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04.ヤレイたちの意見

 グループで別れてテーマについて話し始めてから約二十分が経過した。

 それぞれのグループでは徐々に結論が出始めているのだが、アレイ、ヤレイ、ミライの三人の中ではいまだに議論が進行中であった。


「ですから、今回の百年祭のテーマは“未来へつなぐ”であるべきです」

「わかっていないな。テーマは“感動の共有による交流”にするべきだ」

「なにを言っているんだか。“伝統を守る百年祭”がテーマでしかるべきだ」


 上からミライ、ヤレイ、アレイの順に発言しているのだが、三人ともそれぞれ別の方向のテーマを提案しているため議論はなかなかまとまらない。

 ミライとアレイの意見はある程度近いようにも思えるが、名前の通り未来のことを見つめているミライと過去からの伝統を守ろうと主張するアレイでは少し意見が食い違う形になる。


「あと、五分です」


 そんな中、無情にも時間終了が近づていることを知らせる言葉がかかる。


「こういった大きな祭りごとというのは未来のことを見据えて行うべきです。いっそ、私たちが新しい伝統を作るぐらいの勢いで行きましょう!」

「いいや、伝統を守り、それを受け継ぐのが大切だ。これまでだってそうだっただろ」

「わかってないな。こういう時だからこそ、新しい出会いやそれに伴う交流があるべきだ。見知らぬドワーフ同士の交流。すばらしいとは思わないか?」


 しかし、そんなことすら無視して三人の議論は続く。

 別に一グループあたり一つと決められているわけではないのだから、三つ意見を出しても問題ないはずなのだが、三人は一つのテーマに絞ろうと必死になっていた。要するに複数意見があっても問題ない。もとい、複数意見があるほうが望ましいという考えが抜け落ちてしまっていたのだ。


「はい。終了です。各グループの方々は三十分で出たテーマの案すべてを紙に書いて提出してください」

「あっ」


 そして、委員長の横にいた男性のドワーフが声をかけたタイミングで三人はようやく、複数意見を出すべきだったという事実に気が付いた。

 どのグループとも、自分たちが出した意見をどんどんと紙に書いていく。


 ヤレイたちもいったん、固まってしまったがすぐに自分たち三人の意見を紙に書き始める。

 結果的に自分たちのグループはテーマを三つ提出することになり、少し少ないかと不安になったが、前に描きだされていく数を見る限りどのグループも一つから三つぐらいで自分たちが特別少ないわけではないと安心することができた。


「さてと……皆に意見を出してもらったわけだが、ここからテーマを一つに絞らないといかん。そこでその方法については投票を提案するがどうだろうか? そこで残った三つを候補として採用しようじゃないか」


 意見の数もそれなりにあるので議論をして減らすというのはなかなか難しいところがある。

 だからこそ、まずは多数決でふるいをかけようということなのだろう。


 その議長の提案について異論は出なかったため、委員長は自分たちの横に座っている二人とミライを引き連れていったん部屋から退室していく。


「なぁなぁヤレイ」


 その様子を見ていたアレイが声をかける。


「なんだよ?」

「なんだよじゃない。あのミライっていうやつ。何者なんだ?」

「……さぁね。一応、“平等”に選出されてここにいる以上は偶然あの委員長と知り合いだったか、俺たちがいない間にある程度役割を決めていたかのどちらかしか思い浮かばないな」

「そのぐらいだといいが……」

「まぁ俺としてもそんなところだ」


 二人は改めて四人が出ていった扉の方に視線を送る。

 ヤレイの記憶が確かならば事前説明の時にあの扉の先には個室があると聞いていたはずだ。


 つまり、四人は個室で投票箱と投票権を作っているということなのだろうが、なぜわざわざ四人だけで行ったのだろうかという疑問もまた新たに生まれる。

 もっとも、意見を出した人たちは皆、ここにいるのだから勝手に意見を削除したところで気付かれるわけがないのだが、どうしても何かがあると勘ぐってしまいたくなるのは考えすぎだろうか?


「考えすぎだな。忘れてくれ」


 ヤレイが思考を深める横でアレイはそうそうに思考することを放棄して別の人に声をかけて雑談を始める。


「まったく、自分で振っておいてなんだよ」


 その一方でアレイからの言葉がきっかけでいろいろと考え始めてしまったヤレイは彼に聞こえない程度の音量で悪態をつく。

 当然ながらアレイはそれに気づくことなく、気が付けば今度は近くにいた別の女の子に声をかけている。


 すっかりと忘れていたが、アレイはかなり女好きだ。

 その割にはミライを口説かなかったのは彼女の見た目が幼すぎて彼の好みから外れていたからだろうか? それとも、ミライから手を出しがたいような何かを感じ取ったのだろうか?

 いずれにしても、彼が女好きだという事実は変わらないのでヤレイはおとなしく、冷ややかな視線を送っておくことにした。


 今となっては朝、アレイが少々焦りながら来たのは少しでも早くこの会場に来て女の子に声をかけたかったからではないだろうかとすら思えてくる。

 それだったら怒りだとかそういう感情を通り越してあきれてしまう。


 まったく、困ったものだ。


 困ったといえば、昨日拾ったあの子はちゃんと留守番をしているだろか?


 ヤレイの思考がそちらへと傾き始めたとき、個室の扉が開いて中から投票箱を持ったミライと投票権を持った男性二人、そして委員長が出てきた。


「お待たせいたしました。これより投票権を配りますので前に書いてある候補からいいと思うものを三つ選んで書いてください。上位に残った三つの中から最後の一つを決定します」


 今の説明を要約すれば、一つだけ書いてくださいだと自分が書いた意見に投票するという人が大半で票が分散する可能性がある。その一方で現在の出ている意見の数から一人当たり一つか二つぐらいまでしか出していないだろうから、三つ選んでほしいといえば自分の出した意見以外で一つから二つぐらいは選ぶので必然的に人気のある意見に票が集まっていくということなのだろう。

 ちゃんと方法について議論を交わしていたようだ。


 ヤレイがごちゃごちゃと考え事をしている間に委員長は委員長席に戻り、ミライはその横に投票箱を持って立つ。

 その間に男性二人が一人につき三枚ずつ投票権を配っていく。


「それでは投票用紙に記入を開始してください。十五分後に投票を開始します」


 ミライが宣言すると皆、自らの席に戻り記入を始める。

 ミライもいったん席に戻って机の上に置いてあった投票用紙に記入を始めた。


「どれにしようかな……」


 すでに自分の意見を描き終えたヤレイが小さな声でつぶやく。

 正直な話、他のところで出てきた意見というのは自分たちが出した意見と割と似たり寄ったりなので含まれた意味というよりも言葉の響きで選ぶべきかもしれない。


 ヤレイはそう考えて、続いて二つ目、三つ目とテーマを選んでいく。


 アレイやミライはすでに決め終わったらしく、すでにペンを置いていた。


 ヤレイが投票用紙の記入を済ませたころにはミライは委員長の横に戻り投票箱を抱えていた。


「これより投票を開始します。皆さま、投票をお願いします」


 ちょうど、タイミングよくかかったミライの声にこたえるような形でヤレイが立ち上がる。

 それと同じようなタイミングで約半数のドワーフが席を立つ。


 おそらく、残っている人たちはいまだ意見を決めきれていないのか、いまだに票を記入していたりする様子が見受けられる。

 ヤレイはそんな風景を横目に見ながら自らの票を投じた。

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