終わりと始まり
創は家に帰ると、二階にある自分の部屋へ行きベッドに横たわった。部屋にはベッドに机、本棚、必要最低限のものしか置いていない。
創は幼い頃、父親と母親を事故で失い、一旦施設に預けられたのだが、親戚の家で生活出来るならそっちの方が環境も教育にもいいと言うことで、殆ど面識のなかった母方の方の親戚へ預けられた。しかし、それが大きな間違いであった。叔父と叔母には一人息子がおり、そちらにしか愛情はいかなかった。それが故に愛情を受けずに育ち、お世話になっている罪悪感から、我儘も言わず感情を押し殺して、無で生活してきた。そうしたことが捻くれた性格へと導いたのかもしれない。
この間、図書館から借りた本を鞄から取り出すと、再び布団に横たわった。
何時間たったのだろう。創は本を読みながら寝てしまった。時計を見てみると0時5分だった。お腹も減っていなく、特にすることも無いのでこのまま二度寝してしまおうと考えた時だった。
「ガタガタ」
一階で何やら音がした。窓から庭を見てみるが叔父と叔母の車が無い。一人息子である新は全寮制の学校に通って居るからこんな時間にいるはずもない。 「まだ仕事から帰ってきてないのか。何か倒れたのか?」
布団から起き、物音がした台所へと向い電気をつけた。特に変わった様子は無かった。
「・・・聞き間違いか。」
電気を消し、部屋へ戻ろうと台所の扉を開けた時だった。
「グサ・・・」
今までに感じた事の無い痛みが、創の体を襲った。背中に手をやると包丁が刺さっていた。蛇口を閉め忘れ水が少し垂れているような感じで血がポタポタと床に垂れ始めた。
「う、、、あっ、、、。」
想像以上の痛みに耐えれずにそのまま床に倒れこんだ。
「くっそ、、、誰だ、、、。」
薄れゆく意識の中最後の力を振り絞り叫んだ。もちろんの事だが返事は無い。
「(俺の人生これで終わりか。母親も父親もいない。退屈すぎた日常。これでよかったのかな。次生まれ変わる時は、もっとましな人生を送れますように)」
そう最後に心の中で呟くとそのまま心臓の音が止まった。
こんな事が無ければ、後何年生きれたのだろう。地獄と天国どちらに行くのだろう。閻魔大王は本当にいるのだろうか。今まで死んでいった人に会えるのだろうか。
創は目を開けた。するとそこは暗い部屋のような場所だった。
「ここは何処だ?俺は生きているのか?いや、、死んだはずだ。うっ、、。」
死ぬ間際の事を思いだそうとすると、突然頭が痛みだした。
「何故だ。思い出せない。」
創はパニックに陥った。
「安心しな。君は死んでるよ。」
突然暗闇から声がした。声が聞こえたのと同時に部屋の周を丸く蝋燭の火が明かりを灯した。
「誰だ。」
突然暗闇から声がしたので、創は恐怖と混乱に陥って怒鳴り声をあげた。
「ごめんごめん。驚かすつもりは無かったんだよ。僕はここの番人の物だ。これからお世話になるから自己紹介をしたいのだけど、僕には名前が無い。まぁ、みんなは監獄さんって呼んでくるけど。」
「監獄さん?」
「んーやっぱそれしかないのかなぁ。まぁそれでいいよ。で、君の名前は?」
「煉獄 創ですけど。」
「んじゃ、はじめちゃんね。よろしく。」
手を差し伸べてきたので、そのままの流れで握手をした。
しかし、気になる事があった。
「えっ?これからお世話になるって何かあるんですか?」
「もちろんだよ。その話を今からするからよく聞いといてね。」
そう言うと監獄さんは座り込んだ。
これが彼との出会いだった。この時はまだこれから長い付き合いをしていくとは思いもしなかった。終わりから始まりが来るなんて。