罪
この部屋に来てからどれくらい時間がたったのだろうか。今後について説明をすると言ったものの、監獄さんは煙草をずっと吸っている。待ちくたびれて何度か床に寝っ転がって、ちゃんとした数は数えていないが、少なくとも7本は吸っている。8本目を吸おうとした時、監獄さんは手を止め、火をつけるのを止めた。
「悪いね。俺ヘビースモーカーなんだ。」
「謝るのがおせーよ。どんだけ待たされたと思ってんだよ。」
「あー。本当のこと言うと何から話せばいいか分からないから、それを考えながら吸ってたらこういう状況になってた。」
「なるほど。それなら仕方ない。・・・って思うとでも思ったか?つかこの世界にも煙草何てあるんだな。」
長い時間待たされたのと、ここが何処だか分からない不安もあり創の気分は最悪になっていた。
「煙草ねー。もう少ししたら分かるよ。」
もう少ししたらと言う言葉に引っかかった。
「何でもいいから早く本題に入ってください。」
「よし。始めるとするか。」
やっと本題が始まった。
「んーっと、単刀直入に言うと君はもう死んでいるよ。」
自分が死んでいる事などとっくに知っていたが、こうも単刀直入に言われるとキツイものがある。
「それは自分でも知ってますよ、、、。」
少し俯きながら返答した。
「どうした?元気がないじゃないか。」
「元気があるわけないじゃないですか。死んでるんですよ。はい、死にましたーっておちゃらけて言える人間が何処に居るんですか?」
少しは慰めて欲しかったのか全く見当違いの言葉が感に触れ、怒りに任せ大きな怒鳴り声を上げた。
「あれ?おかしいなー。君は確か殺された時、死んでもいいやって思ったよね?何でそう思った君がそんなに怒っているんだい?」
さっきまでのにこやかな顔が嘘のように、恐怖に満ち溢れた顔で創を睨みつけた。しかし、返す言葉が見つからなかった。確かにそう思ったのは事実だ。それより、心の中で呟いた事なのに、監獄さんは知っていた。その時気付いた。こいつにはすべてが読まれていると。
「そう思ってしまった事がこの世界への扉を開けてしまった原因なんだよ。」
いつの間にか監獄さんの顔は笑顔に戻っていた。
「扉を開けた・・・?」
「そう。要するに鍵だね。ここは自殺などをして自ら命を捨てた者たちが来る場所で、その償いをさせる場所なんだよ。まぁまれに君みたいな人も来る時があるけど、極めて珍しいケースだよ。」
「って事は、俺が殺された時、死んでもいいやって思ってしまった事がここに来る鍵となり、そしてその償いをさせられるって事か?」
「君理解がはやいねー。ただ君の場合命を捨てたじゃなく、命を諦めただね。」
「っで、何の償いをさせられるんだ?」
「ガツガツ来るねー。君みたいに前向きな子は久々だよ。」
「いいから早く教えろ。」
「えーっと、未解決事件を解決してもらう事だね。」
「何の未解決事件だよ?」
「さっきまで君がいた世界のだよ。」
「・・・はっ?」
「はっ?じゃなくてさっきまで君がいた世界の未解決となっている事件を解決するんだ。君に与えられた件数は・・・8件だね。」
「いやいや。まずどうやって俺は甦るんだよ。それに知り合いにあったら死んだはずの俺がいたら気持ち悪いし、それに8件何て絶対に無理だよ。何なんだよこのミッション。」
与えられた条件がわけわからな過ぎて創はパニックに陥った。
「ミッションじゃねーよ。これは君の罪だ。生前起こした罪なんだよ。これでも少ねー方なんだぞ。出来ねーじゃねぇよ。やるんだよ。」
またもや監獄さんの人相は悪くなっていた。逆らうと殺されるかもしれないと思い創は強引にそれを受け入れた。
「だけどいくら未解決事件でも死んだ奴はこっちの方の世界に来てんだろ?だったら直接聞けばいんじゃねーの?」
質問に間違いは無かった。しかしそんな理屈は通らなかった。
「この世界には君の用に死んだ人間が捜査する人と、元々こっちの世界の人でここで未解決事件を捜査する奴らがいる。」
「あんたもこっちの人間なのか?」
「それは君は知る必要のない事さ。」
確かにこの罪を解消すれば創はこの世界から出れる。そう思った創は監獄さんの言葉に返事は返さなかった。
「そしてその事件を解決するために事情聴取もするんだが、死んだ人間は記憶が曖昧だ。だから中々捜査が進まない。っで、その事情聴取出来る奴らの事件を担当するのがこちら側の人間で、事情聴取出来ない奴らの事件を担当するのが死んだ人間のお前たちだ。」
「それは普通に考えて、かなり捜査が難しい方を僕らがやるって事ですよね?」
「その通り。しかたねーよ。罪なんだから。」
「でもその事情聴取出来ない奴らって何なんですか?」
「子供だよ。親より先に死んでしまった奴らだよ。そいつらは一生その罪を背負わされ、賽の河原で石を積まされる。すべて積み重ね終わる時になると鬼が来てそれをぶち壊される。一生報われることのない作業だ。」
「そんな・・・そんな事ありなのかよ。そんなんじゃあいつらが・・・」
「可哀そうだと思うな。そう思うといつかお前も喰われるぞ。だからそこにいる奴の未解決事件を解決すれば少しは刑が軽くなる事があるんだよ。
「俺・・俺絶対解決して見せます。」
その眼差しは輝いていた。今まで何に対しても無力だった創が涙を流し、大声で約束した。
「ちょっと間違えれば君もあっち側の人間だったんだよ。」
「えっ?」
「ただ君には両親がいない。それが救いだったな。」
「親からの最後の贈り物か・・・悲しいもんだな。」
すると監獄さんは立ち上がった。
「そうと決まればまずお前の部屋に案内するよ。」
「部屋何て何処にあるんだよ。」
「ん?あぁここにはないよ。ここは訪問者の館だから。ちょっと待ってな。」
そういうと監獄さんは蝋燭の明かりの方まで行きそっと伸ばすと丸い入口らしき物が現れた。
「ここ。ここを通ると外に出られる。さぁ来いよ。」
「すげーなこりゃ。」
初めて目にする能力に好奇心が収まらなく、喜びながら出口へと向かった。
「あっ。あとお前らの事こっちではこう呼ぶから。」
「何て?」
「冥界探偵」
仲良く話しながら訪問者の館から出て行った。