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11.いつもとは違う幕開け

 エルフ商会の介入が正式に決まった後、ドワーフたちはエルフを交えた会合を何回も開き、いつもとは違う百年祭に向けて着実に準備を進めていた。


 そして、百年祭当日。


 いつもはドワーフだけが並ぶ開会式にエルフの姿がちらほらと混じっているなか、元老院の長老たちがあいさつをする。

 今回はドワーフ以外の種族が初参加であるということもあってか、長老たちのあいさつはいつもよりも気合が入っており、誰もかれも時間ぎりぎりまで話すものだから、ヤレイたちからすればいつ時間がオーバーするのかと冷や冷やしながら見つめている。もっとも、長年あいさつをしているせいか、時間間隔だけはきっちりとしているらしく、時間ぎりぎりのところでちゃんと話が終わるのだが……


「この度は百年祭を開催するにあたり……」


 長老のあいさつが続く中、準備に引き続きスタッフとして駆り出されているヤレイは舞台袖で大きなあくびをする。


「なんで、こんなに長老たちの話は長いんだ」

「仕方ないだろ。あぁいう老人たちには話したいことがいっぱいあるんだよ」


 長老のあいさつの長さに不満を述べるヤレイをアレイがなだめる。

 その横で一人のエルフがクスリと笑い出した。


「老人のありがたい話は長いなりか。なら、私はあいさつを短く済ませるべきなりな」

「えっあぁ失礼しました……」


 その話の内容からして、エルフの代表としてあいさつをする人物だろう。そうだとすると、失礼なことを言ってしまった。

 そう判断したヤレイはエルフの女性に向けて頭を下げる。


「いいなりいいなり。私も長い話はするのも聞くのも苦手なり。だから、ちゃんと話をまとめて短めに話すなり」

「えっと……はい。そうですか」


 相手がどんな人物かわからない以上、下手な接し方はするべきではないだろう。いや、相手の性格はともかくエルフの代表としてあいさつをするような人物なのだから、それなりの人物であるに決まっている。


「おっ話が終わったみたいなりな。そうなり。私はエルフ商会会長のカシミアなり。忘れないよう覚えておいてほしいなり。それでは」


 エルフ商会会長カシミア。そう名乗った女性はその場から立ち去っていく。


「あれがエルフ商会の……」

「会長か……」


 エルフの中でもエリート集団とされるエルフ商会。それをまとめ上げるのが、華奢な女性であることに二人は驚きを隠せない。


「俺、てっきり屈強な男がまとめ役だと思っていたぜ」


 そんなヤレイの横でアレイがぽつりとつぶやく。


「おいっそんな失礼なことを言って誰かに聞かれたらどうするんだよ!」


 ヤレイとしても内心少しだけ思っていたが、仮に彼女に聞かれたら失礼な言動だ。そう思って、ヤレイはアレイを注意する。


「大丈夫だって、そうそう聞かれやしないよ」

「何がそうそう聞かれないなりか?」


 大丈夫だと余裕の態度をとっていたアレイの背後から声をかけた。


「あーえっと……その声はカシミア……様? あいさつは?」

「様は違和感があるから、さんでいいなり。それと、あいさつはあなたたちの要望通り、()()()()終わらせてきたなり。それで? 何を話していたなりか?」

「えっと……その……」


 予想以上に速いカシミアの登場にアレイは少なからず動揺する。当然だろう。彼女がどこから話を聞いていたのか定かではないからだ。


「あーいや、会長がするあいさつというのはどれくらいの長さのものなのかなと二人で……」

「そうなりか。まぁ屈強な男じゃなくて悪かったなりな」


 ヤレイが必死になって思いついた言い訳をカシミアは鼻で笑い飛ばす。


「全部聞いてんじゃないですか」

「エルフの耳は地獄耳。よく覚えておくなり……私は次の予定があるからこれで失礼するなり。まぁお互いに祭りを楽しむなり」


 カシミアは残りのあいさつを聞くわけでもなく、手をひらひらと降りながらその場から立ち去っていく。


「なんだったんだ……」

「おい。また聞かれるぞ」


 全く持って訳が分からない。そもそも、カシミアが去って行ってから戻ってくるまでそこまで時間はなかった。一体、どんなあいさつをしてきたらこれほどの短時間であいさつを済ませることができるのだろうか? あとで聞いていたであろうドワーフ仲間に聞いてみるといいかもしれない。アレイはカシミア本人に聞きに行きそうだが、そんなことをしては話を聞いていなかったという証左になってしまうため、それだけはさせないように彼の行動には注意を払うべきだろう。


 そんなことを考えながら、舞台袖から舞台の方を覗いてみると、元老院の長が締めのあいさつをしているところだった。おそらく、カシミアのあいさつの後から始まっているだろうから、時間的にはかなり使っていることになる。


「……今年も開会式の時間ぎりぎりまでしゃべりそうだな」

「カシミア会長が短かった分余計にな」


 今回は手伝いで舞台袖にいてよかった。仮に部隊の前に座っていたらそのあいさつの間、立ち上がってほかのところに行くということができないからだ。ドワーフの百年祭の開会式と閉会式というのはかなり重視されていて、必ずすべての参加者が集まり、あいさつが終わるまで席を立たないのが伝統となっている。若いドワーフであるヤレイたちからすればいちいちあいさつなど聞いていられるかと思うのだが、そんなことを口に出せば、ヤレイたちより年齢が上の老人たちから年上の話をしっかりと聞くものだという説教をされてしまう。


 ヤレイたちが舞台袖で今か今かとあいさつが終わるのを待っている中、二人の予想通り元老院の長のあいさつは開会式の時間ぎりぎりまで続き、ヤレイとアレイはその後始末に追われることになる。その内容としては主にスケジュールの組みなおしと、それの周知徹底だ。別に時間をオーバーしたわけではないのだが、開会式の時間がぎりぎりまで伸びてしまったために、開会式のあいさつの後から準備を始めるはずだったものの準備が追い付かなくなってしまったのだ。開会式も一応、締めのあいさつのあとに今回の祭りの流れや催しの案内をする予定だったので、それも当初よりも短くまとめて発表する。


 そんな状況の中、ヤレイもアレイもバタバタと走り回り準備を進めるが、そんな様子をカシミアは小さく笑みを浮かべながら眺めていた。別段、彼女は大切な来賓なのだから手伝えとは言わないが、なぜ舞台袖から来賓席に戻らずにずっとその様子を見ているのだろうか? いろいろな疑問が生まれるが、そんなことを聞いている暇はない。舞台袖であいさつの様子を見るだけだったヤレイたちも悪いといえば悪いのだが、今は非常に忙しいのだ。


 結局、開会式のごたごたを乗り越えて再びカシミアがいた場所に戻ってくる頃には彼女の姿はなく、自分たちの様子を見ていた真意を聞くことはかなわなかった。

 なお、一応来賓席の方を覗いてみても彼女の姿はなかったので、おそらく祭りを見物しに行ったか、エルフ商会のところに戻ったのだろうと判断してヤレイたちは仕事に戻る。


「さぁて。楽しむなりよーどこから行こうなりかなー」


 仕事に戻る最中、そんなのんきで聞き覚えのある声が聞こえたような気もするが、ヤレイたちは気にすることなく、その場から立ち去っていった。

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