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08.第二回会合(前編)

 マナがヤレイの家に来てから三日。

 百年祭に向けた会合は早々に二回目が招集され、ヤレイはあわただしく支度をしていた。


 通常であれば、このように短期間で連続して会合が行われることはないのだが、それが必要なほどの事態が発生したというのがミライから来た連絡だ。

 もしかしたら、マナのことではないだろうか? と一瞬不安になるが、彼女はこの三日間家の外に出ていないはずだし、多人数分の食料の買い出しで怪しまれないように買い物は何回かに分けて、しかも場所を変えるようにしている。


 もちろん、それが怪しまれるようなことがあれば上手にごまかすようにしているし、もっと言えば女ものの服を買い与えるということは一切していないというほどの徹底ぶりだ。


 ただ、それでもなお不安は残る。


 そもそも、他種族が紛れ込んでいるという情報が出回っている以上、マナのことを探している公算が高い。それでもなお、見つからないとなると誰かがかくまっているという可能性に行きつくのはとても簡単だ。

 もちろん、議題がそれであるとは限らないのだが、どうしてもそうした不安がヤレイの中に残っていた。


「……ヤレイ? どうかしたの?」


 準備をしている途中で手を止めたヤレイにマナが声をかける。

 彼女の表情は相変わらず無表情のままで何を考えているのか全く読めそうにない。


 ヤレイはその顔をしばらく見つめた後、再び準備をする手を動かし始める。


「なんでもない。それよりも、今日は二回目の会合で一日家を出る」

「わかったわ。まぁ家から出るつもりはないから安心していってらっしゃい」

「……言われなくてもそのつもりだ」


 マナが家から出ようとしないのはこの三日間で十分確認できた。

 ずっと、この家にいるのでは息苦しくなるのではないかと心配もしているのだが、だからといって外に連れ出すわけにもいかないのでそういったことは考えないようにしている。

 ヤレイは準備をしながらもう一度彼女の姿を確認してみる。


 マナはなにが面白いのか折り紙に熱中していて、ヤレイの視線に気づく気配はない。


「なんだかそればっかりやってるな」

「えぇ。あなたも最初は興味を持っていたじゃない」

「最初はな。さすがにやり続けると飽きる」

「飽きっぽいのね」

「そうかもな。それじゃそろそろ行くから」


 そんな会話を交わした後、ヤレイは荷物を抱えて家を出る。


「行ってらっしゃい」


 マナの消え入るような声を背にヤレイはい自宅を出て集会所へと向かった。




 *




「やはり、このことは早めに片付けた方がいい」

「しかし、あまり焦りすぎるというのも……」


 第一回の会合よりは早く到着したつもりが、すでに議論は白熱していた。会話の内容を聞く限り、ほぼ間違いなく“緊急の案件”とやらについて話をしているのだろう。


「よう。ヤレイ。今回はぎりぎりじゃないんだな」

「前回も一緒にぎりぎりだった奴に言われたくない」


 前回の反省からか、すでに席についていたアレイとあいさつを交わし、ヤレイは自分の席に着く。


「それにしても、いつから話し合いが始まっているんだ?」

「十分ぐらい前に来たがすでにこの状態だ。ミライあたりにいつぐらいに来たらいいか聞いてみたらどうだ?」

「まぁそれもそうだな」


 ミライの方へと視線を向けてみると、彼女は熱心に議論を交わしていて、こちらに気づく気配はない。

 とりあえず、状況だけでもつかもうと皆の話に耳を傾けるが、やはり途中からではいまいち話が理解しきれない。


「あぁアレイ、ヤレイ、来たのですか」


 会場に入ってから五分ぐらいしたころ、ようやく二人の存在に気づいたらしいミライが歩み寄ってくる。

 彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、手に持ったメモをヤレイに渡す。


「今日の会議資料とこれまでの話に関するメモなのでした。今日は予定より早く集まった皆さまから順に話をしているうちにすっかりとこの状態になってしまったのでした」

「なるほどね……いつぐらいに来ればそれに間に合うかな?」

「……私も途中参加なのでそのあたりはわからないのでした。でも、とりあえず会合に遅刻しなければ何も問題はないのでした」

「まぁ確かにそうかもしれないが……」


 ミライの言葉は間違っていないのだが、それでも議論に最初から入れなくていちいち補足してもらうというのもなんだかやりづらい状況だ。


「まぁでも、この調子だと会合の開始時間がどんどんと早まりそうだし、時間通りに来るのが一番かもな」

「えぇ。私もそれをお勧めするのでした。さて、もう一つ始まるまでに一つ補足説明をさせてもらいたいのでした」

「補足というと?」

「今回の議論の内容なのでした」


 ミライからそう告げられると、ヤレイだけでなくアレイもごくりと生唾を飲み込んだ。

 その態度に少なからず疑問を抱いたのか、ミライは小さく首をかしげる。


「そんなに緊張する必要はないのでした。とりあえず、簡潔に説明すると、今回の百年祭にエルフが介入を試みているということが判明したのでした。そうなると、先日の侵入者騒ぎもエルフの仕業である公算が強くなるのでした」

「……エルフ? エルフってあのエルフか?」

「はい。正確に言えば、エルフ商会がなのでした。地上の亜人の中でも特に強い権力を持つ彼女たちの介入というのは大きな事態であることに変わりありませんでした」


 ミライの言葉を聞いてヤレイは少し天井を仰いで考えを巡らせる。


 エルフ商会といえば、エルフの中でもエリート。いわゆる特権階級と呼ばれるエルフたちの集団だ。

 会長はもちろん、下っ端に至るまで選りすぐりのエリートで並のエルフよりも頭一つとびぬけた才覚を持っているとされる。

 そんな集団がどのような思惑で百年祭に介入しようとしているのだろうか?



「相手の目的はわからないままなのでした。元老院にも確認をとったようなのですが、元老院も寝耳に水といった状況みたいでした。本当に困ってしまったので、こうして緊急対応をしているのでした」

「なるほどね……それで緊急案件か……でも、相手の意向というか、狙いがわからない以上何ともならないんじゃないのか?」

「……それは皆承知しているのでした。でも、このまま何も言わずにただ受け入れるというのもまた納得できないのでした」


 そういうミライの目には確かに決意の色がはっきりと表れていた。


 それを見て、ヤレイは事態の重さを把握するとともにこっそりと心の中で安堵する。


「さて、それでは全員そろったことですし、対策会議を始めたいと思うのでした。かまいませんよね? 議長」


 ミライはゆっくりと立ち上がり、議長の方をまっすぐと見据えながら、議会の開会を提案した。

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