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09.第二回会合(後編)

 開始前から活発に議論が飛び交う中始まった第二回会合は時間を追うごとにどんどんと議論が白熱していった。

 中でもミライはエルフの要求にやすやすと応じるべきではないと強く主張している。自身がエルフ商会から商品を仕入れているにも関わらず、その勢いはものすごいものであった。


 ただ、百年祭はドワーフの伝統的な祭りなのでそれを外部からの圧力により変更する可能性があると考えれば当然の反応かも知れない。

 その議論を見守りながら、ヤレイは小さく息を吐く。


 確かにエルフの介入というのは大問題かもしれないが、いくら議論を聞いていてもその内容について言及されていない。

 ただ単にエルフの介入をいかにして阻止するかという議論が繰り返されるだけだ。


 正直な話、ヤレイとしてはエルフの……それもエルフ商会の介入を完全に阻止するのは難しいと考えている。

 そうなれば、あえて受けいれて協調の道を歩んだらどうだろうかとも思うのだが、このあまりに白熱した議論の中でそんなことを言い出すような勇気はない。おそらく、そんな余計なことを言えば、最悪この場からつまみ出されるだろう。

 そう思えるほどに彼らは殺気立っているし、エルフ商会の介入を阻止しようと必死だ。ヤレイからすれば、どうしてそこまでムキになっているのか理解できないのだが……


「とにかく! 百年祭はドワーフのみの手で実行されるべきです! ほかの介入など信じられません!」

「しかし、相手が動き出している以上、どう阻止する?」

「それは……」


 しかし、以外にも会議の流れは議長の一言で変わりつつあった。


 反対だと声を上げている連中も正当な理由をあげられない以上、自分たちの主張を通すのが難しいと理解しているのだろう。

 結局、反対の理由として出てくる言葉は“伝統だから”や“過去に例がないから”という月並みなものばかりである。結局のところ、“防ぐにしてもどうすればいいのか”という点と“そもそも、エルフの介入による影響はどの程度のものなのか”という一番大事なところの議論が抜けているのだ。そうなれば、反対派が不利になるのはどう見ても明らかだ。


「……あの……エルフに対して条件を提示したうえで介入を受け入れるというのはどうでしょうか?」


 そんな反対派の勢いが弱まるのを待っていたかのようなタイミングで議長席の近くに座っていた女性が声を上げた。

 それと同時にいくらか静かになったとはいえ、まだまだ騒がしかった会議室が一気に静まり返る。


「……といいますと?」


 それを見届けた議長は女性の方を向き、話の続きを促す。

 すると、女性は小さく深呼吸をしてから立ち上がり、おずおずとしながら話始める。


「あの……今回の話ってエルフが介入するかもっていう話ですよね? だったら、その真意を探り、こちらとして問題がないような意図であれば受け入れるのもありかと……あぁと、別にこちらの不利益だとそれで判断できれば、介入阻止で動くのは賛成ですよ。でも、そもそも相手が介入を本当に目論んでいるのかとか、目論んでいるとしたらその理由は何なのかとかそういったことを調べないままこういった議論をするのはちょっと違うかなって思っただけで……その……」

「なるほど。たしかにその意見はもっともかもしれんな」


 意見を述べたはいいもののどうしたらいいかわからないといった様子の女性に議長が声をかけ、手で着席を促す。

 女性は少しほっとした様子でそれに従って元の席に座った。


「……とまぁこういった意見も出たわけだが、諸君はどう思う?」


 改めて議長は全員に問いかける。特に反対派として声を高々と上げていたミライやその他大勢に向けて、少々きつめの視線が向けられる。おそらく、“お前たちが騒がなかったら、この意見はもっと早く出たはずだ”というような意図が込められているのだろう。


「……私は賛成です。相手の意図を見極めるべきかと」


 ここにきて、ここぞとばかりにヤレイが声を上げる。

 別段、もともとどちらの意見に賛成ということもなかったのだが、受け入れるか否かを別にしても相手の意図もわからずに受け入れも阻止もない。それがヤレイの考えだ。


「確かに相手の意図……いや、それ以前に介入の話が本当かという確認をする前の議論ではなかったかもしれませんな」

「うむ。まずはこの話が事実かどうかの見極めが大切かもしれん」


 そんなヤレイの意見を皮切りに議論は一気にまずは状況を確認するべきだという方向へと傾く。反対の声を上げていた者でさえ、賛成までとはいかずとも状況の見極めぐらいはするべきだという方向に意見を転じるこの状況の変化に反対派の中心だった人々は戸惑うばかりだ。


「しっしかし、対策ぐらいは打っておかないといけないのでした……手遅れになる可能性もあると思うのでした」


 そんな中、ミライは意見を大幅に後退させつつも介入阻止の方向で意見を述べる。


「それはもっともなのかもしれないが、相手の状況がわからない以上、手の出しようがないぞ」


 もはや、議長の意見も情報収集ぐらいはするべきだという意見に傾いている。いや、もともと強硬な反対はではなかったから、腹の内は最初からこちらよりだったのかもしれない。


「……それでは各自、情報収集ということでよろしいかな?」


 その後、議論は驚くほどスムーズに進み、エルフがなにを意図してこのような行動を起こそうとしているのか、そもそも起こそうとしているのかという点について情報収集するというある意味の妥協点で落ち着いた。


 長い会合を終えた面々はそれぞれ仲間たちとともに帰宅し始める。


 その中において、一人……最後まで反対の声を上げていたミライはうつむいて座ったままだ。


「……えっと、ミライ? 大丈夫か?」


 早い段階で調査をするべきという意見を述べた自分が声をかけるのはどうかと思ったが、その様子を見て心配になったヤレイがミライの肩に手を置いて話しかける。


「……はぁ大丈夫なのでした。私も少し意地になりすぎたのでした。確かにエルフの意図を探るのは大切でした……それができればの話ですが」

「というと?」

「仮に奴らが裏で何かしようと考えているのなら、その尻尾をつかむのはほぼ不可能に近いということなのでした。それに、仮にそれが真実だと認めたとしても本来の意図を話すとは思えない。それが私がエルフに対して持っている印象なのでした。私は私なりにこれから情報収集をするのでした。それではこれで」


 ヤレイに対して、ほぼ一方的に意見を述べたミライはそのまますっと立ち上がり会議室から立ち去る。


 ヤレイとしては彼女の言葉の真意が気になり、呼び止めようかとも考えたが、彼女の態度を見る限りこれ以上の意見を引き出すのは難しいだろうと判断して踏みとどまる。


「……さて、俺たちも帰るか」


 ヤレイはすぐそばにいたアレイに声をかけ、帰り支度を始める。


 帰ったら、家にいるマナにエルフに対する印象でも聞いてみようか……


 そんなことを考えながら、ヤレイは会議室を後にした。

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