよ。姿は間違いなく俺の愛したジルなのに、中身はまったくの別人なんだから」

「何の話? テオバルド、何を言ってるの?」


 そんな思考に冷水を被せるように、テオバルドが憎々しげに吐き捨てた――――まさかテオバルドは、前世の記憶が戻る前の私を知っている? だからそんな事を言うの?

 でも貴方のそれは間違ってる。だって私は、生まれた時から私だったんだよ? 貴方が見ていたのは本物の私じゃないの。前世での自我が蘇ってからの私こそ、本当のジュリエッタ・フィオーレなんだよ?


「本当に何も覚えていないんだな。『浄化の奇跡』を終えて、身体の引き継ぎをした時の事すらも」

「……貴方が何も覚えていなくても、私ははっきり覚えているの。お姉様が殺されて、代わりに貴方がお姉様になった時の事。忘れたくても忘れられないわ」


 なに、それ。

 浄化の奇跡? 身体の引き継ぎ? そんなもの知らない。勝手に話を進めないでよ。


「神殿のせいで多くの人が苦しんだ。今までも、多くの人が命を落とした。歴代の『奇跡の姫巫女』、彼女達がまだ普通の人間だった時の事を知っている人達は、誰もが涙を呑んで神殿の横暴の前に膝をついた。……けれど私達は、彼らのように泣き寝入りをする気なんてさらさらないわ」


 ルクレツィアの深い青の瞳には、怒りと憎しみだけが渦巻いていて。

 ジュリエッタが殺された? 誰に? どうして? ――――じゃあ、今ここにいる私は何?

 この身体は、一体何なの?


「ねえ、今まで楽しかったでしょう? 幸せだったでしょう? ……だけどそれは、本当はお姉様が享受するはずのものだったの。幸せになるのは、愛されるのはお姉様だった。貴方なんかじゃない。貴方はただ、お姉様の死体に取り憑いて好き勝手に生きていただけ」


 壊れたように笑うルクレツィアがハンドバッグから取り出したのは、大きなナイフだった。


「神殿の人間が、お姉様を殺したように。今度は私が、貴方を殺してあげる――だからお姉様の身体を、返してくださるかしら」


 フィデリオは依然として倒れたままだ。私を守る人は誰もいなくて、動く事もできなくて。


「うふ、うふふふふ……あはははははははははっ! お父様、お母様、お姉様! ルクレツィアはやりました! 貴方がたの命を奪い、お姉様の亡骸をもてあそび、私のすべてを蹂躙し、フィオーレ家を没落に追いやった元凶を、ルクレツィアがこの手で殺めたのです!」 


 痛い。赤い。熱い。寒い。

 懺悔室にいるのに、別の景色がぐるぐる見える。これが走馬灯?

 ……ああ、そうだ。思い出した。私は、本当は――――


* * * * * * * * * * * * * * * * * *


 かなり気分がよかった。理由は単純、酒が入っていたからだ。

 付き合ってくれるほど仲のいい人もいないので、一人で何件もの居酒屋をはしごして。気づいた時には深夜どころか明け方だった。

 今なら世界征服できる気がする。手始めに、この歩道橋から制覇してみせよう。はっはー。見るがよい、花村樹里の大ジャンプを! 歩道橋よ、この必殺空中バク天側転宙返りひねり逆立ち前転跳びの前にひれ伏すがいい!


 すごい音したんだけど、ウケる。

 あっれー。なんか痛い? ドロドロして気持ち悪いー。ていうか立てないんだけど? どうするよ、これ。うわーやっぱり飲みすぎた?

 ……んん? なんか地面が変に赤くなってません? しかもこのシミ、どんどん広がっていくんですけど。私全然動けないし。なにこれおもしろっ! やっばー、心霊現象じゃん! 金縛りってやつ? これテレビに投稿したらお金もらえるかなー。

 なんか身体沈んでくし。シミの中に引きずり込まれてくぅー。まあいっか。どうせ戻れるでしょ。へいへーい、なるようになぁれ!


 ぅえ? どこよ、ここ。


 やだー。しみに吸い込まれて異次元来ちゃった? どーしよー。

 ていうか、なにこの人達。なんでみんなおそろいの白い服着てるの? 仲良しなの? うらやましくなんてないもんねっ。

 鎧の人達もたくさんいるけど、それ何のコスプレ? いいなー、混ぜて混ぜて!

 ……あ、仲間外れはっけーん。あっちのおっさんとおばさんとガキだけ服違うのね。こんな大勢にハブられてるなんて、おねーさん親近感湧いちゃう!

 

「……何がそんなに面白いんだ、化け物」


 え? おっさん今何か言――――ッたァァァァァァァッ!?

 ちょ、やめ、痛い、まじで、ごめんなさい、なんで? なに? なんなの?


「お前さえ来なければ、ジルは人のまま死ねたのに! ジルを、ジュリエッタを返せェッ!」


 だっ……たずげ……


「ジルの顔で、ジルの声で、私達に縋らないでっ! 貴方なんか、私達の娘じゃないわ! 貴方はただの、ジルの皮をかぶった化け物よ! 助けてほしかったら、まず貴方がその身体から出ていきなさい!」 


 あああああああ痛い痛い痛いよぉぉぉ……。

 ちょっと待って、ねえまじでこれなんなの。


「姫巫女から離れろ、フィオーレ公爵!」

「離せ! 無礼だぞ! 薄汚い狂信者どもめ、私を誰だと思っているのだ!」

「今この場で一番の無礼者はそなただ! 我らが奇跡の姫巫女に、何をしている!」

「それの何が奇跡だ! ただの動く死体じゃないか! そのような穢れたものが神の奇跡だなどと、笑わせるな!」

「……やはりそなたは異端だな。おい、連れていけ!」

「ヴィクトル様! やめて、ヴィクトル様を連れていかないで!」

「公爵夫人!?」

「夫を返して、返してよぉ! どうして、どうして神殿は私からジュリエッタもヴィクトル様も奪っていくの!? 今度はなぁに!? 私の命!? それともルクレツィア!?」


 なにあのおばさん。頭おかしいの?

 さっきのおっさんはこのおばさんの旦那って事は……うっわ、やばい奴ら同士でくっついた夫婦じゃん。

 公爵とかギャグじゃなくてまじで言ってるの? じゃあ白い人達は? 医者か何か? あの人達の妄想に付き合ってあげてるとか?


「や、やめてくださいまし……お父様とお母様を、つれていかないで……ひどい事を、なさらないでぇっ……!」


 あーもうぎゃんぎゃんうるさいなぁ。ちょっと、誰かあの子黙らせてよ!


「おっ……お姉様は、そんなひどい事、おっしゃらない、わ……! やっぱり貴方は、お姉様の、に……偽物なのね……!?」


 あっ、そういえばあのうるさい子って、さっきのおばさんとおっさんの娘? それってある意味サラブレッドじゃん。もしかして一番やばい?

 どーしよー。ねえお医者さん、私ってどうしたほうがいい? やっぱりオトナの対応で、話を合わせとくべき?


「い、医者? いいえ、私は医者では……」


 あ、そーなの? なーんだ。まあなんでもいいや。

 ……あっ、うるさいのも連れてかれた。仕事早いねー。


「……姫巫女様にお伺いいたします。貴方の名前はなんですか?」


 なに、そのヒメミコって。まさか私まで妄想ワールドに巻き込まれてる? ちょっと、やめてよぉ!

 私には花村樹里って名前があんの! そこ、名前負けって言うな!


「ハナムラジュリ様ですね。では、先の家族の事をご存知ですか?」


 あんなヘンな人達、知ってるわけないじゃん! むしろこっちが聞きたいっての。


「わかりました。……引き継ぎの成功を確認。これで『浄化の奇跡』を終了する」


 じょーかのきせき? なにそれ? おいしいの?



 ――――そこで私の意識は途切れた。


*


「……ん」


 うわぁ、頭がめちゃくちゃ痛い……。どうやら飲みすぎたようだ。気をつけてはいたんだけど、つい羽目を外しすぎたらしい。無事にベッドの上で寝ているのが奇跡に思える。


「お目覚めですか、ジュリエッタ様」

「じゅ……?」


 なにその名前。というかこの人誰。なに人の部屋に勝手に……って、ここどこ?


「――ッ!」


 ああもう、二日酔いのせいで思うように動けない。頭ががんがんする。これはもう布団から出られそうにない。今日が休みでよかった。


「ジュリエッタ様、ご気分が優れないのですか?」


 この白い服の人、多分私に話しかけてるよね?

 えーっと……じゃあ、そのジュリエッタって私の名前? いやいや、冗談きつすぎでしょ。どうしてそうなった。エッタいらないから。私の名前は樹里、ジュリだから。これ以上黄色人種っぽくない名前にしないで!


「みず、ください」


 うぇぇぇ、脳内ツッコミしてたら悪化した……。水、水をよこせぇぇ。

 白い人はすぐに水をくれた。あー、冷たくておいしい。生き返るー。

 さて、そろそろ状況の把握をしよう。昨日の記憶はほとんどないところを見ると、この人に拾われたと考えるのが妥当だ。それならここはどこだろう。一般人の家……にしては豪華すぎるような。


「落ち着かれましたか?」

「……はい、ありがとうございます」


 ……うん? そういえば、やけに声がロリロリしくない? あれ? 私ってこんなに可愛い声だった?

 そういえばさっき水の入ったグラスを受け取ったとき、手が小さくなってたような……まだ酔いが抜けてないのかなぁ。


「無理もありません。あのような事があったばかりですから」

「あのような、事?」


 白い人ははっとした顔をする。どうやら今のは失言だったらしい。……だけどなんだろう、どこかが嘘くさい。なんというか……誘い受け? はっとした顔はそういうポーズで、本当は話を聞いてほしかったというか……。変なの。


「申し訳ございません。失言でした」

「何の事か、教えてください。そうしないと、何もできないから」


 酔った勢いで何か壊してたり、どこかの飲み代を踏み倒してたりしたら大変だ。自分の痴態を聞かされるのは結構な苦行だけど、これも身から出た錆だろう。


「……昨日の事でございます」


 昨日……昨日……だから思い出せな……あれ?

 行きつけのバーに行ったあとの記憶はすっぽり抜けてる……けど、そのあとに何の脈絡もない景色が混じっている。

 この人と同じ服を着た人達や、物々しい鎧の人達に囲まれたり、知らない男の人に殴られたり、知らない女の人に喚かれたり、小さな子供に泣かれたり。なにこれ。ていうか、みんな外国人?


「貴方達は、誰ですか……? その、白い服を、着てるのは……」

「我々は神官です。奇跡の姫巫女ジュリエッタ・フィオーレ様を保護するべく、神殿からまいりました」


 ますますわけがわからない。奇跡の姫巫女って何? ジュリエッタ・フィオーレって誰?


「じゃあ、鎧の人達に、連れていかれたのは……」

「貴方のご家族……いえ、家族だった者達です」


 いやいや、私の家族はあんな人達じゃないし。上京してからまったく会ってないけど、普通の日本人だよ。あの人達は金髪碧眼の外国人だったじゃん。ないない、ありえないって。

 なんかもう、ついていけないなぁ。いいや、顔でも洗おうっと。


「洗面所、どこですか?」

「ただいまお連れいたしますので、少々お待ちください」


 そう言って白い人は横たわったままの私を抱きかか……えっ!? 抱きかかえた!? 私みたいな成人してる女を小さな子供みたいに抱っこできるなんて、この人は巨人なの!?


 恐々としながら連れていかれた洗面所。その鏡には、白い服の男にお姫様抱っこされている金髪碧眼の美幼女(ただし満身創痍)が映っていた。すごい。美幼女ってほっぺとかおでこにガーゼ当てても、もとの可愛いさがわかるんだ。


 ……え、なにこれなんてファンタジー?


 こんな事されてるのは私以外にいないわけで。つまりあの金髪碧眼の美幼女は私で。

 なるほど確かに、この外見ならジュリエッタ・フィオーレっていう名前もすごくしっくりくる。

 だけどありえない。一晩でこんなに小さくなって、外見も変わっているなんて。

 まさか私、死んだとか? 花村樹里っていうのは前世の名前で、もうすでにジュリエッタ・フィオーレとしての新しい人生が始まっちゃってる感じ?

 それで、昨日……いや、今日? まあどっちでもいいや。とにかく、前世の意識が戻ったから、記憶が混乱してるの? 頭が痛いのも、二日酔いのせいじゃなかった?

 こんな事、現実ではありえない。腕をつねってみた。痛い。現実だ。ありえないけど、今こうやって起きている。それなら信じるしかない。


 ――――そっか。私、一度死んで生まれ変わったんだ!

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