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エピローグ

 百年祭が始まってから早数時間。

 あまりの忙しさに催し物を見る暇さえなく、百年祭は閉会式を迎えていた。


 開会式と同様に舞台袖に陣取ったヤレイはそこから舞台の様子をうかがう。


 舞台上では開会の時と同様に元老院の長老たちが長々とあいさつをしている。


「開会のあいさつをあれだけしたというのにまだあいさつをするとは元気なりね」


 もう少し言えば、すぐ横にカシミアがいて、開会式の時と似たり寄ったりな文句を述べている。


「あのーシルクさん」

「なんなりか?」

「私が呼び出された要件ってそろそろ聞いても……」

「ダメなり。例の場所以外では話さないなり」


 一応、ダメ元で呼び出された理由を聞いてみたものの、彼女は答えることなくその場から立ち去ってしまう。


 見れば、ちょうど彼女が挨拶をするタイミングだ。彼女はスタスタと歩いて舞台の中央にたつ。


「えー今回は楽しませてもらったなり。以上」


 それだけを言うと、彼女は周りの歓声やら文句やら何から何まで無視をしてそのまま舞台から降りてヤレイの方へと戻ってくる。


「もしかして、開会の時も……」

「聞いていなかったなりか? まぁいいなり。あとでちゃんと来るなりよ」


 あまりにも短いあいさつを終えた彼女はそのままどこかへと立ち去っていく。

 ヤレイはその後姿を見て、深く深くため息をついた。


 そのあとは再び元老院の長老たちによる長いあいさつが続き、そのたびに歓声やら拍手やらが聞こえてきて、それに調子づいてさらに話を続けるという状況が続く。

 何がたちが悪いかといえば、閉会式には開会式と違って時間が決められていないので長老たちは自分たちが話したいだけ話し続けているのだ。そんな調子ではいつになっても閉会式が終わらない。やはり、今回こそは終了時間をきっちりと決めておくように提言をするべきだった。


 ヤレイはそんな後悔をしながら舞台袖からその様子を伺っていた。




 *




 閉会式が終わるころにはすっかりと時間は夜になっていた。

 ヤレイは早々に片付けから抜け出して、自宅へと向かっていた。


 カシミアとの約束はあるものの、こちらに関しても明確な時間は決めていないため、先にミルからしっかりと話を聞いておこうと考えたためだ。


「それにしても今回は本当になんだんだ……」


 ミルを町のはずれで拾ったことに始まり、エルフの介入やらその親玉からの呼び出しやらいろいろなことが起きすぎている。


 どれもこれも何かに起因するのかもしれないが、それがわからない以上はそのヒントを持っていそうな気がする彼女にはしっかりと話を聞いておく必要がある。


「今帰ったぞ」


 走って帰ってきたせいで息がすっかりと上がってしまっているが、ヤレイは家の扉を勢い良く開けて中に入る。

 しかし、中の灯りは消えていて、そこには誰もいなかった。


「ミル? どこにいるんだ?」


 嫌な予感がする。

 そんな施行を必死に振り払ってヤレイは家の中へ中へと入っていく。


「おい! ミル! 返事をしてくれ」


 まさか外に出たのだろうか? いつ、どのタイミングで、どうやって……別の家の外から施錠をして閉じ込めていたわけではないのだが、彼女は状況をよく理解して家の外から出ることはなかったはずだ。しかし、現に彼女は家にいない。それはなぜだろうか?


 いろいろと思考を巡らせるが答えは出そうにない。


 あるとすれば、何かしらの理由で外に出なければならくなったか、何者かに連れ出されたかという可能性なのだが、いずれにしても百年祭という祭りが行われ、多数のドワーフたちが町を出歩ている状況の中町を出歩けばいやでも目立ってしまう。そうなれば、祭りの大会本部にいたヤレイの耳にも情報は入るだろう。


「まさか、カシミアか?」


 ふと、エルフ商会の手による犯行だという可能性が頭の中をよぎる。


 ミルの口ぶりからしてエルフのことをよく知っているような雰囲気があったし、何よりも彼女とエルフ商会に関係があるのなら、自分が呼び出された理由もなんとなく納得ができる。


 ヤレイは自ら歩予感が外れてほしいと願いながら、カシミアが待っているであろう場所に向けて走り出した。




 *





「遅かったなりね」


 待ち合わせの場所に姿を表したヤレイの姿を見るなり、カシミアはそうつぶやいた。


「ちょっと、家に寄っていたからな」

「そうなりか。なら、説明は不要なりか? それとも、この状況でなお説明をする必要があるなりか?」


 串焼きを食べた後だと思われる金属の棒を八本ほど持ったカシミアはにやりとした笑みを浮かべてヤレイの姿を視界に収める。


「待ち飽きて、なんかの料理を余計に食べてしまったなり」


 そう言いながら串焼きの棒をヤレイに見せる。


 先ほどの質問とは全く違う話の内容にヤレイはペースをつかみ損ねるが、小さく深呼吸をしてから改めて彼女の方を見る。


「状況は理解しているつもりだ。ミルを……ミル・マーガレットをどこにやった?」

「……まるで私が彼女を無理やり連れていったみたいな言い方なりねぇ……私は、ちゃんと()()()()()で彼女を連れ帰るだけなりよ。まぁ今回はそのあいさつをさせてもらうといったところなり……まぁ本人にその気はないなりから、私だけが出てきているなりけれど」


 本人にその気がないからこの場にいないだけ。その言葉はどこまで信用に値するものなのだろうか? ヤレイとカシミアの間にある程度の信頼関係があれば、簡単にのみ込める事実と言えるのかもしれないが、残念ながら二人の間にそれはない。


「そんな言葉信じられると思うのか?」

「まぁこんな話を信じるとは思っていないなりね。だから、来てほしいといったなりが……」


 そう言いながら、カシミアは小さく息を吐く。それは間違いなく、ヤレイではなくこの場にいないミルへと向けられたものだ。

 この場にミルがいて、説明をすればすべてがちゃんと片付く。それは、ある意味で二人の共通認識だ。


「とにかく、納得してミルを帰してもらえないと困るなり」

「その言い方だと、彼女がエルフ商会の一員みたいに聞こえるがどうなんだ?」

「まぁある意味では一員なりな。正式に所属しているわけではないなりが……まぁなんというか、私はある人物に頼まれて彼女のお守りをしているなり。好き勝手動いていろいろなところに迷い込むから結構大変なりよ……それでもって、責任は取らずにこうやってすぐに放棄すると来たから厄介極まりないなり」


 そういいながらカシミアは深くため息をつく。


「そんな話そう簡単に信じられると?」

「ここまで話しても私が人さらいをしたと疑っているなりか? 私としては納得してもらうほかないなりが……それに、どうせこの祭りが終わった時点で彼女を地上に返すつもりでいたなりよね? だったら、あなたがリスクを背負うより、私たちに任せた方が安全ではないなりか?」

「……痛いところをついてくるな」


 確かにヤレイとしては彼女はいずれ地上に返すつもりでいた。いつまでの家にいてもらうわけにはいかないし、この町に人間がいるという状況はいささかリスクが大きい。

 そう考えると、ミルを無事日常に送り届けられるであろうこの提案は魅力的なのかもしれないが、いささか信用にかける。ヤレイは頭の中で必死に考えを巡らせて状況を整理する。


「……はぁやっぱり、私が出てこないとこじれるか」


 聞き覚えのある声がその場に響いたのはちょうどそんなタイミングであった。


「……ミル」


 ヤレイは聞こえてきた声に返事をすると同時に、カシミアの話が真実であるという可能性が自分の中で大きくなっていくのを感じていた。

 現に彼女は拘束されるわけでもなく、数人のエルフを伴って歩いているからだ。


「お別れの言葉がどうとかそういうのが面倒くさくてカシミアに任せていたのに……何この状況?」

「えっと……マーガレットが出てこないからこうなるなりよ?」


 明らかにカシミアが説明をしきれていないこの状況に立腹する様子を見せながら、ミルはヤレイの前までやってくる。


 そこからヤレイはミル自身の口からエルフ商会とかかわりがあることとエルフ商会の力を借りて地上へ脱出するということを聞く。

 ヤレイは若干の心配が残るものの、本人の口からその話が聞けたことでとりあえず納得し、ミルを地上へ送り出すことにした。


「……ミル。何か機会があったら……」

「えぇ。また来るかもしれないわね」


 彼女はそれだけ言うと、くるりと踵を返して歩き始める。


「迷惑かけたなりね。また会おうなり」


 それに続くような形でカシミアも歩き始め、数人のエルフたちもそれについていく。


 ヤレイはミルとの再会を望みながら、その軍団に背を向けて、自宅へ向けて歩き始めた。

 最後までお読みいただきありがとうございました。


 途中で長期間休載したりといろいろありましたが、何とか完結です。後日談を入れたり、エピローグを二分割にしたりといろいろ考えましたが、予告通り今回で最終回となります。


 本編に当たる「異世界鉄道株式会社」はまだまだ続いているのでこれからもどうぞよろしくお願いします。

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